冒険者が集う村シューラルーン~剣と魔法とポーションと、あと聴診器~

酉埜空音

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【第二話】かつての英雄は…②

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 翌朝。
 診療所の奥、石造りの小さな手術室に、鉄の甲冑を脱がされて木綿の簡易服を着せられた剣士が横たわっていた。
「シェリーヌ、彼の様子はどうだ?」
「あまり良いとは言えません」
 硝子がはめられた四角い窓を覆う布の隙間から差す光の中で、呼吸は荒く胸が大きく上下しているのがわかる。
「脈はやはり速いな……毒の影響か、或いは、ショック症状か……」
「夜中に、解熱と痛み止め、それからブドウ糖を飲ませたので、少しは眠れたとは思いますが……薬効が切れるのが早いのが気がかりです」
 と、シエリナが言う。
「ああ、薬の吸収が早すぎるか。熟練冒険者によくある現象ではあるな」
 冒険者は、一刻も早く怪我や病を治す必要がある。そのため、ポーションや薬草、その他薬の成分をあっという間に吸収してしまう。熟練冒険者の中には、ごく少量のポーションで一気に大量の体力を回復する者もいるが、そのぶん、薬の効き目が切れるのが早いのが、難点だ。
 クーリドは聴診器で胸の音を丹念に聞いた後、手早く白い手袋をはめる。応急処置をした時に脇腹に貼った布をそっとはがし、傷口を確認する。
 肉が大きく裂け、骨が見える。命を落としてもおかしくないほどの、大怪我である。
 しかし彼が自分で簡易白魔法と薬草で処置した形跡があり、それが彼の命を守ったのは言うまでもない。
「シエリナ! 麻酔草を煎じた薬湯、準備はいいか?」
「ここにあります」
 シエリナが差し出した陶器のカップからは、薬草の強い香りが立ちのぼる。その傍では、カイドが懸命に、大鍋をかき混ぜている。
「ありがとう。いかん。シェリーヌ、魔法で血流をコントロールしてくれ。動脈からの出血だ、危ない」
「わかりました……《圧迫! 抑制》!」
 白魔法の光が傷口を覆い、溢れ出していた鮮血が一時的に止まる。
「よし、今のうちに……」
 クーリドは、王都にあるガラス工房に頼んで作ってもらった特製注射器に、薬湯と木の実から抽出した鎮痛成分や糖分を希釈して注入する。
 金属針が肌に刺さる瞬間、シェリーヌが目を丸くした。
「……やっぱり、不思議です。針で突き刺し、薬湯を流し込むだけで痛みが消えるなんて」
「これは、科学の力だ。大昔より知られている方法でな……」
 クーリドは短く答え、剣士の様子を見ながら点滴に似せて作った装置をセットする。
 そうしておいて、脇腹の処置を続ける。
 手術に必要な道具の一部は、往診バッグと一緒に、いつの間にか、診療所に出現していたものだ。前世愛読していた医学雑誌がなぜか今でも定期的に届き、時折、消耗品の道具や、あったらいいなと思っていた薬剤がどこからか届く。

 いったいこの世界がどういった仕組みになっているのか、不思議である。

「見つけた……骨折は二か所。固定が必要だが……」
 ボルトや金属プレートの類は、残念ながらない。それをシェリーヌに伝えると、
「私が癒しの術で補強します」
 と、微笑んだ。
「頼む。だが骨は魔法では完全に戻らない。副木も必要だ」
「はい、前回先生に習ったので、それも作れます」
 手早く木片と布で作られた即席の副木が差し出され、クーリドはそれを患部に巻き付けながら、思わず呟いた。
「救命救急では考えられなかったな……魔法と薬草と、そして科学がこうして一つになるなんてな」
「先生たちが時々仰るゼンセってやつですね? たしか、魔法がなかったんですよね」
「ああ」
 聴診器で呼吸音を見ながら、脈をとる。
「次は、解毒だ」
「はい、解毒剤です」
 カイドが緊張の面持ちでカップを渡す。
「これも、注射がいいだろうな」
 二度目の注射をしてまもなく、剣士の顔色がわずかに和らぎ、苦しげだった息が落ち着き始める。
 シェリーヌが、剣士の顔に浮かぶ汗を拭ったあと、自分の額を拭いながら安堵の笑みを浮かべた。
「先生……命は助かりそうですね」
「まだ油断はできん。だが……峠は越えたな。目を覚ますのを待とう」
「はい」
 診療所の面々は、心配そうな色を隠せないまま、横たわる英雄をじっと見つめた。

 
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