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2.記憶だけはある

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 どうなるかわからない、と言ってもゲームの始まりは目前に控えている。しかし、チャラ男だと国外追放の危機、チャラ男をやめると何が起きるかわからない。そんな究極の選択を簡単には選べない。レオンは目覚めてからというものこの選択について永遠に考えていた。
 前者を選べば聞いているものが恥ずかしくなるようなセリフを吐かなくてはいけないうえに、国外追放を阻止するために皇太子ルートを阻止しなくてはいけない。後者を選ぶと最悪、国外追放よりもひどい処刑エンドが待っているのではと恐ろしい。そして、良くても頭の打ちどころが悪かったと病院送りだろう。それほどにレオンはチャラかった。

「やるしかないのか、チャラ男」

 記憶はある。
 レオン・ストレリチアとしての記憶だけはしっかりとあるのだ。だからといって前世の記憶をも思い出した今ではあんな異常行動をとれる気がしなかった。
 レオンは自室に備え付けられた鏡の前に立つと自身の容貌を眺めた。癖のある金髪に青い瞳、白く美しい肌。間違いようのないイケメンがそこにいた。しかし、いくらイケメンといえど許されることと許されないことがある。そして、レオンにとってこれまでの異常行動は許されないことに分類されるのだ。

『美しいご令嬢、あなたに出会うために私は生まれたのでしょう』

『美しさは罪と言いますが、今日ほどそれを実感したことはありません』

 これまでに繰り広げた黒歴史の数々が頭の中を占領する。歯の浮くようなセリフの数々を記憶を取り戻す前のレオンは平然と言ってのけたのだから信じられない。
 穴があったら入りたいとはまさにこのことだろう。世紀のチャラ男として呆れられている状況で、正気を取り戻したレオンは居たたまれないどころの話ではなかった。しかし、何と言っても時間がない。

 『魔法の国の恋』は主人公であるルカがロベリア伯爵の実の息子であることが判明し、伯爵家に迎え入れられることろからスタートする。そして、攻略対象と出会うのは王室主催の舞踏会だ。その舞踏会が、5日後に迫っているのだ。
 
 ゲーム通りの展開をしながら皇太子ルートを阻止するなら舞踏会に行くべきだ。そしてチャラ男を演じるべきなのだ。そうわかっていても気が重い。
 ゲームの設定では、レオンは妹のパートナーとして舞踏会に来ていた。舞踏会の数日前にパートナーに逃げられた妹を慰めて一緒に舞踏会に来た設定だったはずだ。しかし、実際は落馬してパートナーを見つけられていない。つまり、パートナーのいない者同士ちょうどいいぐらいの気持ちで妹を誘ったに違いない。そんなことはゲームに書いてなかった。

「最低なうえに情けないぞレオン」

 そして、部屋の外から妹の泣き声が聞こえ始めた。
 

 
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