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(19)デートにしたかった男③
照明が消えて辺りが一斉に暗くなる。非常点滅表示灯の明かりだけがスクリーンの邪魔をしないように光っている。
始まる前に上映に際しての注意点とお願いをする案内と次の注目の上映予定の映画の予告編が映し出される。これだけで、人々の感覚は場内を満たす映画館特有の重低音の、全身に響くような鼓膜を震わす音によっても普段と切り離されて非日常の世界に入って行くのだ。
予告編が終わり、映画が始まる。
静かに流れるクラシックの音楽と戦いで流れるロックのギターやドラムを叩く音の振動が全身を高揚させる。戦いの場面は実際に戦っているジョルジオから見ても結構実戦に近い。アクション映画で無いので勇者のえげつなさが描かれていなく―――いや、一般人は知らないから描かれない―――て良かった。この映画でも殊更、勇者とはいかに慈悲深く犠牲的精神に溢れ、仲間思いかが描かれていた。
嘘吐きだ。通報してやる。
ジョルジオの心の叫びである。
絶対出来ないけど。
魔物に困る村を助けながら旅を続ける勇者一行。立ち寄った異国のオアシスで、勧められ、街の権力者の顔を潰してはいけないと義理堅く足を運んだ娼館で権力者から事前に連絡を受けていた、その娼館でのナンバーワンと出逢う。
―――いやいや、貴方、人の顔平気で踏み潰すでしょ。踏みつけた上で超瞬間冷凍して、粉々にして風で吹き飛ばすでしょ。
ジョルジオ青年のツッコミが内で炸裂する。
娼館は客の守秘が大事。
増してナンバーワンである。心根は他の娼妓よりも高い。
勇者は無表情を貫きながら、内心驚いていた。やって来たのが想像と違っていたからだ。もっと大人の感じの者が相手になると思っていた。いや、それよりも自分の元に来たのは黒髪に濃い紫色の瞳の魔族だったのだ。
魔族はこの時、死を覚悟していた。
勇者の馬鹿みたいな魔力量を前に正体がバレていたのが分かったからだ。
魔族は今の情勢では死を望まれるもの。
何も悪い事をしていない善良な人間達が殺されたように、罪を犯してなくても魔族も人間に殺されるのだ。因果応報だ。例え自分の預かり知らぬ所での事とはいえ。
ところが勇者に動きがない。
魔族は不審に思う。
この人間、大丈夫?
冷や汗をかかれていたとは知らない勇者だった。
勇者が再起動してすぐに男娼は交代する事を提案し、そそくさと去ろうとした。が、男娼が愛想笑いで部屋を出ようとした瞬間に素早く自分の側に来た勇者に肩を捕まれる。
いやー!怖いんだけど、この人間!?
全身に鳥肌を立たせ、顔を背け手で勇者の顔をぐぐっと押し退け、片足でブロックする男娼に勇者は心を掴まれた。
得体の知れない人間に怯える男娼に勇者は怖い笑顔、じゃなくて怖いくらいに爽やかな笑顔をして呟いた。
『やっと見つけた』と。
―――これ、公認て何の冗談ですか。
ジョルジオが戦慄する。
ちゃんと文章読んだんですか勇者様!
勇者から注がれるゲリラ豪雨の様な愛情に男娼は辟易していた。
終いには『もう来るな』と言った。やがてこの『もう来るな』が別れの言葉となった。
『もう来るな』が『また来てね』とでも聴こえたのか勇者は間を置かずに娼館にやって来た。でもちゃんと仕事はやっている。そのせいで拒むに拒めない。
かなり不本意な日々が続く。
愛してると言う。
愛してないと言う。
勇者が言う。
自分が言う。
埋まらない温度差、交わらない互いの色。
戦いは激しさを増し殺戮の分だけ魔王に近づき、勇者が訪れる間隔が開く程に終わりが見えてくる。
自分の気持ちが分からない―――。
と、ここで女性のすすり泣く声のが聴こえた。こちらに聴こえてくるくらいなのだ、一人二人ではないだろう。
え!?何か感動する様な場面、有りました!?
ジョルジオが混乱する。つい…と隣を見た。ケイトがハンカチを握りしめて口元で持っている。画面の明かりに照らされた視界に映ったのは必死に泣くのを我慢して、でも涙が言うことを聞かずに流れていた人だった。
ええええええっ!?ちょっと待ってケイトさんまで!?何!何か泣く様なシーンあった!?
隣で焦るジョルジオに構う事なく、ケイトはちゃんと会場の空気に同調してしまっていた。
ケイトさん!
声を掛けるべきか、掛けないべきか。
ジョルジオは真剣に悩む。
泣いているのを見られたくなかったら、見ないフリをしなくては。
でもさり気なく清潔なハンカチを渡すのも良いだろう。ちゃんと綺麗なハンカチだ。新しく買って抗菌効果のある柔軟剤も使って洗濯してきた。使い所がまさかの場面だけれど。
「ケイトさん、これ…」
勇気を出して精一杯さり気なさを装いながらハンカチを渡した。
「ジョルジオ君」
「汚く有りません。大丈夫です」
ケイトがハンカチを受け取った。
「有難う」
本当に泣けるシーンあったかな……。
訊いてはいけない。
映画はまだ続く。
始まる前に上映に際しての注意点とお願いをする案内と次の注目の上映予定の映画の予告編が映し出される。これだけで、人々の感覚は場内を満たす映画館特有の重低音の、全身に響くような鼓膜を震わす音によっても普段と切り離されて非日常の世界に入って行くのだ。
予告編が終わり、映画が始まる。
静かに流れるクラシックの音楽と戦いで流れるロックのギターやドラムを叩く音の振動が全身を高揚させる。戦いの場面は実際に戦っているジョルジオから見ても結構実戦に近い。アクション映画で無いので勇者のえげつなさが描かれていなく―――いや、一般人は知らないから描かれない―――て良かった。この映画でも殊更、勇者とはいかに慈悲深く犠牲的精神に溢れ、仲間思いかが描かれていた。
嘘吐きだ。通報してやる。
ジョルジオの心の叫びである。
絶対出来ないけど。
魔物に困る村を助けながら旅を続ける勇者一行。立ち寄った異国のオアシスで、勧められ、街の権力者の顔を潰してはいけないと義理堅く足を運んだ娼館で権力者から事前に連絡を受けていた、その娼館でのナンバーワンと出逢う。
―――いやいや、貴方、人の顔平気で踏み潰すでしょ。踏みつけた上で超瞬間冷凍して、粉々にして風で吹き飛ばすでしょ。
ジョルジオ青年のツッコミが内で炸裂する。
娼館は客の守秘が大事。
増してナンバーワンである。心根は他の娼妓よりも高い。
勇者は無表情を貫きながら、内心驚いていた。やって来たのが想像と違っていたからだ。もっと大人の感じの者が相手になると思っていた。いや、それよりも自分の元に来たのは黒髪に濃い紫色の瞳の魔族だったのだ。
魔族はこの時、死を覚悟していた。
勇者の馬鹿みたいな魔力量を前に正体がバレていたのが分かったからだ。
魔族は今の情勢では死を望まれるもの。
何も悪い事をしていない善良な人間達が殺されたように、罪を犯してなくても魔族も人間に殺されるのだ。因果応報だ。例え自分の預かり知らぬ所での事とはいえ。
ところが勇者に動きがない。
魔族は不審に思う。
この人間、大丈夫?
冷や汗をかかれていたとは知らない勇者だった。
勇者が再起動してすぐに男娼は交代する事を提案し、そそくさと去ろうとした。が、男娼が愛想笑いで部屋を出ようとした瞬間に素早く自分の側に来た勇者に肩を捕まれる。
いやー!怖いんだけど、この人間!?
全身に鳥肌を立たせ、顔を背け手で勇者の顔をぐぐっと押し退け、片足でブロックする男娼に勇者は心を掴まれた。
得体の知れない人間に怯える男娼に勇者は怖い笑顔、じゃなくて怖いくらいに爽やかな笑顔をして呟いた。
『やっと見つけた』と。
―――これ、公認て何の冗談ですか。
ジョルジオが戦慄する。
ちゃんと文章読んだんですか勇者様!
勇者から注がれるゲリラ豪雨の様な愛情に男娼は辟易していた。
終いには『もう来るな』と言った。やがてこの『もう来るな』が別れの言葉となった。
『もう来るな』が『また来てね』とでも聴こえたのか勇者は間を置かずに娼館にやって来た。でもちゃんと仕事はやっている。そのせいで拒むに拒めない。
かなり不本意な日々が続く。
愛してると言う。
愛してないと言う。
勇者が言う。
自分が言う。
埋まらない温度差、交わらない互いの色。
戦いは激しさを増し殺戮の分だけ魔王に近づき、勇者が訪れる間隔が開く程に終わりが見えてくる。
自分の気持ちが分からない―――。
と、ここで女性のすすり泣く声のが聴こえた。こちらに聴こえてくるくらいなのだ、一人二人ではないだろう。
え!?何か感動する様な場面、有りました!?
ジョルジオが混乱する。つい…と隣を見た。ケイトがハンカチを握りしめて口元で持っている。画面の明かりに照らされた視界に映ったのは必死に泣くのを我慢して、でも涙が言うことを聞かずに流れていた人だった。
ええええええっ!?ちょっと待ってケイトさんまで!?何!何か泣く様なシーンあった!?
隣で焦るジョルジオに構う事なく、ケイトはちゃんと会場の空気に同調してしまっていた。
ケイトさん!
声を掛けるべきか、掛けないべきか。
ジョルジオは真剣に悩む。
泣いているのを見られたくなかったら、見ないフリをしなくては。
でもさり気なく清潔なハンカチを渡すのも良いだろう。ちゃんと綺麗なハンカチだ。新しく買って抗菌効果のある柔軟剤も使って洗濯してきた。使い所がまさかの場面だけれど。
「ケイトさん、これ…」
勇気を出して精一杯さり気なさを装いながらハンカチを渡した。
「ジョルジオ君」
「汚く有りません。大丈夫です」
ケイトがハンカチを受け取った。
「有難う」
本当に泣けるシーンあったかな……。
訊いてはいけない。
映画はまだ続く。
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