調教師ファーマーの気まぐれ漂流記

竹田勇人

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第2話 木霊

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旅立ちの日、僕はみんなの街の大きな門の前に並んでいた。そこにはミエルも並んでいる。鎧やメイスや杖を持った人もいれば僕のように旅に必要なものがほとんどない人もいる。現に、僕が持っているのは方位磁針と地図、あとは野外設営の寝床だけだ。ミエルは大きなザックを背負っている。
ミエル「クレール!頑張ってね。死んじゃダメだからね!」
クレール「大丈夫だよ。ミエルも気をつけてね。」
ミエル「うん!頑張るね!」
僕たちは門の外へつま先を向けた。振り向かずに門をくぐり、それぞれの道へ進む。それがしきたりである。
クレール「行ってきます…」
そして、僕は他のみんなと門をくぐった。魔障の森へ向けて歩き出す。騎士希望やアサシン、魔銃士の戦闘職希望の人が何人か見える。隣の町からも同じ人たちが来ていた。そんな中、丸腰の僕は少し場違いな雰囲気もしなくはないが、とにかく森の中を歩き始めた。まず狙うは木霊、魔獣はそれからだ。そう思いながら気合を入れて歩いていたのだが…
クレール「うぅ…木霊どころか魔獣すらまともにいない…」
歩き始めてからもう4時間はたっただろうか。太陽がだいぶ高く上がってきている。なのに、これだけ歩いても出会うのは小さなラフレシアばかり。ただただ臭くて気味の悪い花がうろついているのみである。早速出鼻を挫かれ少しテンションが下がり気味の僕の前に少し高めの木が現れた。
クレール「あっ!ココラッツの木だ!ちょっと休憩しようかな…」
そこにあったのは高さ5メートルはゆうにあろうかというノッポの木だ。この木になるココラッツは実の中に美味しい水が詰まっている。休憩するには丁度いいと思い、近くのツタの先に石を括り付けて木の実めがけてぶん投げてた。見事命中した石は木の実とともに土の上に落ちてドサッと音を立てた。因みに、この技は小さい頃ミエルと遊んでいて身につけたものだ。あの時両親にこっぴどく怒られながらも遊び続けた自分を心の中で褒め称えたい気分だ。
クレール「結構大ぶりだな。よかった。」
クルッと振り返ったその時だった。
小人「クー!!クー!」
そこには身長100センチ位の人型の生物が立っていた。小人とも思ったがどうも様子が違う。
クレール「どうしたんだ?一人か?」
小人「クー!クックック!クー…クーン…」
その小人は何やらお腹を押さえて悲しそうに泣いている。いや、鳴いている…のか?
クレール「お腹痛いのか?」
小人「クー…」
小人は首を横に振って僕の手にあるココラッツを指差した。
クレール「これが欲しいのか?」
小人「クー!!クックー!!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでいる。なるほど、かわいい。ショタコン的なそれではなく弟みたいだ。
クレール「そっか、じゃあこれあげるよ。」
僕はココラッツを手渡した。
小人「クー!!クギュッ!!グー!!プギュー!」
すると踊って自分の頭の上にココラッツを掲げた瞬間、それに潰されてしまった。
クレール「だ、大丈夫?今潰れたよね?」
小人をココラッツごと引っこ抜いた。するとクープはお辞儀をする仕草をして頭をポリポリとかいた。
クレール「待ってて、もう少し小さいのをとるから。」
僕はさっきのツタを投げて少し小さめの木の実を落とした。今度は丁度いいくらいの大きさの実を手渡すとそれを器用に指でほじって飲み始めた。
小人「クー…ゲプッ」
クレール「かわいいなぁ。意外と余裕あるし、とりあえず仲間にしておこうかな。」
僕は無心にココラッツを飲む小人に魔力をかけて詠唱を始めた。
クレール「神に授かりしこの魔力を持って主従の契りを交わし、我永劫の半身となれ。」
ほんの少し緑色の光に包まれた小人は首元に黒い十字架の紋章が刻まれた。
小人「クー?クックー!」
クレール「えーっと、一体何者なんだ?」
僕は小人を持ち上げて背中のプロフィールを覗いた。そして僕は絶句する。
クレール「え…種族、こ、木霊!?しかもレベル200オーバーのSS級超上位種!?」
木霊「クー!」
僕が驚いていると何故か小人…いや木霊様は誇らしげに胸を張った。どうやら僕のことをお気に召してくれたようだ。
クレール「え、えっと…とにかく名前を決めよう。君は…クープだ。」
クープ「クー!クークー!」
クープは腕を上げて万歳のような体勢をとった。
クレール「よかった。気に入ってくれたみたいだ。じゃあ、よろしくな。」
クープ「クー!」
それにしても、まさかこんなにもあっさりとこんな上位種の木霊が手に入るなんて…でも、本来の木霊ってあのジ◯リのアレ見たく白くてコロコロした人型とは言い難い外観のはずなのだが…まぁ、SS級なら外観が本来と違う超変上位種というタイプもいるから、きっとその類なのだろうけど…ともかく、おかげで僕は当初の予定から充分過ぎるほどの相棒を手に入れたわけで、遂に上位種の魔獣探しを本格的に探しに行くわけなのだが…ここよりも先はいよいよ戦闘系の魔獣が増えてくる。正直、運しか恩恵のない僕がこの森を一晩中彷徨って無事に帰れる可能性はほぼないわけで…残念ながら今日はここで野宿ということになる。まぁ、難航するであろう魔獣探しにたっぷりと時間を当てておいたおかげで遅れという遅れは特にない。それどころか、クープの一件を考えるにむしろ予定以上だったと言うべきだろう。そんなこんなで少し木のない広場に出て荷物からテントを取り出して張ったのであるが…
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