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シチカ村とゼルさん!

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 目を開けた瞬間、壮大な緑の平原に降り立った。私の手には杖先が鷲の手のよう
になっており、がっちり水晶を掴んだ杖と、鍔に漆黒の文字が彫ってある銀剣と、
金貨の入った革袋。私は剣を背負い、杖と金貨を両手に持って歩き出す。
 日は真上にあって日差しに照らされて少しの熱さは感じるけど、風がそれを忘れ
させてくれた。

 一時間くらい歩いただろうか、小高い丘を登った先には川があり石橋がかかった
先には青い海と街が見えた。あれは漁村だろうか。船が沢山浮かんでいた。

 丘を下り石橋の上を通る。浅い水面には魚と死んだカマキリ、そして杖と革袋を
持った白髪の美少女が此方を覗いていた。あれ……なんか私、姿違うくない?

 そういえば神様と話しているときは眼鏡を掛けてた気がする。前の私は目が隠れ
るまで前髪があり、黒髪だった。
 いろいろな変顔を水面に向けてするが。どう考えても目の前の美少女は私だ。
 心なしかその面影は神様を幼くした感じだった。私が着ていた服も白のドレスに
なっていた。

「お嬢さん……助けてくれ」

 私が水面を覗いていると、私の後ろから男性のしわがれた声が聞こえてきた。

「はい!なんですか?」
「お嬢さん……お金持ってるんだね……息子が盗賊に攫われて身代金を渡さないと
殺されてしまうんだ……その袋を哀れな私に恵んでくれませんか?」
「息子さんが攫われたんですか?それは大変ですね!」
「あぁそうなんだ……妻には先に旅立たれて息子しかこの世界には大切な人はいな
いんだ……お嬢さん頼む。その革袋を私に譲ってくれないだろうか」
「んんんん……いいですよ!命には代えられませんからね!」
「ありがとう……本当にありがとう」

 私は金貨の入った革袋を老人に譲り渡した。
 それにしても盗賊かぁ……やっぱりこの世界は地球より危険なんだなぁ。

 老人の後ろ姿は道を外れ、遠くにある森へ向かっていった。
 片方の手が空いた私は、杖を右手に持って漁村に向けて歩き出した。
 一歩進むたびに村の全貌が見えてくる。白い屋根の一戸建てが整然と立て並んで
いて、磯の香が海の方から吹いてきていた。私の白い髪は乱れ、手櫛で髪を整えて
歩く。馬車が村を出て、此方に向かってくる。

「すいません!あの村ってなんて言うんですか?」
「名前も分からずシチカ村に行くのかい?旅人か?冒険者か?しかし荷物も持って
ないしな……お嬢さん、この辺りは盗賊やモンスターが出て危険だから早く村に行
きなさい。」
「私は……なんか治癒とか使える人です!でいいのかな?剣も使えるっぽいけど…
…」
「ははは!なんかあやふやだな!あの村には自警団がいる、親が来るまで待ってい
なさい」
「子供ではありません!そういえば病気で困っている人とかいないんですか?」
「病気ねぇ……ゼルの旦那が腰痛持ちでここ半年、漁もできないで困ってたな」
「そうですか!じゃぁゼルって人を訪ねてみます!ありがとう!」
「おう!気負付けてな!」

 馬車に乗った人は私が来た道に進む。荷台には魚の干物が沢山積んであった。



「うおおおお……ここが漁村!」

 シチカ村に着いた。そもそも人生で漁村に初めて来たので、日本の漁村がどんな
所ですら知らない。都会育ちなので!
 白い壁に白い屋根の建物のあちこちに魚が干されている。
 見ているとお腹が減ってきた……そういえばお金全部あげちゃったんだった。
 まぁお金がなくてもどうにかなるのは前世で証明済み!食中毒にならないかぎり


 きょろきょろと海の傍の道をを歩いていると、漁で使う網を編んでいる男の人が
作業していた。

「こんにちは!なにしてるんですか?」
「なんだ?嬢ちゃんどこから来た?」
「私は……どこから来たんでしょう?」
「おい!質問を質問でかえすな!」
「そうですねぇ!私はなんか治療する人です!」
「その年で治癒師なのか?」
「はい!一度も治癒したことありませんが!」
「おい!からかうのもいい加減にしろ!」
「すいません!でも本当です!今はゼルって人を探しているんです!」
「ゼルは俺だが……」
「これは偶然ですね!私は貴方の腰痛を治すために神から遣わされたのです!」
「おい……嬢ちゃん……その年で詐欺師なのか?」
「詐欺師ではありません!タダです!治します!」

 私は右手に持った杖を構える。ゼルさんは突然のことでビクっとしている。

「はんにゃらほいほいなおれよほいほい!」

 目を瞑り治れ治れと祈る。それに答えるかのように杖は光を発した。
 目を開けるとその光は、ゼルさんを包んでいた。

「なんだこりゃ!」

 ゼルさんは驚いた顔をして勢いよく立ち上がった。

「いたっ……くない……お嬢ちゃん……本当に治癒師だったのか……」
「だから言ったじゃないですか!私はなんかを治療する人です!」
「でも……漁民の俺には払う金なんかねぇぞ……治癒師なんて金貨50枚は払わな
けりゃ治してくれねぇんだぞ?」
「なんと!無料です!あっ……お腹が空いたので食べ物を分けて貰えると嬉しいで
す!」
「お……おう!お嬢ちゃん、詐欺師なんて言って悪かったな。本当にお嬢ちゃんは
神様が遣わせてくれた天使だ、ありがとう!名前を教えてくれよ」
「私の名前……川澄美奈です!」
「カワセミナ?」
「かわすみみな!です!」
「言いずらいな、なんて呼べばいいんだ?」
「ミナで構いません!」
「そうかミナ。漁師仲間から赤鯛を貰ったんだ食べていきな!」
「はい!」

 私はゼルさんのお家に招待された。
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