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【04】新しい本棚
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優しくされてころりと好きになってしまうのは、あまりにもお手軽すぎやしないかと、マイロナーテはほんの少し自己嫌悪状態に陥った。
これではまるで――恋愛小説の感想で度々聞く“ちょろいん”なるものみたいではないか。
「あんなふうに接せられて友人からって……変に意識してしまって難しいと思うの」
「展開が早くて良いではありませんか」
「もう、物語の話じゃないのよ!」
結婚式の礼状を書きながらユフィータに悩みを聞いてもらえば、見事にばっさり切り捨てられた。
こうして悩みを切り捨てられてはいるものの、雇用者のグレイオット側にはっきり立つわけでもないユフィータは、本当に貴重な相談相手である。
グレイオットの恋人かもしれないと疑っている相手にこの手の相談をするのは、無神経すぎて何らかの火種になる可能性があるかもしれない。
しかし、ユフィータは敏いうえに聞き上手なため、悩みを黙っていても吐き出させられていることが多いのでどうしようもない。マイロナーテは、ユフィータ恋人疑惑そのものをぽろりと零さないようにすることで手一杯なのだ。
ちなみに昼食後は、グレイオットに改めて屋敷を案内してもらう予定だったが、彼に急用が入ってしまった。
辺境伯として国境を守るグレイオットは、隣接地域を支配する夷狄の対応に頭を悩ませている。彼らは、実り豊かなクラウデン辺境伯領の土地を虎視眈々と狙っているのだ。
小競り合いはしょっちゅうなのだが、いつもより深く入り込んできたという報告があった……らしい。これはグレイオットから直接聞いたのではなく、ただの又聞きである。
ちなみに、クラウデン辺境伯領は夷狄の支配地域と接すると同時に、他国とも接している。
そちらの国には巨大な芸術都市があり、数多の物語が日夜生み出されている。
マイロナーテは本が好きだ。
なんとなく恋愛小説はあまり触れてこなかったが、伝記や古典文学はもちろん、伝奇や推理小説などを好んでいる。
交易都市でもあるクラウデン辺境伯領の領都なら、翻訳前の原書が出版社のある王都を経由する必要のある訳書よりも先に入手できるのではないかと、実は少しだけ期待していた。
マイロナーテは、ちらりと私室の大きな本棚に目を向ける。
そこに元から収められていたのは、マイロナーテが好むジャンルの本の数々。原書は当然のことながら、訳書もまだ見かけたことがないものばかりだ。
思い返せば、花嫁の変更が先方に承諾された後、ヨルド子爵家の執事から本の購入予定について確認されていた。あれは荷造りの参考のためだと思っていたのですっかり忘れていたが――もしかしたら、クラウデン辺境伯家からこの本棚のための質問があったのかもしれない。
目を引くタイトルの数々の中、申し訳程度に恋愛小説の訳書がいくつか目に入る。何故か「愛しき妖精姫と秘密の花園」は並んでいなかったが、その他の本は真新しい背を晒している。マイロナーテは、わざわざこれらの本が差し込まれている理由を考えてみた。
原書の数々は、急遽差し替えられて嫁いでくる新妻を慮ったグレイオットの気持ち。
数冊の恋愛小説の訳書は、自分のことを知ってほしいと願うグレイオットの気持ち。
考えれば考えるほど、マイロナーテはそう思えてならないのだ。
もともと予定されていた部屋主であるアイロオーテはほとんど本を読まないため、この大きさの本棚はマイロナーテのために用意されたものだろう。急いで設えられたことなどわからない見事な装飾の本棚を眺め、グレイオットの心配りを感じ取る。
けれど、赤いファブリックが取り替えられることのない未来だったら、そこには何があったのだろうか。
その思考は、マイロナーテの胸をずしりと重くした。
これではまるで――恋愛小説の感想で度々聞く“ちょろいん”なるものみたいではないか。
「あんなふうに接せられて友人からって……変に意識してしまって難しいと思うの」
「展開が早くて良いではありませんか」
「もう、物語の話じゃないのよ!」
結婚式の礼状を書きながらユフィータに悩みを聞いてもらえば、見事にばっさり切り捨てられた。
こうして悩みを切り捨てられてはいるものの、雇用者のグレイオット側にはっきり立つわけでもないユフィータは、本当に貴重な相談相手である。
グレイオットの恋人かもしれないと疑っている相手にこの手の相談をするのは、無神経すぎて何らかの火種になる可能性があるかもしれない。
しかし、ユフィータは敏いうえに聞き上手なため、悩みを黙っていても吐き出させられていることが多いのでどうしようもない。マイロナーテは、ユフィータ恋人疑惑そのものをぽろりと零さないようにすることで手一杯なのだ。
ちなみに昼食後は、グレイオットに改めて屋敷を案内してもらう予定だったが、彼に急用が入ってしまった。
辺境伯として国境を守るグレイオットは、隣接地域を支配する夷狄の対応に頭を悩ませている。彼らは、実り豊かなクラウデン辺境伯領の土地を虎視眈々と狙っているのだ。
小競り合いはしょっちゅうなのだが、いつもより深く入り込んできたという報告があった……らしい。これはグレイオットから直接聞いたのではなく、ただの又聞きである。
ちなみに、クラウデン辺境伯領は夷狄の支配地域と接すると同時に、他国とも接している。
そちらの国には巨大な芸術都市があり、数多の物語が日夜生み出されている。
マイロナーテは本が好きだ。
なんとなく恋愛小説はあまり触れてこなかったが、伝記や古典文学はもちろん、伝奇や推理小説などを好んでいる。
交易都市でもあるクラウデン辺境伯領の領都なら、翻訳前の原書が出版社のある王都を経由する必要のある訳書よりも先に入手できるのではないかと、実は少しだけ期待していた。
マイロナーテは、ちらりと私室の大きな本棚に目を向ける。
そこに元から収められていたのは、マイロナーテが好むジャンルの本の数々。原書は当然のことながら、訳書もまだ見かけたことがないものばかりだ。
思い返せば、花嫁の変更が先方に承諾された後、ヨルド子爵家の執事から本の購入予定について確認されていた。あれは荷造りの参考のためだと思っていたのですっかり忘れていたが――もしかしたら、クラウデン辺境伯家からこの本棚のための質問があったのかもしれない。
目を引くタイトルの数々の中、申し訳程度に恋愛小説の訳書がいくつか目に入る。何故か「愛しき妖精姫と秘密の花園」は並んでいなかったが、その他の本は真新しい背を晒している。マイロナーテは、わざわざこれらの本が差し込まれている理由を考えてみた。
原書の数々は、急遽差し替えられて嫁いでくる新妻を慮ったグレイオットの気持ち。
数冊の恋愛小説の訳書は、自分のことを知ってほしいと願うグレイオットの気持ち。
考えれば考えるほど、マイロナーテはそう思えてならないのだ。
もともと予定されていた部屋主であるアイロオーテはほとんど本を読まないため、この大きさの本棚はマイロナーテのために用意されたものだろう。急いで設えられたことなどわからない見事な装飾の本棚を眺め、グレイオットの心配りを感じ取る。
けれど、赤いファブリックが取り替えられることのない未来だったら、そこには何があったのだろうか。
その思考は、マイロナーテの胸をずしりと重くした。
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