女性向け恋愛SRPG世界に転生したモブ令嬢だけど、何故かヒロインもライバルもヒーローも不在で世界の危機かもしれない

雀40

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01 モブの生き方

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 七歳の誕生日、モーリアは自らの立ち位置を知った。

 モーリアは物心ついたときから、まったく異なる世界で若くして死んだ女の記憶がある。
 
 そしてここは「盤上のアルカナ」という、女子向け恋愛シミュレーションロールRプレイングPゲームの――もしくは、それによく似た――世界である。
 しっかりと作り込まれたシステムだったので、恋愛シミュレーションが好きな女性ユーザーよりも、SRPGが好きなユーザーに支持されるような作品だった。ファンの間では「恋愛要素はオマケ」だとよく囁かれていたほどに。
 かく言うモーリアの前世の女も、どちらかと言えばSRPG要素目当てでプレイしていた。
 もちろん、恋愛要素も楽しんだのだが。
 
 ゲーム的な要素があるこの世界で広く信仰される宗教において、七歳の子どもは神殿で儀式を受ける権利と義務がある。
 そこで奇跡を賜るのだ。モーリアの前世とまったく同じタロットカードのアルカナを象徴とした異能力である。

 両親に連れられて神殿へ赴いたモーリアが授かったのは、銀等級の「隠者」。属性は地のエレメントを表す「コイン」だった。
 
 大アルカナの奇跡は、個人の魔力量によって金・銀・銅と三つの等級によって振り分けられるが、王侯貴族の大多数が銀である。つまりは普通。
 そして小アルカナの奇跡は、領地持ちの貴族に評価され易いものの派手さはない地属性。つまりは地味。

 要するに、モーリアは生粋のモブだった。

 特に名産品もない男爵領で生まれたモーリアは、貴族にしては少し人情派な両親の下で育った。
 そして王国の一大穀倉地帯に隣接した男爵領は酪農が盛んで、隣に広がる豊かな土壌のおこぼれでほどよく潤っているだけの小さな領地だ。

 そんな男爵領のために何かをしたいと、父の執務に少しだけ口出しをしたり、領内外の安いナチュラルチーズを使ったプロセスチーズの開発をして過ごすこと数年。あっという間に王立学園――貴族の子女は必ず通わなければならない教育機関――に通う年齢となった。
 
 なお、モーリアの前世知識であっさりと完成したプロセスチーズは、その高い保存性を活かし庶民層を狙って売り出す予定だったのだが――隣の穀倉地帯を治める大貴族が嗅ぎつけてきたため、既に新しいもの好きの高位貴族の間で密かに広がっている。モーリアの希望で作られた燻製プロセスチーズが、どうも帝国産の人気ワインと相性が良いのだと言う。
 現在は、貴族向けのクオリティを追い求めて、後継者である兄と領の担当者がいろいろ試している段階だ。
 
 ちなみに、前述の通りモーリアの大アルカナの奇跡は隠者である。そしてその隠者の性質は、知恵やひらめきとして表れることが多い。
 つまり、モーリアのプロセスチーズ開発は隠者の奇跡によるものだと周囲に誤解されたので、前世由来の謎の知識は微塵も疑われることはなかった。

 もしかしたら、モーリアをモブに押し留める強制力のようなものがあるのでは……などと危惧することもあるが、そもそも所詮は銀等級である。もとから世界の脅威ではない。
 明確な役割を上位存在から与えられる世界では、モブは頑張ってもモブなのだ。

 助かったのだがどこか釈然としないような、モーリアは複雑な気分だった。
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