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:身代わりの戴冠式ー8:
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その後、マーリーンの指示のもと、ローテローゼは男装をしたものの、晩さん会までの公務はすべてキャンセルにした。
そして王の部屋にいると何かと人が訪ねてきてしまうので、マティスの部屋に移動することになったのだ。
その道中、二人はべったりくっついたままである。ただし、書類を山のように抱えているため、何事か相談しているように見える――かもしれない。
そして城中では、誰もかれもが走り回っている。忙しさゆえに誰にも見咎められなかったのは、不幸中の幸いだろう。
室内に入ってからも、ローテローゼは、マティスに絡みついたまま離れようとしない。
立っていれば抱き着いてくるし、座っていれば膝に乗ってくる。
ローテローゼは華奢で軽いとはいえ、歩きにくいし仕事もしにくい。
それに、男装していても柔らかい体なのは隠しようがない。あらぬ熱が掻き立てられてしまうのでマティスは困惑していた。
「あー、陛下……」
「ん?」
「わたしは書類仕事をしますので……そ、その、お茶でも飲みながらご自由になさってください」
こくり、と頷いたローテローゼは、自ら薔薇を浮かべた紅茶を淹れ、マティスの前にも置いた。
「あ、ありがとうございます、うわ、陛下……!?」
マティスの声がひっくり返った。ローテローゼが、椅子に座ったマティスの膝に横座りに乗ってきてしまったのだ。
「へっ、陛下! あの!」
こてん、と、マティスの胸に頭を預けたローテローゼは、小さく身を縮めてご満悦だ。
子猫みたいで可愛い――と思ったのは一瞬のこと、薔薇の香りと、ローテローゼ自身の甘い香りが混ざり合い、マティスの理性を擽る。
――俺はきっと、何かを試されているんだ、そうに違いない!
そのうち、マティスは発狂しそうになった。
国王が己の腰に纏わりついているのである。
もっと詳しく描写すれば、両腕をマティスの体に回し、べったりとくっつき、片時も離れようとしない。
可愛い――を通り越して、由々しき事態である。
離れてくださいと突飛ばせばいいのかもしれないが、曲りなり、いや、身代わりとはいえ国王陛下であらせられる。うっかり突飛ばせば不敬罪にあたるかもしれないし、怪我をさせては大変だ。
「マティス……」
「は、はい」
「ふふ、ここは一番安心できるの」
「そ、そそ、それは何よりで……」
「安心できる男、鉄壁の守護者。頼りにしています」
「は、はひ……」
「マティスがそばにいてくれて、心強い限りです。今後はーーお兄さまをも、よろしくね」
この絶大な信頼を裏切るわけにはいかない。だが、頭ではわかっているが甘く馨しい色香が、マティスを惑わす。時折、もぞもぞとローテローゼが動くので、それが微細な刺激となってマティスをさらに悩ませる。
一方、ローテローゼは自分の大胆な行動に、自分で困惑していた。
マティスの傍にいるのが安心――これは、まぎれもない事実である。襲撃者があらわれたとき、騎士であり職務に忠実なマティスなら確実に自分を守ってくれると信じている。
そして、マティスとは片時も離れたくなかった。くっついていられるだけで幸せだったし、マティスに触れて欲しいとも思う。
――ああ、わたし、はしたないわ……。
書類を追いかける真剣な目、時折唇を舐める舌。
それらを見ているうちに、心臓が跳ねて体が熱を帯びてくる。
「あら……? マティス……どうしたの? ココが大きくなったわよ」
ココ、と。
ローテローゼが、ソレをむずっと掴んだ。
「ひゃあ! へ、へ、へ陛下!」
「ま、まぁ! さらに大きくなったわ……スゴいのね。布地を押し上げてるわ」
しまった、とマティスは狼狽した。ローテローゼが、興味を持ってしまった。はてさてどうしたものかと思案するうちにーーマティスは硬直した。
己の部屋の執務机で股間を露出させることがあるなど、思ったこともなかった。
「ね、もっと大きくなるのよね?」
「は、はい。このままではまだ、挿入はできません」
「そうなの……」
「所謂、半勃ちというやつです」
興味津々でローテローゼが――それを握っている。信じられない光景だが、現実だ。
白くて柔らかい手が、ゆるゆると動く。己の逸物は、たちまち凶悪なほどに硬く張り詰めた。
――俺は、安心できる男、鉄壁の守護者だ。
ローテローゼに擦られながら、マティスはそのフレーズを必死で繰り返していた。
そして王の部屋にいると何かと人が訪ねてきてしまうので、マティスの部屋に移動することになったのだ。
その道中、二人はべったりくっついたままである。ただし、書類を山のように抱えているため、何事か相談しているように見える――かもしれない。
そして城中では、誰もかれもが走り回っている。忙しさゆえに誰にも見咎められなかったのは、不幸中の幸いだろう。
室内に入ってからも、ローテローゼは、マティスに絡みついたまま離れようとしない。
立っていれば抱き着いてくるし、座っていれば膝に乗ってくる。
ローテローゼは華奢で軽いとはいえ、歩きにくいし仕事もしにくい。
それに、男装していても柔らかい体なのは隠しようがない。あらぬ熱が掻き立てられてしまうのでマティスは困惑していた。
「あー、陛下……」
「ん?」
「わたしは書類仕事をしますので……そ、その、お茶でも飲みながらご自由になさってください」
こくり、と頷いたローテローゼは、自ら薔薇を浮かべた紅茶を淹れ、マティスの前にも置いた。
「あ、ありがとうございます、うわ、陛下……!?」
マティスの声がひっくり返った。ローテローゼが、椅子に座ったマティスの膝に横座りに乗ってきてしまったのだ。
「へっ、陛下! あの!」
こてん、と、マティスの胸に頭を預けたローテローゼは、小さく身を縮めてご満悦だ。
子猫みたいで可愛い――と思ったのは一瞬のこと、薔薇の香りと、ローテローゼ自身の甘い香りが混ざり合い、マティスの理性を擽る。
――俺はきっと、何かを試されているんだ、そうに違いない!
そのうち、マティスは発狂しそうになった。
国王が己の腰に纏わりついているのである。
もっと詳しく描写すれば、両腕をマティスの体に回し、べったりとくっつき、片時も離れようとしない。
可愛い――を通り越して、由々しき事態である。
離れてくださいと突飛ばせばいいのかもしれないが、曲りなり、いや、身代わりとはいえ国王陛下であらせられる。うっかり突飛ばせば不敬罪にあたるかもしれないし、怪我をさせては大変だ。
「マティス……」
「は、はい」
「ふふ、ここは一番安心できるの」
「そ、そそ、それは何よりで……」
「安心できる男、鉄壁の守護者。頼りにしています」
「は、はひ……」
「マティスがそばにいてくれて、心強い限りです。今後はーーお兄さまをも、よろしくね」
この絶大な信頼を裏切るわけにはいかない。だが、頭ではわかっているが甘く馨しい色香が、マティスを惑わす。時折、もぞもぞとローテローゼが動くので、それが微細な刺激となってマティスをさらに悩ませる。
一方、ローテローゼは自分の大胆な行動に、自分で困惑していた。
マティスの傍にいるのが安心――これは、まぎれもない事実である。襲撃者があらわれたとき、騎士であり職務に忠実なマティスなら確実に自分を守ってくれると信じている。
そして、マティスとは片時も離れたくなかった。くっついていられるだけで幸せだったし、マティスに触れて欲しいとも思う。
――ああ、わたし、はしたないわ……。
書類を追いかける真剣な目、時折唇を舐める舌。
それらを見ているうちに、心臓が跳ねて体が熱を帯びてくる。
「あら……? マティス……どうしたの? ココが大きくなったわよ」
ココ、と。
ローテローゼが、ソレをむずっと掴んだ。
「ひゃあ! へ、へ、へ陛下!」
「ま、まぁ! さらに大きくなったわ……スゴいのね。布地を押し上げてるわ」
しまった、とマティスは狼狽した。ローテローゼが、興味を持ってしまった。はてさてどうしたものかと思案するうちにーーマティスは硬直した。
己の部屋の執務机で股間を露出させることがあるなど、思ったこともなかった。
「ね、もっと大きくなるのよね?」
「は、はい。このままではまだ、挿入はできません」
「そうなの……」
「所謂、半勃ちというやつです」
興味津々でローテローゼが――それを握っている。信じられない光景だが、現実だ。
白くて柔らかい手が、ゆるゆると動く。己の逸物は、たちまち凶悪なほどに硬く張り詰めた。
――俺は、安心できる男、鉄壁の守護者だ。
ローテローゼに擦られながら、マティスはそのフレーズを必死で繰り返していた。
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