転生したら悲運の王子になっていた

星影

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美しき薔薇

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アレックスはシャムス王国の使節団に首都を案内して回った。

王国を代表する有名レストランに、工芸品、リュミエール王国を知ってもらうために幾つかの場を巡り終え、その日の最後の使節先は国営植物園だった。

国営植物園には、リュミエール王国にしかない特別な植物たちも植えられていた。

そして、最大の目玉はその庭園にあるピンク色の薔薇だった。

その花はリュミエール王国の国花であり、通称リュミエールの薔薇と呼ばれる。


この花がゲームのタイトルを飾っているわけだが、ゲームのタイトルにあるそれはジェイクを指したものに違いなく、ジェイクは『薔薇のように美しい少年』と人々に言われるだけでなく、攻略対象たちは皆、このリュミエールの薔薇をみて「ジェイクのような花」だと言うのだ。


それは『悲運の王子』も例外ではなく、「君はリュミエールの薔薇のようだ、その美しさに人は狂わされる」とジェイクに告げる。

このセリフは、ゲームのファンの間ではかなり有名なセリフだった。

『悲運の王子』はどのルートでもそのセリフを言う。そのため必然的に何度も聞く羽目になり、この『悲運の王子』自身を指したとしか思えぬセリフがプレイヤーを何度も涙させるのだ。

「美しい花だ」

テオバルドの声にアレックスは現実に戻される。


「これは、リュミエール王国の国花になります」

アレックスの返答にテオバルドは微笑んだ。

「なるほど、これがリュミエールの薔薇」




「不思議とあのピンク頭を思い出させる花だ」


え?

アレックスはテオバルドのその言葉が暫しの間理解できず、「ピンク頭?」と呟いた。

ピンク頭といって思い出されるのは一人しかいない。アレックスすらこの花をみたらその人物を思い出さずにはいられないのだから。しかし、そんなはずはない。


「あぁ、伯爵家の者とかいったか。名はなんだったろうか、たしか…」


「ジェイク」

アレックスは呆然とそう呟いた。
攻略対象でもない異国の王子が、ジェイクに気を取られるはずがない、そう思ってもピンクの髪を持つ者などそういない。

アレックは自身が呟いたその名を否定してほしくて仕方がなかった。

「そうだ、その青年だ」

しかし、応えは望まぬものだった。


嫌な予感がアレックスの胸の内を支配する。『リュミエールの薔薇』でこの花をジェイクのようだと言ったキャラクターは皆ジェイクに心奪われていたからだ。


ジェイクは攻略対象以外も虜にしてしまうのだろうか。

そこまで考えてアレックスは気づいた、自身がその第一号といってもいい存在だという事に。


何てことだ、アレックスが『悲運の王子』にならずとも誰かがその役割をすることになる可能性があるのか。


そして思い出す、今の状況を。

アレックスはジェイクの虜にはならず、アレックスの知らぬところでシナリオは進んでいるようだった。そこに現れたテオバルドはジェイクに関心を示している。


もし、ゲームの補正効果があるなら、アレックスの他に『悲運の王子』となる者が現れてしまうのかもしれない。

テオバルドも異国とは言えど王子に違いないのだから、補正としては無くはない選択だろう。


しかし、シャムス王国の王子であるテオバルドがジェイクに心を奪われでもしたら一体何が起こるかわからない。

そうなるとゲームのシナリオと大きく変わってしまうはずだ。なのに何故。

だいたい、テオバルド王子は何故ジェイクを知っているんだ?

テオバルドと会う機会など、使節団を迎えたときぐらいしかない。使節団を迎えた際にジェイクはリアムの側にいた。その後テオバルドが現れて…。


そこまで考えてふと思い至った。アレックスがテオバルドに見惚れている間に挨拶をしたのは国王とリアムだけではなかったのではないかと。


「公子が何か失礼なことでも致しましたか」


自身をふがいなく思いながらも、アレックスはそう問いかけた。何しろアレックスはテオバルドに見惚れてジェイクとテオバルドのやり取りなどかけらも聞いていなかった訳なのだから。


「いや、紹介されただけにすぎん。ただ、ピンクの髪をみたのは初めてだったせいか印象深かったのだ」

やはり、テオバルドに見惚れている間に接触していたのか。

「そうでしたか」

平然とそう返したアレックスだが、心の中は荒れ狂っていた。


これは、よもやテオバルド王子もジェイクに心を奪われて…。


そう思いはしたものの、それを聞けるはずもなく別の話題に移っていった。

どうしてか、胸が痛んだ気がした。



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