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:身代わり国王は騎士の手で花開くー1:
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ローテローゼは当初、他国の皇子という身分に遠慮して逮捕も起訴もせず国にお帰り頂くつもりだった。
しかし、それではあまりにも割に合わない。きちんと裁くべきだと思ったのだ。
「お兄さまならいいやり方をご存知かもしれないけれど……。もう迷わないわ。わたしが変な遠慮をして腰が引けている間に、とんでもない被害が出てしまった」
マティスが、心配そうな目を向ける。
「わたしは大丈夫。絶対に、これ以上被害を出させない。きちんと罪は償わせる」
ローテローゼはすぐに、法務大臣と宰相、カタリナをマティスの病室へと招いた。その場で、ローテローゼはヴァーン皇子をきちんと裁くと宣言した。
「王たるもの最善の策を即座にとらなければいけない。王とは……なんと大変な仕事なのだろう」
唇を噛むローテローゼの肩を、宰相と法務大臣がぽん、と励ますように叩いた。
「ところで陛下、本当に、ヴァーン皇子を我が国にしばらく留めおくのですか?」
宰相が、真剣な面持ちで尋ねる。
「ええ。お客様ではなく囚人としてね。それでも身分に配慮して、特別な独居房に入っていただくわ」
「……さっさとお国へ送り返す方が……よろしいのでは?」
「大臣、おそらく、どこの国もそうしているのだろうとは思う」
「はい。儂の調べた限り、近隣諸国の暗黙の了解といって良いでしょうな」
だが、今回ばかりはローテローゼの我慢の限界だった。
「絶対に許さないから……」
そう呟いてぎりっと噛み締めた唇に、じんわりと血の味がする。
「宰相!」
「なんでしょうか」
「カタリナを、絶対に幸せにするのよ。命令よ」
「は?」
「加害者であるヴァーン皇子に然るべき処罰を下したからといって、皆が皆、笑顔になれるわけではない。それでもヴァーン皇子なんかに負けずに幸せになるの。被害にあったみんな、ヴァーン皇子以外は全員幸せにならなきゃ……そういう、皆が幸せな国を作らないといけないの」
はい、と、宰相たちが頷く。
「そして王は、迷ってはいけないんだわ……王が迷った分だけ、誰かが不幸になるかもしれない」
ぎゅっと硬く握りしめた白い拳を、法務大臣が皺だらけの手でそっと包み込んだ。
「陛下、迷っても良い時と迷ってはならない時がございますな。いや、儂ら爺連中とてその判断は難しいものです。ですから、判断のお手伝いをするために、我らがおるのです。ぜひ、頼ってくだされ」
「わたしに……身代わりのわたしに、ついてきてくれる?」
もちろんです、と、宰相とカタリナ、大臣がローテローゼの足元に跪いた。
宰相たちが退室したあと、ローテローゼは、マティスの胸に縋りついた。
「うっ……陛下?」
顔を埋めたまま、ローテローゼは動かない。そっと抱き締めるとようやく小さな声が漏れた。
「マティスを……あなたを、喪ったかと思った。もしヴァーン皇子が生き残ってあなたが神の元へ召されていたら、わたしは剣をとったと思う」
「ローテローゼさま……」
そして、単身、皇子の元へ乗り込んだに違いない。
たとえドレスを剥ぎ取られて散々に辱められても、敵討ちをしないと気が済まなかっただろう。
「……俺は、そんなに……愛されていたのか……」
わたしも自分でびっくりよ、と、ローテローゼが力なく笑う。
「わたしにとって、マティスは――必要、大切……そんな言葉じゃ言い表せないわ。生きててくれるだけで、嬉しいの。わたしの傍にいてくれるだけで……それだけで、いいの」
そのままローテローゼは、マティスの唇にキスを落とした。離れては触れ、舌先でマティスの渇いた唇をなぞっては離れていく。
「マティス……この先、何があってもわたしより先に死ぬことは許しません。勅命です」
「……御意」
「マティス、わたしはこの先、何があってもあなたを愛し続けると約束するわ」
「身に余る光栄……わたしも、誓います」
マティスが、そっとローテローゼの手を握った。
「ところで姫、指輪は?」
「こっちよ」
シャツのボタンを外し、鎖を引っ張り出す。
「ペンダントにしてあるわ」
「ちゃんと、指にはめてください。いらぬ男が寄ってくる」
はい、と、笑ったローテローゼは、指輪を鎖から抜いて、左手の薬指に嵌めた。
しかし、それではあまりにも割に合わない。きちんと裁くべきだと思ったのだ。
「お兄さまならいいやり方をご存知かもしれないけれど……。もう迷わないわ。わたしが変な遠慮をして腰が引けている間に、とんでもない被害が出てしまった」
マティスが、心配そうな目を向ける。
「わたしは大丈夫。絶対に、これ以上被害を出させない。きちんと罪は償わせる」
ローテローゼはすぐに、法務大臣と宰相、カタリナをマティスの病室へと招いた。その場で、ローテローゼはヴァーン皇子をきちんと裁くと宣言した。
「王たるもの最善の策を即座にとらなければいけない。王とは……なんと大変な仕事なのだろう」
唇を噛むローテローゼの肩を、宰相と法務大臣がぽん、と励ますように叩いた。
「ところで陛下、本当に、ヴァーン皇子を我が国にしばらく留めおくのですか?」
宰相が、真剣な面持ちで尋ねる。
「ええ。お客様ではなく囚人としてね。それでも身分に配慮して、特別な独居房に入っていただくわ」
「……さっさとお国へ送り返す方が……よろしいのでは?」
「大臣、おそらく、どこの国もそうしているのだろうとは思う」
「はい。儂の調べた限り、近隣諸国の暗黙の了解といって良いでしょうな」
だが、今回ばかりはローテローゼの我慢の限界だった。
「絶対に許さないから……」
そう呟いてぎりっと噛み締めた唇に、じんわりと血の味がする。
「宰相!」
「なんでしょうか」
「カタリナを、絶対に幸せにするのよ。命令よ」
「は?」
「加害者であるヴァーン皇子に然るべき処罰を下したからといって、皆が皆、笑顔になれるわけではない。それでもヴァーン皇子なんかに負けずに幸せになるの。被害にあったみんな、ヴァーン皇子以外は全員幸せにならなきゃ……そういう、皆が幸せな国を作らないといけないの」
はい、と、宰相たちが頷く。
「そして王は、迷ってはいけないんだわ……王が迷った分だけ、誰かが不幸になるかもしれない」
ぎゅっと硬く握りしめた白い拳を、法務大臣が皺だらけの手でそっと包み込んだ。
「陛下、迷っても良い時と迷ってはならない時がございますな。いや、儂ら爺連中とてその判断は難しいものです。ですから、判断のお手伝いをするために、我らがおるのです。ぜひ、頼ってくだされ」
「わたしに……身代わりのわたしに、ついてきてくれる?」
もちろんです、と、宰相とカタリナ、大臣がローテローゼの足元に跪いた。
宰相たちが退室したあと、ローテローゼは、マティスの胸に縋りついた。
「うっ……陛下?」
顔を埋めたまま、ローテローゼは動かない。そっと抱き締めるとようやく小さな声が漏れた。
「マティスを……あなたを、喪ったかと思った。もしヴァーン皇子が生き残ってあなたが神の元へ召されていたら、わたしは剣をとったと思う」
「ローテローゼさま……」
そして、単身、皇子の元へ乗り込んだに違いない。
たとえドレスを剥ぎ取られて散々に辱められても、敵討ちをしないと気が済まなかっただろう。
「……俺は、そんなに……愛されていたのか……」
わたしも自分でびっくりよ、と、ローテローゼが力なく笑う。
「わたしにとって、マティスは――必要、大切……そんな言葉じゃ言い表せないわ。生きててくれるだけで、嬉しいの。わたしの傍にいてくれるだけで……それだけで、いいの」
そのままローテローゼは、マティスの唇にキスを落とした。離れては触れ、舌先でマティスの渇いた唇をなぞっては離れていく。
「マティス……この先、何があってもわたしより先に死ぬことは許しません。勅命です」
「……御意」
「マティス、わたしはこの先、何があってもあなたを愛し続けると約束するわ」
「身に余る光栄……わたしも、誓います」
マティスが、そっとローテローゼの手を握った。
「ところで姫、指輪は?」
「こっちよ」
シャツのボタンを外し、鎖を引っ張り出す。
「ペンダントにしてあるわ」
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はい、と、笑ったローテローゼは、指輪を鎖から抜いて、左手の薬指に嵌めた。
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