神様の巫女 〜妖と暮らす少女、少女を気に入る貴神〜

ぬん

文字の大きさ
27 / 32
プロローグ〜開幕〜

第二十六話

しおりを挟む

 時間は遡り、場所は屋外。

「少しは降りてきたらどうですか?」

 屋外では、秋花と烏水の勝負が硬直していた。
 翼を持たない秋花は、滞空し続ける烏水に手も足も出ない状態だった。

「黒き翼こそ天狗の骨頂。空中戦こそが天狗の真の戦い方だ。翼のない貴様ら人間は、最初から私の敵ではない。何故七を使わない」
「私が頼んだのですよ。兄者とサシで戦いたいと」
「それは私への情か?」
「さあ? どうでしょう」

 秋花と烏水が本気で戦ったことはもちろんない。
 逃げも隠れもできない狭い御殿の外見の面積でしか戦うことができない秋花に対し、烏水は守備範囲を自在に操ることが可能。間合の調整も、攻撃のタイミングも主導を握っているのは彼であり、秋花にはあまりにも不利な状況だ。

「寿命が短い人間であるが所以か。見えぬ未来より、すでに居心地の良さを知る過去に無意識に縋ってしまう。哀れだな、容易に過去を捨てられないのは。そのせいで同じ過去を繰り返す時間を持たない君達は、次の未来に踏みこむことができないのだから」
「何が言いたいのですか?」
「私は、君が私の教え子だろうと、妹のように可愛がっていようと、共に過ごした時間が長かろうと、情など関係ない。しかし、秋花はどこかで期待しているのではないか? もしかしたら私が、途中で心変わりしてくれるのではないかと」

 その問いに対して、秋花が若干口をつぐんだのを、烏水は見逃さなかった。

「図星だろ?」
「思ってませんよ。そんなこと一度も」

 悲しい目をしながら、秋花は呟くように言った。

「期待しているのは兄者の方でしょう? この世で生きる事を決めた私には、最初から他人を思う気持ちなどなかった。弱肉強食な妖の世界で生きていた私に感情を教えてくれたのは紛れもない、貴方です。心変わりしてくれだなんて思わない。むしろ、煩わしいものを教えてくれたお陰で、貴方を斬るのに躊躇う自分に腹が立つ」

 理性ではコントロールできない無意識の感情……しかしそれは、秋花が妖と同じ無慈悲な人間に育たないよう、烏水が人である秋花のために教え込んだ大切なブレーキ。

「目を覚まして下さい。兄者」
「私は、間違った選択などしていない!」
「兄者が今、命を削って守ろうとしている僧正坊は兄者に何をしてくれましたか?」
「過去の罪を赦し、天狗を守る地位を授けた」
「何を言っているのですか。気持ち悪い。違うでしょう? 貴方が命を賭して守っている僧正坊は、かつて貴方が全てを捨てて守ろうとした妹を殺した張本人です!」

______『兄者……お願い。私、生きたいわ』

 ふと記憶に蘇る、かつての結香の強張った笑み。
 それは、烏水の中で奥深く仕舞い込んでいたトラウマだった。
 逃走に失敗して、兄妹諸共、僧正坊の前に突き出された時のことだ。本来であれば即打首にされても文句が言えない状況であるにも関わらず、僧正坊は自身の降格のみで裁きを赦した。
 ただし、妹の運命を選択することを条件に。

『選べ、烏水。妹を処刑するか、儂の妾にするか』

 選択肢は実質的殺害か、性奴隷の二択。どちらを選んだとて、結香の運命は地獄しか選べない。
 烏水は悩み、考えた。考えて考えて考えて考えて……結香の実質的殺害を選ぼうとした。
 結香には、生きてほしい。それでも、残りの時間が生き地獄だと分かりきっているならば、苦しんで生きるよりも、一思いに死に、1秒でも早く何にも縛られることない生に生まれ変わってほしい。
エゴだと思っても、それが最大限妹のために考えた決断だった。

 その時だ。

『兄者……お願い。私、生きたいわ』

 不安な表情を無理に口角を上げて、震える声で言葉を絞り出した、結香の言葉だ。

 それを聞いた時、烏水は分かった気がした。結香も本当は、殺してほしいんだと。だけどそれでも嘘を吐いたのは、自身の手を血で染めて欲しくないからなのだと。

 それで、自分の意思を貫き通すことができればどれほど良かったことか、烏水は後悔してやまない。
 哀しくも、兄のために放った結香の想いは、妹に生きてほしいと願う兄の本心を後押しした。
 例え死ぬまで会えなくても、生きてさえいてくれればいい。次会うその時まで、どうか生き続けてほしい。
 その思いが勝って、結果烏水は結香を性奴隷にすることを決めた。

「うるさい!」

 混濁する記憶に抗うかのように、烏水は猛烈に刀を振るった。
 烏水の急変ぶりに動揺する秋花は、彼の猛威の太刀を捌くので精一杯だった。

(一太刀が、重い!)

 一撃当たれば間違いなく身体が真っ二つになってしまいそう。刀で受けても一太刀の威力が重すぎて、刃が当たる度に腕が痺れるし、受けるだけでも体力が持っていかれる。

(押される!)

 大きく横一線に振られた刀を屈んで避けると、小屋の柱に刃が引っかかった。

バキン!!

 その隙を狙って秋花は烏水の刀を真っ二つに切り折った。
 替え刃も持たない今、これで烏水は丸腰になった。畳み掛けるチャンスをみすみす逃す訳には行かない。振り下ろした刀の刃を切り返し、烏水の首を狙った。
しかし……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二十五時の来訪者

木野もくば
ライト文芸
とある田舎町で会社員をしているカヤコは、深夜に聞こえる鳥のさえずりで目を覚ましてしまいます。 独特でおもしろい鳴き声が気になりベランダから外を眺めていると、ちょっとしたハプニングからの出会いがあって……。 夏が訪れる少し前の季節のなか、深夜一時からの時間がつむぐ、ほんのひと時の物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...