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エピローグ

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一年後
俺は久しぶりに故郷であるトラベルの町を訪れていた。
「どうだい。景気は?」
俺はもってきた香辛料をなじみの店主に売りつけながら聞いてみる。
「悪くはねえな。まあこの一年大変だったがな」
なじみの店主はそう返してきた。
「ほら、代金だ。ルパンさん」
「ありがとよ」
俺は金貨2枚を受け取って、飯屋に入る。
一年前俺が暴れた時には迷惑かけたが、相変わらず繁盛していた。
「親父、焼肉定食」
「あいよっ!」
親父は愛想よく返事して、飯を出してくれる。それから俺の顔をみて、ちょっと考える顔をした。
「なあ。あんた俺と会ったことないか?」
「いやいや、初対面だけど?」
「そうか。なーんか見たことがある気がするんだけどな」
親父は首をかしげながら厨房に入っていく。俺は懐に入れた「変化のオーブ」の効力を確認して、ひそかに笑った。
あの「天空戦役」から一年。俺は自ら天空王の地位を捨て、ただの商人として転移魔法を駆使して行商をして生計を立てている。名前も「ルパン」という偽名を名乗り、顔も「変化のオーブ」で変えていた。
「しかし、天空城がなくなってもなんとかなるもんだねえ」
「おうよ。最初は不安だったけどな。ま、俺たち庶民には関係ないってもんよ」
カウンターの親父は明るく笑ってそう返してきた。
あれから王国は各国に分割され、世界は地上人の手によって分割統治されることになった。
最後に俺が各国に残したオーブは現在も効力を失わず、世界は天空城を失っても魔法の恩恵を受けて平和が保たれている。
焼肉定食を食べた俺は外に出て、しばらくぶらついてみる。広場にはぼろをまとった少女がいて、たった一人で必死に演説をしていた。
「勇者ウェイ様は自らを犠牲にして、邪悪なる偽天空王を倒して人間を解放してくださったのです。みなさん。彼の意思をついでラグナロク王国の復興を……」
その少女-元王女レイチェルは必死にそう呼びかけているが、町の人たちは相手にしない。
「神の罰を受けて滅んだ王国なんて、誰が!」
「俺たちは充分満足している。今のクレイトル王国のほうが税金が安いからな」
そう返されて、レイチェルはやつれきった顔に涙を浮かべている。
まだやっていたのか。あいつも大変だな。亡国の姫として生きていかないといけないんだから。実質乞食状態だ。
俺は冷たく笑うと、そっと広場を離れた。
「今日は宿に泊まって……明日はエルサレムに仕入れにいこうかな」
そんなことを思っていると、いきなり肩を叩かれた。
「やっと見つけましたよ。ルピン」
そうにっこり笑いかけてきたのは、フローラの妹で俺の幼馴染フロストだった。
「なんでお前にはわかるんだ?顔を変えているのに」
「なんとなくです。幼馴染の直感ですね」
フロストはそういうと、俺の腕を取った。
「いい加減にここに帰ってきてくれませんか?父もあなたにこの町を譲りたいと申しております」
「興味ない」
俺はそういって首を振る。フロストは残念そうな顔をした。
「しかたないですね。でも久しぶりに会ったんだから、お茶ぐらい付き合ってください」
そういって、フロストは俺を強引に近くの喫茶店に連れ込む。
コーヒーをおごられて飲んでいると、フロストが聞いてきた。
「ルピン。あなたに聞きたいことがあったのです」
「なんだ?」
「どうして天空王の地位を投げ捨てたのですか?」
そう聞いてくるフロストの顔はまじめだった。
俺は苦笑して口を開く。
「想像してみろ。世界の頂点に立って、誰も彼もが俺にへいこらして従うという状況が永遠に続くことを」
フロストはしばらく考え込んでいたが、納得した顔になる。
「……なんだか、つまらなさそうですね。八つ当たりを起こして、みんなにひどいことをしそう」
「そういうわけだ。だから俺は自分が危険な存在になるまえに、自分から天空城そのものをぶっ壊したのさ。そしてただの商人として世界中を回っている。たのしいぞ。いろいろな経験ができて」
俺は面白おかしく各地で経験したことを話す。天空王ではない、ただの「商人ルパン」として扱われるので、いろいろ理不尽なこともあるが、逆に普通の人として接してくれる優しい人々ともたくさん出会えた。
「では、今は幸せなんですね」
「ああ。俺はすべての柵から解放されて自由に生きている」
そんな俺を、フロストはうらやましそうな顔で見ていた。
「わかりました。でも、疲れたらこの町に帰ってきてください。私たちはいつでも歓迎しますから」
「ああ。その時は頼むよ。『転移』」
俺はそういい置くと、転移魔法でその場から姿を消す。
こうして、俺は世界を又にかける自由を手に入れたのだった。
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