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:身代わり国王の執務ー2:
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一人で苦労しながら胸を潰し、シャツの袖や裾を調節し、なんとか男装を完了させる。
「よし!」
鏡を見ながら髪をぎゅっと結んで、宰相がどこからか見つけてきてくれた鬘をつける。
「髪型が違うだけで、雰囲気がずいぶん変わるのね」
仕上げにメイクで眉の太さや唇の色を調整する。男装が完了した以上、ローテローゼの部屋にはいないほうがいいだろう。午前中の予定を確認しながら、廊下を足早に歩く。
途中で何人ものメイドや衛兵にすれ違ったが、手を挙げて挨拶をするにとどめる。親しいメイドの顔を見つけてうっかり声をかけそうになり、慌てて言葉を飲み込んだ。
そうこうしながら王の私室へ滑り込むと、既にそこにはマティスが居た。
端正な顔の眉毛がキリリと吊り上がっている。
「おはようございます、陛下」
「おはよう……って、なんでマティス、そんなに怒ってるの?」
「よろしいですか、私は陛下の警護をする立場です。行先を告げずに部屋から消えるのはやめてください。私でなくとも心配します」
あ、と、ローテローゼは口を押えた。
「そうよね。ごめんなさい、警護がずっとつくということをすっかり忘れていたの。ごめんなさい」
「それに、俺が個人的に避けられたのかと――」
「あ、ごめんなさい! そんなつもりは全然なかったの。目が覚めて、薔薇が綺麗だったから、つい……いつもと同じように行動してしまったの。本当に、それだけよ」
胸元で手をあわせて、ごめんなさいと繰り返すローテローゼに、マティスの頬が緩む。
「では、お詫びとして――俺の願いを1つ聞いていただけますか?」
「な、なあに? わたしに出来ることかし、?」
「はい。簡単です。キスを賜りたいと思います」
え? と、ローテローゼが目を丸くする。
「してください、といって出来る方ではないでしょうから、俺が、勝手に頂きます」
顎を掬われて上を向かされ――あ、と思ったときには唇が触れて、すっと離れた。
「ローテローゼさま、ごちそうさまでした」
少しの間をおいて、ローテローゼの顔が真っ赤になった。
「わ、わたしは食べ物じゃないわよ!」
む、と、マティスがわざとらしく眉間にしわを寄せた。
「……そのうち、私があなたの全てを美味しくいただく予定ですので、誰にも食べさせないように。いいですね?」
「なっ……何をするつもり!?」
「その体を――甘そうな、柔らかそうな、美味しそうな体を隅々まで味わい尽くすのです」
マティスの手が、ローテローゼの腰をするりと撫でた。
「ひゃあ! ど、どこ、なんてことっ……」
「いい反応ですね」
そのまま抱き寄せて仕舞えばマティスの腕の中で真っ赤になっている。あのその、と、右往左往するローテローゼを見て、マティスがくすくすと笑う。
「可愛い」
「な、なにをっ……」
「陛下、戯れはこの程度にしておきましょう。もう間もなく、大臣たちの朝の挨拶の時間です。謁見の間へ参りましょう」
「……はぁい」
マティスに連れられて向かったのは、謁見の間。
通いなれた場所ではあるが、玉座に近寄るのははじめてだ。
幸い、というべきか。
謁見の間は、城が出来た当時からそのままの姿をとどめている。城内の多くの部屋が、利便性や快適性を求めて改装されているのだが、この部屋だけは、なぜか手つかずのままだった。
そのため玉座は階段を何段も登った高い位置にあり、更に玉座の前には視界を遮るための布が下げられていて、王の姿は臣下からはほとんど見えない。
「昔は王の権威を示すために、このように高い位置に王は居るものだった――と、学校で習ったわ」
「そのようになっている国も、まだまだ多いみたいですよ」
「姿が隠せても――声でローテローゼだとバレてしまうわね。高官ばかりだから、いいのかしら?」
「ご安心ください。本日より戴冠式が終わるまで、朝晩の挨拶と朝議の類は出来るだけ簡略化するとすでに諸官に伝えてあります。王は必要最低限の用事で済みます」
これは宰相の采配だろう。
「よかった、それなら身代わり国王のわたしにも務まるわ」
そういって背筋を伸ばして玉座に座ったローテローゼは――『王の顔』になっていた。
「よし!」
鏡を見ながら髪をぎゅっと結んで、宰相がどこからか見つけてきてくれた鬘をつける。
「髪型が違うだけで、雰囲気がずいぶん変わるのね」
仕上げにメイクで眉の太さや唇の色を調整する。男装が完了した以上、ローテローゼの部屋にはいないほうがいいだろう。午前中の予定を確認しながら、廊下を足早に歩く。
途中で何人ものメイドや衛兵にすれ違ったが、手を挙げて挨拶をするにとどめる。親しいメイドの顔を見つけてうっかり声をかけそうになり、慌てて言葉を飲み込んだ。
そうこうしながら王の私室へ滑り込むと、既にそこにはマティスが居た。
端正な顔の眉毛がキリリと吊り上がっている。
「おはようございます、陛下」
「おはよう……って、なんでマティス、そんなに怒ってるの?」
「よろしいですか、私は陛下の警護をする立場です。行先を告げずに部屋から消えるのはやめてください。私でなくとも心配します」
あ、と、ローテローゼは口を押えた。
「そうよね。ごめんなさい、警護がずっとつくということをすっかり忘れていたの。ごめんなさい」
「それに、俺が個人的に避けられたのかと――」
「あ、ごめんなさい! そんなつもりは全然なかったの。目が覚めて、薔薇が綺麗だったから、つい……いつもと同じように行動してしまったの。本当に、それだけよ」
胸元で手をあわせて、ごめんなさいと繰り返すローテローゼに、マティスの頬が緩む。
「では、お詫びとして――俺の願いを1つ聞いていただけますか?」
「な、なあに? わたしに出来ることかし、?」
「はい。簡単です。キスを賜りたいと思います」
え? と、ローテローゼが目を丸くする。
「してください、といって出来る方ではないでしょうから、俺が、勝手に頂きます」
顎を掬われて上を向かされ――あ、と思ったときには唇が触れて、すっと離れた。
「ローテローゼさま、ごちそうさまでした」
少しの間をおいて、ローテローゼの顔が真っ赤になった。
「わ、わたしは食べ物じゃないわよ!」
む、と、マティスがわざとらしく眉間にしわを寄せた。
「……そのうち、私があなたの全てを美味しくいただく予定ですので、誰にも食べさせないように。いいですね?」
「なっ……何をするつもり!?」
「その体を――甘そうな、柔らかそうな、美味しそうな体を隅々まで味わい尽くすのです」
マティスの手が、ローテローゼの腰をするりと撫でた。
「ひゃあ! ど、どこ、なんてことっ……」
「いい反応ですね」
そのまま抱き寄せて仕舞えばマティスの腕の中で真っ赤になっている。あのその、と、右往左往するローテローゼを見て、マティスがくすくすと笑う。
「可愛い」
「な、なにをっ……」
「陛下、戯れはこの程度にしておきましょう。もう間もなく、大臣たちの朝の挨拶の時間です。謁見の間へ参りましょう」
「……はぁい」
マティスに連れられて向かったのは、謁見の間。
通いなれた場所ではあるが、玉座に近寄るのははじめてだ。
幸い、というべきか。
謁見の間は、城が出来た当時からそのままの姿をとどめている。城内の多くの部屋が、利便性や快適性を求めて改装されているのだが、この部屋だけは、なぜか手つかずのままだった。
そのため玉座は階段を何段も登った高い位置にあり、更に玉座の前には視界を遮るための布が下げられていて、王の姿は臣下からはほとんど見えない。
「昔は王の権威を示すために、このように高い位置に王は居るものだった――と、学校で習ったわ」
「そのようになっている国も、まだまだ多いみたいですよ」
「姿が隠せても――声でローテローゼだとバレてしまうわね。高官ばかりだから、いいのかしら?」
「ご安心ください。本日より戴冠式が終わるまで、朝晩の挨拶と朝議の類は出来るだけ簡略化するとすでに諸官に伝えてあります。王は必要最低限の用事で済みます」
これは宰相の采配だろう。
「よかった、それなら身代わり国王のわたしにも務まるわ」
そういって背筋を伸ばして玉座に座ったローテローゼは――『王の顔』になっていた。
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