売られた少女とヤクザの息子

ぬん

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「マジで来やがったな」
「うん、来たよ」


ついに僕の初仕事の日。
若の帰り時間に合わせて学校の校門前で若が出てくるのを待っていた。ても若は、僕に気づいた途端に急に歩くスピードを速めた。
まあ、ボディーガードを嫌がる若が普通に帰ってくれない事は想定済み。先生の言う通り、の知識が役立つ時かもしれない。


「付いてくんな」
「でも先生から、若に何言われても離れちゃダメって」
「先生?」
「御笠のおじさん」
「知るか!付いて来たら殺す!」


若はさらに足を早めた。元々歩幅も違うから、若について行くために、僕はほぼほぼ走っている状態だ。


「殺されても離れるなって」
「うっさい!言うたやろ!半径1キロ以内に入ってくんな!」
「そういえば、半径1キロってどのくらい?」
「めんどくさっ!!!」


学がない僕に難しい単語を言われても理解ができない。まあそれ以前に、先生の言い付けを守らなかったら尻叩き50回だから若の言う事はどんなことでも聞けないんだけど……。

若はさらに足を早めて、僕を引き剥がそうと遂に走り出した。若に走り出されると、さすがに僕はどうあがいてもついて行くことが難しい。


ーー『では菊乃。ボディーガードが嫌な若が遂に走り出してしまいました。菊乃にはとても追いつけないスピードです。さて、どうしますか?』

『近くの人から車を借りる』

『大胆ですねぇ。ではもし車が借りれなかったらどうします?』

『諦める』

『早いですねぇ。いいですか?こういう時は、若自身がこちらに興味を持ち足を止めてもらうのです』

『どうやって?』

『これは自論ですが、私は「環境は人を殺す」という考えを持っています。人と環境は互いに影響し合う相互関係にあります。周りの環境を見て、相手が精神的なダメージを持たせれば相手は本能的に怯みます。若の場合、登下校時に必ず学生が大勢います。その学生が大勢いる環境を利用しなさい』

『うーん……』

『例えば学校で少し浮き気味の若には、菊乃がこんな事を叫ぶと、必ず足を止めるはずです』



「待ってよ、!!!」
「誰が『お兄ちゃん』やねん!!」


すごい。先生が言った通り、逃げていた若が足を止めた。


「置いて行かないで!お兄ちゃん!!」


そのチャンスを無下にしないために、僕はもう一度若の事を『お兄ちゃん』と呼びながら走り寄り、追い討ちをかけた。


「だから誰がお前の兄」
「松田君って、妹おったん?」
「でもちょっと似てなくない?」
「もしかしてお兄ちゃんの学校まで付いてきたん?」


まさに御笠の狙い通り。下校中の生徒が騒ぎに引かれて春詠の方へ視線が集まってきた。自分の方へと視線が集まり出していることに気づいた春詠は、先に言うはずだった言葉を飲んだ。


(マ……マズイ……!)
「お兄ちゃ、ング!!」


春詠はとにかくその場を離れるために、一先ず機械ロボのように繰り返される菊乃の『お兄ちゃん』を塞いだ。そして菊乃を抱え、皆の視線から逃れるように裏道に入り、その場を走り去って行った。


「ったく御笠あの野郎……覚えとけよ!!!」


菊乃の初出勤は、春詠に持って帰られる形で呆気なく終わってしまった。

そして、次の日の放課後……


「お前また来よったな!!」
「来るよ?」


既視感デジャブが始まる。


「昨日の俺の苦労見とる上で来るか!?」
「でも先生には何言われても迎えに行けって言われた」
「また御笠アイツか!!いつ言うてん!?俺が文句言いに行こうとしたら絶対おらんようになるクセに!」
「お兄ちゃん、早く帰ろ」
「『お兄ちゃん』言うな!!」


昨日の事があったせいで昨日よりも視線が集まっている気がした。
昨日のように菊乃を抱え逃げれば、少なくとも昨日より注目の的にならずに済むかもしれない。しかしそうすると、これから先、春詠は毎日菊乃を抱き抱えて帰る事になり兼ねない。悲しいことに、春詠は菊乃を抱えて家まで全力ダッシュし続ける体力は持ち合わせていない。


(ならば……)
「ふん!!」


このまま菊乃を引き剥がして1人先に帰った方が少なからずまだダメージは軽いと考えた春詠は、菊乃を置いて1人走り去った。


(昨日の手はもう絶対に効かへんで、菊乃!)


どんどん小さくなっていく菊乃を時々振り返りつつ、春詠は走り続けた。


「うわぁぁああぁあぁあん!! 春詠兄ちゃんに捨てられたーーーーーー!!」
「あほ抜かせーーーーーーーーーー!!!!」


結局今日も回収した。
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