崩壊世界で吸血鬼少女と

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はじまり

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世界は崩壊した。

原因は『吸血病』と呼ばれる未知の奇病だ。吸血病の原因となる

ウイルスに感染した者は全身から出血したのちに心肺停止し

8割がそのまま死亡。2割は蘇生するがそのうち半数はウイルスにより脳に重大な
損傷を負い理性と知性を失い凶暴化、そしてウイルスの影響により身体能力が向上しまるで『吸血鬼』のように血液を求め
他者に襲い掛かるようになる。そうなったものは『感染者』と呼ばれる。
残りの一割だけが治癒するが『治癒者』にも吸血衝動などの後遺症が残る。
しかしそれと引き換えに治癒者は身体能力や治癒能力が普通の人間に比べ
大幅に向上、身体の老化も停止する。治癒者は『吸血鬼』と呼ばれることもある。
この原因不明の疫病のパンデミックにより世界中がパニックに陥った。

ウイルスへの恐怖により日本各地で過激な地域主義が台頭。

それにより民衆が自警団や民兵を結成し、各地で県境の封鎖や

パンデミックで崩壊した大都市から脱出した難民の虐殺を行った。

さらに、政府が感染症対策として行った主要都市などのロックダウンに反発し、世界中で民衆が暴徒化。

日本でも暴徒が警察や自衛隊、自警団などと衝突した。
そしてついにこのウイルスを西側諸国の生物兵器攻撃だと信じ込んだ某国の大統領が
核ミサイルを発射。西側諸国も核兵器で応戦し限定核戦争が勃発。
日本にも数発の核ミサイルが着弾した。
これがとどめとなり世界中の国家や文明は崩壊した。

米中露は国内で核兵器すら使用する内戦状態に陥った。日本も日本政府が崩壊し無政府状態に陥り、警察や自衛隊は壊滅。

無法者や民兵、軍閥、カルト、テロリストなどの武装勢力が全国各地で台頭。

まるでかつての戦国時代のように領土や限られた食料、物資、文明の遺産などを巡って殺しあう。

そして世界はあっけなく壊れてしまった。







「レトルトカレーにパックご飯…少ししかないな…」

「缶詰もこれしかないよおじさん」

廃墟と化したスーパーの陳列棚を漁る俺と少女。

俺の名は佐藤。少女の名は葛城。セーラー服に黒タイツを着た

雪のように白い肌に濡羽色の腰まで届く長い髪が特徴の女子中学生の美しい少女だ。

過去に自警団員に目の前で両親を殺され、自身もリンチされ殺されかけていたところを

助けてから、ずっと俺とともにいる。

そして俺たちは二人とも武装している。

俺のほうはべネリM3とコルトガバメント、S&WM360jと

パワーアシスト専用のパワードスーツなどを装備。

葛城のほうは7.62×39mm弾が使えるようにカスタムした

銃剣つきの三八式歩兵銃と日本刀などを所持している。今の日本では銃は生活必需品だ。

俺たちは必要最低限以上の言葉を交わさず、黙々と食料を

バックパックに詰め込んでいた。

俺たちは『トレジャーハンター』だ。各地を放浪しながら

疫病と戦乱で廃墟になった都市などから食料や物資、貴重品を漁って暮らしている。

「もうこれ以上食料は無いな。出よう」

「わかった」

俺たちはバックパックを背負うと、外に出た。

空は晴天だ。「大丈夫か?」

「平気」

葛城は『治癒者』だ。治癒者と感染者は太陽光と銀に弱い。

吸血病の原因となるウイルスが紫外線と銀イオンに弱いためだ。


「さて、今度はここを漁るか」

「うん!」

俺たちは今度は別のスーパーを漁ることにした。

しかし、今度のスーパーはすでに漁りつくされているのか、棚はほとんど空いていた。

俺たちは残されたものがないか調べるため、さらに奥へと向かう。しかし、それが間違いだった。

奥のほうからかすかにうめき声や何かを引きづるような音が聞こえた。感染者だ。

俺と葛城は顔を見合わせると、互いにうなずき足音を立てないように踵を返そうとした。

しかし、俺が空き缶を蹴飛ばしてしまった!

「血だあああああああ!!!!」

「ヨコセエエエエええ!!!!」

近接武器で武装した感染者がとたんに襲い掛かってきた!俺は咄嵯にショットガンを発砲。

その一発で感染者は即死する。

「走れ!!」

「わかった!」

俺たちは全速力で出口へと向かう。途中で後ろを振り向き、ショットガンを発砲。二、三人の感染者を倒したが俺のべネリM3は民間用などで薬室を含めても最大三発しか

装填できない。俺はショットシェルをべネリに装填する。その時、横合いから感染者が襲い掛かってきた!

「ヨコセエエエエ!!!!」

俺はとっさにガバメントを抜くとダブルタップで発砲。二発の45口径弾を食らった感染者は倒れた。そしてそのまま全力で走る。

そして出口が近づいてきた。しかし、横合いから感染者に押し倒されてしまった!

感染者が俺の首筋に噛みつこうとする。しかし、葛城が感染者を蹴飛ばし、心臓に銃剣を突き刺した!

「大丈夫おじさん!?」

「あぁ、助かったよ葛城。ありがとう」

そして俺たちはついに建物を出た。そのとたん感染者は立ち止まる。

勢いあまって外に出た奴もいたがそいつらはとたんにもがき苦しんで倒れた。

奴らは紫外線が弱点だ。特に日光は奴らには致命的だ。


「やっと出てこれた……」


俺たちはしばらく息切れで動けなかった。だが、すぐに立ち上がり周囲を警戒した。

「どうやらこの辺は安全みたいだね。よかった……」

「そうでもないぞ、葛城。よく見ろ。ここは町外れだ。それに日も暮れてきた。これから先は危険だ。

今日はもう引き返そう」


そして俺たちは拠点であるテントまで戻ってきた。そこで飯にすることにした。俺はレトルトカレーを皿に盛ると、葛城に手渡した。

「ほれ、葛城の分だ。食おうぜ」

「ありがとう、おじさん」

そして俺たちは食事を始めた。

「おいしいね」

「そうだな」

俺は少しだけ笑みを浮かべた。

葛城は俺の笑顔を見ると嬉しそうな顔をして、自分も微笑んだ。

それから数日後、俺と葛城は廃墟となった街にいた。

荒廃した街並みを歩く。あちこちで銃撃戦の跡や、 暴徒に襲われた跡が見られる。

俺たちはそんな場所を歩きながら、物資を探していた。

「おじさーん!こっちに缶詰があったよ!」

「よし、行こう」

俺と葛城は瓦礫の下敷きになっていた 缶詰を手に取った。

「おぉ……!すごいな!これは高級品だ。

『贅沢な鳥肉の煮込み』って書いてあるぞ」

「やったね!おじさん!!」

「あぁ、早速食べよう」

俺たちはその缶詰を開けると、中に入っていたスープを スプーンですくう。すると湯気とともに食欲を誘う香りが漂ってくる。

俺たちは同時にその料理を口に運んだ。

「うまいな」

「うん!」

翌日

いつものように探索をしていた俺たち。だが、突然銃弾が俺をかすめた。

「隠れろっ!!」

俺たちが遮蔽物に身を隠すと同時に、大量の銃弾が遮蔽物に撃ち込まれた。

「食い物を持ってるぞ!」

「ぶっ殺せ!」

略奪者の襲撃だ!FGC-9で武装している。

俺はべネリM3を構え、トリガーを引く。略奪者の一人が内臓をぶちまけて吹っ飛んだ。

「野郎!」

略奪者はFGC-9を乱射するが、酒かクスリでもやってるのか

照準が全く合ってない。

俺と葛城はなんとか奴らの銃撃を潜り抜けて反撃に移る。

俺は火炎瓶を、葛城はパイプ爆弾を取り出し着火。敵に投げつけた!

「うわああ!」

「熱いいい!!」

「逃げろおお!」

略奪者たちは慌てて逃げ出した。しかし、俺と葛城はさらにパイプ爆弾をいくつか投げ込む。

「ぎゃああ!!」

「ぐげえ!!」

「助けてくれ!!」

爆炎に包まれた略奪者の断末魔が響き渡る。

混乱のスキを突き、俺と葛城は発砲。敵を射殺していく。しかし、

「死ねっ!」

近接戦闘を仕掛けてきた敵が鉈や金属バットを持って襲い掛かってきた!

俺は敵の頭部を銃床で殴りつけると、斧を抜き敵の首に突き刺した!敵の頸動脈から血が噴き出す。

一方葛城は日本刀で敵を斬り伏せていた。

俺は葛城に襲いかかろうとする敵に発砲。胸を撃ち抜かれたそいつは倒れ伏す。

「おじさん!後ろ!!」

俺は振り返りざまにショットガンを発砲。背後に回っていた男が脳漿をまき散らして倒れた。

「ふぅ…………」

何とか危機を脱した俺たちは武器を下ろし、一息つく。

「ふぅ……終わったね」

「あぁ、そうだな。葛城、怪我はないか?」

「うん、大丈夫だよ」

俺は葛城の顔を見る。彼女の顔には傷一つなかった。俺たちは死んだ略奪者からFGC-9と弾薬、物資を奪い、その場を後にし、再び物資集めを再開することにした。

「おじさん!あれ見て!」

葛城が指差した方向を見てみると、そこには戦車のような車両があった。

その時、突然警報音とともに砲塔がこちらを向いた!

葛城が俺の腕を引っ張るのと同時に、重機関銃が唸りをあげ50口径弾を俺たちに撃ち込んできた!

「畜生!暴走無人車両だ!」

おそらくあの無人車両(UGV)は外出禁止令を守らないものは射殺しろと命令されているのだろう。

そして指揮官が疫病で死に、命令を取り消すものがいなくなった。その結果、 自律型AIを搭載した無人車両やドローンが街を徘徊するようになったのだ。

「当市では緊急事態宣言の発令に伴い外出禁止令が発令されています。許可なく外出した者は無警告での射殺が許可されています」

銃声と共にUGVのスピーカーからアナウンスが流れてくる。

「クソッ!」俺はFGC-9で応戦する。だが、全く効かない。

「おじさん!!危ないっ!!」

葛城の声に反応すると、目の前を弾丸が通過していった! 俺は急いで葛城のもとへ戻ると、彼女を抱きかかえて走る!

「葛城!離れるぞ!」

「うん!」

俺たちは必死になって走った。幸いにも、攻撃が外れたらしく、俺たちは無傷で済んだ。「危ねえ……」

「助かったね」

「あぁ、だがこのままじゃまずいな」

俺と葛城は再び探索を始めた。

「おじさん!こっちに食料があったよ!」

「よし、行こう」俺たちはスーパーの廃墟にあった缶詰を拾う。

「高級品だな」

「うん!『贅沢なカニ肉のスープ』だって」

「早速食べよう」

俺たちは缶切りを使って中身を開ける。すると、濃厚で芳しい香りが漂ってくる。

スプーンですくうと、その見た目からは想像もつかないほど柔らかい。

俺と葛城は同時に口に運んだ。

「うまいな」

「うん!」
そういって葛城は微笑んだ。
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