本物勇者に捨てられて次席勇者に拾われた俺

高島静貴( しずたか)

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(27)大食いしよう!②

「………ケイトさん、今まで大盛りメニューは食べた事があるんですか?」
「ないよ」
「ない?」
 大型鉄板がジュワジュワと音を立てる。
「俺が食えたのは普通盛り」
「ここの普通盛りって…」
「他よりちょっと多め?」
「ちょっと!?」
「ちょっとだよ、ほらもう黙って。これから集中するからね」
「………………」

 黙れと言われたから黙る。
 黙ってジョルジオは自分の定食を食べ始めた。コロコロステーキ状にカットされた肉は何の種類の魔獣なのか甘みがあって旨い。

 今日の食堂の日替わりランチは特別提供として"魔獣肉"があった。
 魔獣は主に冒険者らが狩る。
 
 身の周りの道具が魔力が必要な"魔道具"から魔力の必要がない"電化製品"に変わり、天界よりも余計に干渉しようと目論む魔界が大昔よりも存在感を薄めたとしても魔獣は変わらずいるし、魔物もちらほら出る。
 軍隊は対人戦闘の訓練の他に魔獣用の訓練も定期的に行っているが、あくまでも火器を使った速やかな排除である。進化した火器では跡形もなく燃えてしまい食材としてなど望めようもない。
 そこで冒険者の出番だった。
 冒険者ギルドこそ無くなって職業安定所になったりとか販売卸協会や薬草農協など役割が多岐に渡り細分化されても冒険者は冒険者として職業として残っていた。昔より派手な動きはないものの便利屋として認知されている。
 冒険者は魔素材採取として王都側の森や王国と隣国とにまたがる広大な森林、秘境などに赴く。状態が良ければ一攫千金の儲けがあるのだ。冒険者に求めるものが高い為、なり手は激減したが、なりたい職業ランキングでは今でも上位に位置している夢の職業である。


「美味い!すごい美味い!魔獣肉だけのメニューにしとけば良かった!」
 魔獣ステーキ肉を食べたケイトが感嘆する。
 ステーキ用にスライスされた魔獣肉はロース肉らしく大きさも厚みもある大判サイズがあと三枚は残っている。にも関わらずもっと欲しいと言い、他の料理が要らないくらい口に合ったらしい。
「?俺のも魔獣肉ですけど…」
 ちょっと見せて下さい。
 ジョルジオがケイトの魔獣肉を見る。筋繊維を見た感じでは違うようには見えない。
「味付けが違うんですかね」
「食べる?」
 大胆にザゴっと肉を一切れフォークに突き刺してケイトがジョルジオに差し出す。
 
 えっ。

 ちょっと待ってこのシュチュエーション。

「………」

 かなり嬉しい状況だと思う。
 けれども肉はごく普通に厚切りと言われている厚さの倍があり、しかも長さもあってフォークを境目に均等に垂れていた。

 ―――――――厚切り肉が垂れている…。

 フォークはしなる事なく肉の重さを支えている。特別太い訳でも大きい訳でもない普通のフォーク。

 ジョルジオは考えた。
 これは夢の『あーん』ではなく、あの肉を受け取って自分で切って食べるのだ。
 いや、普通そうだけど。
 これが夢の『あーん』だなんて虫の良過ぎる話だ。有り得ない。

 独りで高速回転で自分に都合のよい考えを打ち消してケイトを見た。
 ケイトはぴかぴかの笑顔だ。
 邪気がまるでなく、頬が上気している。

「!ケイトさん、もしかしてお酒飲みました!?」
「?ジュースだよ、飲む?」
 これもストローが付いたまま、大グラスごと差し出した。
 ジョルジオの肩が小刻みに震える。
「ケイトさん、あなたね」
 赤くなった顔を手で覆い隠し目線を合わせずにジョルジオがこれだけ言った。

 賑やかな店内で言ったジョルジオの言葉が一応聴こえたものの、それっきり無言となった事にケイトは不思議顔をした。頭上にクエスチョンマークをでかでかと乗せて。

 分かってない。
 いや、変に意識する自分が変なのか。
 
 ちょっと違う事を考えよう。
 ジョルジオが今出来る精一杯で現実を直視しないようにと頑張って意識を逸らす。
 魔獣肉がこんなにも喜ばれるんなら自分で狩った方が早いだろう。これでも勇者資格は授かっているのだ。密かに、密かにだけど!……仮免のペーパー勇者で終わるけど。ひっそり終わるけど。けれど!そこいらの冒険者より、よっぽどレアな魔獣を狩ってこれる自信がある!
 美味いのはどれだろう。
 今度勇者様に訊いてみよう。あの人絶対網羅している。


「………………ジョルジオ君?」

 要らないのかい?

 にっこりの表情が語っている。ジョルジオがハッとした。やばい。にこにこ笑顔でフォークが下げられてしまうっ!やっぱりここは夢の『あーん』で行こう!

「要りますっ、食べますっ!」

 叫んでジュースを確保しケイトが差し出した肉をフォークごと口に入れようとして固まった。

 ―――やっぱり一口がでかい。
 無理だ。無茶だ。無謀だ。
 一口がでかいというか、これを一口でどうにかしようとするのがそもそもの間違いなのだ。
 でもこの機会を逃しては当分の間ずっと後悔して仕事が手につかないに違いない。

 ジョルジオが焦る。

「ジョルジオ君?」

 小さく切って貰うか、噛みちぎるか。
 噛みちぎる?これを?

 ちょっと難しいかも。
 なら無理矢理口の中に押し込むか。
 これ、最悪窒息するんじゃ。
 どさくさに紛れてケイトの手――はちょっとまだアレだから、取り敢えず手首を掴んで――,。
 と思ったらジョルジオの手はすかっと空振りした。

「あ。ごめんね」
 サッとケイトがフォークを下げた。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ーーっ!?」
 ジョルジオがテーブルに突っ伏す。が、すぐに復活してストローが付いたままのジュースに意識を切り替えた。取り戻される前にストローに口を付けてジュースを飲む。
「大きかったんだね、御免ね、気が利かなくてって、あれ」
 それでもまだ半分の大きさもあるステーキを「はい」と差し出したケイトがジュースを必死に飲むジョルジオを見て停止した。
「……ジョルジオ君、全部飲んだらご飯入らなくなるよ」
 飲み切って
「問題ないです!」
 鼻息荒く否定した。
「あーーーー」
「ていうか!ケイトさん!これ!お酒じゃないですか!しかもちょっとで酔って!」
「…いや、今酔ってんのジョルジオ君」
「酔ってません!!」
「はは。で?どうするこれ」
 楽しそうに笑うケイトに返事もせずにジョルジオはフォークに刺さった分厚い肉を無理矢理口に入れた。調子に乗って分けたもう片方の肉もフォークに刺して差し出されたジョルジオはすぐに食い付いてリスの様になった。
「……リス」
 あっはははははははははは。
 ケイトが大笑いした。
「馬鹿だね。急がなくてもいいのに」
 ジョルジオが何かをモゴモゴと言っていたが、わかる筈もなく。
 予想した通り窒息手前案件になってジョルジオは涙目になった。


 
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