【完結】身代わりで男装した王女は宮廷騎士の手で淫らに健気に花開く

酉埜空音

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:厄介なお客さまー7:

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 ひと眠りした後、ローテローゼはスッキリした顔で起き上がった。
「お目覚めですか、ローテローゼさま」
「ごめんなさい、寝てしまったのね」
「お声も、すっかりもとに戻ったようですね」
 自分の喉に触れてみてから、あ、そうね、と、ローテローゼは頷いた。
「普通に話せる、よかった」
 うーむ、とマティスが腕を組んだ。
「しかし、声は戻っていないことにしておきましょうか。長く喋れば女性であることがバレてしまいますので、できるだけ、公式な場では小さな声でぼそぼそと短めに喋ってください」
「王の威厳を保つには堂々と話すのが鉄則だけど……仕方ないわね」
 ふう、とローテローゼは短く息を吐いた。
「ローテローゼさま、薔薇の花びらを浮かべたお風呂を沸かしておきましたので、入られてはどうですか? わたしはここに控えておりますので、何かありましたらすぐにお声がけください」
「そうね、汗を流してくるわ。ありがとう」
 若干不安そうな面持ちではあるものの、ローテローゼが素直に浴室へと足を運んでくれたことに、マティスはほっとした。

 いつもはピンクの薔薇を散らすことを好むローテローゼだが、今日は敢えて黄色と黒の薔薇にしてみた。
 薔薇園から摘んでくるようにと命じた時、部下の目がまん丸になって「そんな組み合わせでレディは喜びませんが本当によろしいのですか?」と大真面目に言われてしまった。
 それくらい、この国ではありえない組み合わせだ。
 だが、今回は見た目の楽しさ、奇抜さを優先だ。
「マティス、斬新な組み合わせだったわ!」
「楽しんでいただけたようで」
「ええ!」
 案の定、ローテローゼがくすくす笑いながら出てきた。きっちりと男装している。すっかり慣れたらしい。
 そしてその手には、散らさずに浮かべておいた黒い薔薇を数輪、持っている。ローテローゼの白い手に黒薔薇が良く映えて、なぜか扇情的に思えた。
「マティス、薔薇だらけのわが国でも、黒薔薇はそこまで多くないのよ?」
「ええ、今頃、東第八薔薇園では、事情を知らない園丁たちが卒倒しているかもしれません」
「まぁ! 一番貴重なお花が咲いてる場所よ。花泥棒を調べられたらどうするの」
「大丈夫です。園丁や道中の門番たちには鼻薬をかがせてありますので」
「手回しがいいわね」
「当然です」
「……鼻薬をかがされてしまうような門番は、警備上心配よ?」
「そうですね、折を見て全員入れ替えておきましょうか」
 くすくすと笑うローテローゼが、黒い薔薇をすっとマティスの鼻先に突き付けた。
「で? ――黒薔薇の花ことばを知ってていて、これをくれたのかしら?」
「はて?」
 すっとぼけてみせるが、薔薇の国に生きる彼が薔薇の花ことばを知らぬはずがない。
「憎しみ、恨み――かしら?」
「……まさか」
 ふふ、とローテローゼが笑った。
「妖艶で美しい花よね。毒々しいくらい。そして……強い芳香……」
「はい。ローテローゼさまからも、甘い黒薔薇の匂いが漂っています」
 背伸びをしたローテローゼは、マティスの騎士服の胸元をぎゅっと握って自分の方へ引き寄せた。
「ひ、姫?」
 触れるだけのキス。子供の戯言のようなものだが、ローテローゼの顔は真っ赤だ。
 そしてマティスの制服の胸元に、黒薔薇をさした。
「勘違いしないで。これはわたしが選んだのは黄色い薔薇ではない、という意味よ」
「へ? 意味がよく……」
「――だって、黄色い薔薇をあなたに渡すわけにいかないじゃない……」
 黄色い薔薇の花ことばは何だったかと思い、マティスの頬は緩んだ。
 たくさんの花ことばがあるが、主に言われているのは――太陽、可憐、といった良い意味もあるが、同時に嫉妬、わかれ、不貞、恋に飽きたなどもある。
「つまり――愛情は薄らいでいない、友情ではない、別れたくない、嫉妬ではないということですね?」
 そうよ、と、真っ赤な顔のローテローゼがそっぽを向いた。
「太陽はどちらかというとお兄さまでしょ、あなたは銀の月って感じだし、可憐なのはお兄さまであなたは整った顔だけど可憐ではない――そこまで考えたのよ」
「ローテローゼさま、ありがとうございます」
 マティスは嬉しそうに胸元の薔薇を見つめた。
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