神様の巫女 〜妖と暮らす少女、少女を気に入る貴神〜

ぬん

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プロローグ〜開幕〜

第二十七話

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「!!?」

 烏水は、その並外れた反射神経で秋花の一太刀を躱すと、素早く間合いを詰め、彼女の首を両手で掴み、上に向かって締め上げた。
 そして抵抗できないように、そのままの状態で烏水は浮上した。踏ん張る足場がなく、秋花の体には重力に体重も相まってより負荷がかかり、足をばたつかせて必死にもがいている。せめてもの抵抗にと、刀を振ろうとするが、振りあげようとしたところで右手首を捻り折られ、秋花も刀を落としてしまう。

「あ"ぁ!!!」
「やはり、簡単には変わらないな。デタラメな動きに、反撃を念頭に入れない野生的な攻め方。初見殺しの戦い方は止めろと、教えたはずだ」
「クッ……!」






 あまりの苦しさに、ほんの一瞬だけ走馬灯が見えた気がした。

『お前の刀は、とても痛そうだ』
『は?』

 まだ私がここへ来て間もない頃、兄者と出会った時の記憶を鮮明に思い出した。

『見て数秒だけで君の生き様が良く分かる。手加減知らずで慈悲の欠片も躊躇も恐れもない。迷いなく剣筋に自信さえあり、勝つことしか考えていない単純思考回路型。頭を使わず勘で戦う』

 その当時は、兄者の事は見たことある程度で、名前すら知らなかった。
 突然、刃と二人で稽古をしていたところへ兄者が口を挟んできたのだ。

『刃。天狗は悪口を話す生き物なの?』
『悪口じゃなくて正論だっつーの』

 天狗への信頼感がまだ希薄だった私は最初、兄者のことを嫌煙していた。

『君は人間だろ? どれだけの修羅場を潜った』

 彼は私の前に膝を着き、子どもの私の目線に合わせて、真剣な眼差しで私に聞いた。

『修羅場って、どこからが修羅場?』

 私がそう聞き返すと、兄者の私を見る目が、何故か哀れみを帯びた悲しい目に変わった。

『可哀想に。君はもう、自分が死ぬことへの興味が無くなったか。反撃への恐れがあればそんな太刀にならないはずだ』
『痛いの嫌だもん。二の手を前提に動けって刃もいつもうるさいし、ちゃんと連の動きを意識してる』
『君のは、刃のただの模倣だ。戦場では使えないし、そもそも使う気はないだろう』

 その時、私は兄者を刃に似ていると思った。
 刃は稽古中、動きや太刀筋を見るだけで、私が考えていることを意図も簡単に読み取った。まるで、私の心を覗き込まれているような感覚だった。
 単純な話、兄者も刃と同じで、出会って間もない私の考えていることを読み取ったのだ。

『刃とやら、この子の野生味溢れる太刀筋の修正を諦めるな。まだ余地はある。この子を生かす気があるならば、死への恐れを植え付けろ。大切なものを作らせるなり、思い出を作らせるなり、なんでもいい。この子自身が自分を大事にできるようにさせなさい』
『はあ? なんで俺が』
『この子はお前の弟子なのだろう? 弟子の技量は師の技量。お前の指導は大したことないと露見しているようなものだ』
『なんだと、テメェ』
『この子は人間だ。妖の感覚で指導をするでない。妖には妖の、人間には人間に合う修行の仕方がある。その中で彼女にとって必要なことだと言っているのだ』
『ケッ! こいつがどうしてもって言うから面倒見てやってるだけだ。妖のやり方で追いつかねぇなら、人間のやり方で教えてくれるとこに行けってんだ』
『それは君よりもこの子が一番そう思っているだろうよ。その方が手っ取り早いし、君が教えるよりも吸収も早いに違いない』
『喧嘩売ってんのか!』
『でも、そうしたくない理由があるのだろ?それとも、君からしか教われない何かがあるのか』
『無い』
『あれよ!』
『人間のやり方と言っても、大切なものの作り方はきっと我々と変わらないよ。私も手伝おう』
『どうして?』
『どうしてかな。自分でも分からないけど強いて言うなら、君が私の妹にどこか似ているからかな?』

______『君には、自分を大切にしてほしいと思うよ』





「認めるよ。妹の面影を勝手に重ねたお前を、手塩にかけて育ててきたことが私の最大の間違いだった。二度も妹を殺すことになるのなら、あの日、お前に声をかけるんじゃなかった。最初から過ごした時間をなかったことにすれば、私もお前も互いに楽に殺せたはずだ」

 怒りの感情が籠った言い方。
 だが、苦しさのあまり自然と目を瞑ってしまう中、瞼の微かな隙間から見えた烏水は、あまりにも虚ろな目をしていた。

「さようなら、秋花」
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