【完結】身代わりで男装した王女は宮廷騎士の手で淫らに健気に花開く

酉埜空音

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:苦悩するローテローゼー3:

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 その後、我に返ったマティスは、ローテローゼがぐったりしていることに気付いて慌てた。お湯で体を清めてから、抱き上げる。
「ローテローゼさま、申し訳ございません。しっかり……」
「あ、マティス……ちょっと、お水が欲しいわ」
「はい。すぐにお持ちします」
 ローテローゼをソファーに横たわらせて、シンプルなドレスを着せる。そうしておいて水差しとグラスを手にソファーに戻ると、ローテローゼは自分で身だしなみを整えていた。
 と、そのとき、部屋の扉がノックされた。マティスとローテローゼは思わず顔を見合わせてしまう。
 一体誰だ、と、マティスの顔に書いてある。
「陛下、少しよろしいですかな?」
 宰相の声だ。慌てて立ち上がったローテローゼが自ら扉を開いて、宰相を招き入れる。
「失礼いたします」
「は、い……? ど、どうしたの?」
 ローテローゼの声がひっくり返った。
 なんと宰相は、お皿やグラス、出来立ての料理の乗った銀のカートを押している。威厳のある宰相が料理を運ぶ姿はどこか滑稽である。
「宰相、これをもっ……てきて……くれた、の?」
 通常は、メイドか料理長がすることである。
「料理長が……陛下の元へ行くならこれを運べ、と……」
 苦虫を噛みつぶしたような顔で宰相が言う。
「文官のトップである宰相を使うとは料理長も大したものねぇ……」
 ローテローゼはまるまると太った料理長の風貌を思い浮かべる。
 まるまるとした料理長が枯れ木のような宰相にカートを押し付ける様は、やっぱり滑稽で、思わず笑顔になる。
「はぁ、まぁ……あれは、寄宿学校時代からの同期ですから気心がしれておりましてな」
 え! と、ローテローゼとマティスの声が揃った。
「宰相に幼馴染がいたのね……」
「いやぁ、学校に通う宰相とか想像し難いぞ……」
 珍しく宰相がむっとした。
「これでも、幼少期があり青年期があったのですぞ」
「青年期! そりゃ、そうよね……宰相だっていきなりこの姿ではないものね」
「ローテローゼさま、自分で言うのもどうかと思いますが、これでも学校一の美形でしてな、恋の十や二十もしてきたのですぞ!」
「ええ、宰相が美形ってのはわかるわ。で、どんな恋愛だったの?」
「ふふふ……言い寄る男女は数知れず、当然、まっとうな恋から禁断のものまでありとあらゆるものを嗜みましたぞ」
「ええーっ! 意外だわ……」
「具体的に知りたいですかな?」
 もちろん、と二人の若者が前のめりになる。
 お話ししましょうかな、と、宰相が笑う。ローテローゼが椅子に座り、マティスがその横に立つ。
「妖精かと思われるほどに美しい令嬢を学友と奪い合いましてな、決闘すれすれになったこともあれば……夜会で一目惚れされた相手に請われるまま一夜を過ごしたのちそれが美人局だと判明しましてな。我が家の名誉だのなんだのと大変なことになって二年ほど家から追い出されておりました」
 へー! と、マティスとローテローゼ二人の声が揃った。意外過ぎる宰相の過去である。
「それでも懲りることなく浮名を流し続けましてな。いや、単純に女人といることが楽しかったんですな。人妻とどうこうなってまさに情事の真っ最中、いよいよ気持ちよくなり中で果てようかという頃合いに相手の夫が寝室へ押しかけて来て裸のまま叩き出されましてなぁ……これがまた冬の寒空で王都警備隊にとっ捕まり……。しかし父から絶縁を言い渡されておる身、当然、親は身元引受人になってくれず、留置所に長々と留め置かれました」
 きゃー、とローテローゼが真っ赤になり、マティスの眼と口がまん丸になっている。
 にやり、と笑いながら宰相がテーブルに食事を並べていく。
「あら? 二人分あるわ……」
「マティスと二人なら陛下も食事が喉を超すのではないかと、ステファノス……料理長の意見です」
 マティス座れ、と、宰相が促し、ローテローゼと向かい合ってテーブルに着く。
 のんびりと食事が始まったことを確認した宰相が下がろうとするのを、ローテローゼが引き留めた。
「グラスが三つあるわ。ワインを一緒に呑みましょう」
 ありがとうございます、と、宰相が恭しく受け取る。ローテローゼが赤ワインを注ぎ、宰相が美味しそうに飲む。
「宰相、夕食は?」
「食堂でいただきました。わしはおつまみをくすねてきたので、テーブルの隅でちびちびと……。ローテローゼさまはゆっくりお召し上がりください」
 マティスが料理をほおばり、宰相がつまみを美味しそうに食べるので、つられてローテローゼも料理を口に運ぶ。
 とても柔らかく煮てある白身魚に、甘酸っぱいソースが掛かっている。
「あ、美味しい……」
 じゃがいものスープも、とろりとして美味しい。
「このスープはベルナールさまも好物だった気がするな」
「ああ、そうね。もともとはお父さまの好物で、お母さまがよく作ってくださったわ」
 見れば、果物も、焼き立てのパンも、サラダも、どれもローテローゼが子どものころから好きでよく食べていたものだ。
「……ふふ、嬉しい。宰相、料理長やみんなにお礼を伝えておいてね」
 もちろんです、と宰相は頷く。
 このところずっと食が細かったローテローゼが夕食を食べている、それだけで城の者はみんな喜ぶ。
 小さくマティスが、頷く。彼もまた、ローテローゼが食べないことを気にかけていた一人だから。
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