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【第三話】かつての英雄は…③
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しかし、それから何時間たってもその剣士は目を覚まさなかった。
「そろそろ目覚めてもいい頃合いなんだが……」
クーリドは、聴診器を取りだし、丹念に剣士の身体を診る。
「外傷は快方に向かっている……」
うーん、と、クーリドが腕を組んで唸る。そのうち、剣士が身動ぎした。
「……コルフ……ヒュー……気を付け……うっ、うしろっ……ああ、俺がっ……」
魘されては脂汗を浮かべる。苦しそうにもがいたあと、眠りについた。
「コルフ、ヒューというのは、人の名かな」
そうです、と、頷くのは村で生まれ育ったカイドだ。
「……この方が……いえ、我が国の英雄が、古の暴黒龍と対峙したときのパーティーメンバーの名前です」
「ああ。話には聞いたことがあるな。無名の中堅冒険者が、灼熱の獅子と呼ばれ、あちこちに銅像が建つほどの英雄となるきっかけになった、伝説の狩りだったな」
「はい。おれが生まれる前だから、20年くらい前かなぁ……」
王国は、たびたび王都を襲撃する凶暴な黒い古龍に悩まされていた。
王家も、剣士や騎士ギルドも、討伐隊を送り込んではいた。だが狡猾で人語すら解する古龍にまったく歯が立たず、夥しい死傷者を出すばかりで、これといった成果を上げられずにいた。
そんなとき「力で敵わぬのなら、共に生きる道を探ろう」と言い出した中堅の冒険者たちがいた。
「……彼らは激闘の末、古龍との対話の機会を得ました」
「その時点で、とんでもない奇跡だな。神に等しい古龍は人間と話すことすらしない」
「はい。そして、パーティーメンバーは、半年に及ぶ龍の巣での対話の果てに、古龍のみならず王国で生存している龍族との共存を取り付けた……と言われています」
パーティーメンバーの凱旋は、国を挙げてお祝いした。
だがそこに、コルフェーブルとヒューブルの姿がなかった。
勇敢な双子は、古龍との戦いで命を落とした――と、後に、王家が発表した。
古龍は、その後も人間との約束を守り続け、王国内の龍たちは王国の民に危害を加えることはない。
(まてよ……かつての龍の巣は今、禁忌の森と呼ばれているはず……)
そこは危険だらけなので、近寄ってはならないとされている。だが、近寄ったからといって罰則があるわけではない。
そこにしか生えていない薬草や素材をとりにいく冒険者はわりといるし、己の鍛錬や腕試し、珍しい素材採取のために森に入るパーティーはいる。
だが、彼らは森の入口あたりまでしか、行かない。いや、行けない。それは彼らが普通の冒険者だから、出てくるモンスターを倒せないのだ。
「特異攻撃……特異魔法……特異だらけだったな、あそこは……」
「はい。今、あそこの森を進んで、生きて出られる人はいないと言われています」
彼はーーこの剣士は、どこから来たのか?
患者の事情に深入りはしないと決めているため、英雄の足跡は辿らずにいた。だが、今回は探らねばならないだろう。
クーリドは、英雄の体にかけた布をそっとずらし、胸から腕にかけて広がる痣をじっと見つめた。
(そうか……。これは……わが国では使い手がほとんどいない、黒魔導師がかけた強力な呪い、か? あるいは強力な毒の可能性もあるか……)
思えばこの患者は、人並外れた冒険者なのだ。すなわち、彼が接する「敵」もまた、人並外れていてもおかしくない。
「通常の治療ではダメだということだな」
(龍の巣と、巣へ赴いたパーティーメンバーについて、調べなければならないな……)
「そろそろ目覚めてもいい頃合いなんだが……」
クーリドは、聴診器を取りだし、丹念に剣士の身体を診る。
「外傷は快方に向かっている……」
うーん、と、クーリドが腕を組んで唸る。そのうち、剣士が身動ぎした。
「……コルフ……ヒュー……気を付け……うっ、うしろっ……ああ、俺がっ……」
魘されては脂汗を浮かべる。苦しそうにもがいたあと、眠りについた。
「コルフ、ヒューというのは、人の名かな」
そうです、と、頷くのは村で生まれ育ったカイドだ。
「……この方が……いえ、我が国の英雄が、古の暴黒龍と対峙したときのパーティーメンバーの名前です」
「ああ。話には聞いたことがあるな。無名の中堅冒険者が、灼熱の獅子と呼ばれ、あちこちに銅像が建つほどの英雄となるきっかけになった、伝説の狩りだったな」
「はい。おれが生まれる前だから、20年くらい前かなぁ……」
王国は、たびたび王都を襲撃する凶暴な黒い古龍に悩まされていた。
王家も、剣士や騎士ギルドも、討伐隊を送り込んではいた。だが狡猾で人語すら解する古龍にまったく歯が立たず、夥しい死傷者を出すばかりで、これといった成果を上げられずにいた。
そんなとき「力で敵わぬのなら、共に生きる道を探ろう」と言い出した中堅の冒険者たちがいた。
「……彼らは激闘の末、古龍との対話の機会を得ました」
「その時点で、とんでもない奇跡だな。神に等しい古龍は人間と話すことすらしない」
「はい。そして、パーティーメンバーは、半年に及ぶ龍の巣での対話の果てに、古龍のみならず王国で生存している龍族との共存を取り付けた……と言われています」
パーティーメンバーの凱旋は、国を挙げてお祝いした。
だがそこに、コルフェーブルとヒューブルの姿がなかった。
勇敢な双子は、古龍との戦いで命を落とした――と、後に、王家が発表した。
古龍は、その後も人間との約束を守り続け、王国内の龍たちは王国の民に危害を加えることはない。
(まてよ……かつての龍の巣は今、禁忌の森と呼ばれているはず……)
そこは危険だらけなので、近寄ってはならないとされている。だが、近寄ったからといって罰則があるわけではない。
そこにしか生えていない薬草や素材をとりにいく冒険者はわりといるし、己の鍛錬や腕試し、珍しい素材採取のために森に入るパーティーはいる。
だが、彼らは森の入口あたりまでしか、行かない。いや、行けない。それは彼らが普通の冒険者だから、出てくるモンスターを倒せないのだ。
「特異攻撃……特異魔法……特異だらけだったな、あそこは……」
「はい。今、あそこの森を進んで、生きて出られる人はいないと言われています」
彼はーーこの剣士は、どこから来たのか?
患者の事情に深入りはしないと決めているため、英雄の足跡は辿らずにいた。だが、今回は探らねばならないだろう。
クーリドは、英雄の体にかけた布をそっとずらし、胸から腕にかけて広がる痣をじっと見つめた。
(そうか……。これは……わが国では使い手がほとんどいない、黒魔導師がかけた強力な呪い、か? あるいは強力な毒の可能性もあるか……)
思えばこの患者は、人並外れた冒険者なのだ。すなわち、彼が接する「敵」もまた、人並外れていてもおかしくない。
「通常の治療ではダメだということだな」
(龍の巣と、巣へ赴いたパーティーメンバーについて、調べなければならないな……)
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