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(39)惚れ薬売ってます⑧〜クーポン券から始まる不幸って〜
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ケイトは悩んでいた。
場所はグリムドラッグこと通称一服盛った薬局の店内で。会社名の前後が逆な様だが世間一般にはこれが正しいのでいいのである。
悩んでいるのは例の買い物カゴ全部が半額になる条件のドリンク剤の購入と同等の、下手したら上回って先日のジョルジオの態度の件だ。用事があると先に帰ったが、どうも様子がいつもと違って見えた。一瞬、ほんの一瞬だったけど。途中までちょくちょく小噴火しつつも普段通りだったから、予想が正しければ大学復学の話をしてからだ。
何を話したっけ。
あ、そうそう、大学復学と彼女が出来るはずだから一緒に辺境カフェオレ店に来れるね、魔王討伐が済んだら友達に隠し事が無くなるから気兼ねなく遊べるねみたいな事を言った気がする。
あの時の場面を気が付くと繰り返し思い出してみては思う。
これのどこが変だったのか分からない。
いや待って。変だったんじゃなくって、もしかして怒らせた方?怒った?どの辺に?
……………とも思ってみたけれど。
ケイトが頭をひねる。だとしたらポイントが分からない。分からない。怒ったと思ったのが正解なのかも分からない。分からないまま謝っても火に油を注ぐだけになるかも知れない。それはそうだろう。
多分、自分の発言の何かが彼を怒らせたとして、それに気遣ってもやれずにいたら、その内に自然と離れていくだろう。
実は元々、期限付きの友人だと思っていたから、距離が遠くなるのはすぐに納得出来た。
なのに、何故だか寂しい気がした。
だから今悩んでいた。
寂しいと思ってしまったから悩んでしまった。
「悩んでないでパーッと買っちゃったらどうです?お客さん」
「うわっ!?」
急に背後から声を掛けられてケイトの両肩が上がり首をすくめた形になった。そのまま顔だけ振り返る。
振り返るとニッコリ営業スマイルの店員がいた。
―――――あの店員だ!!
会いたくなかったのに!
でももう遅い。ならば相手にしないだけ。
「そのドリンク剤はですね、神殿で売っているポーションと同等以上の疲労回復成分が有るんですよ」
「神殿以上!?」
思わずオウム返しに呟いて、しまったと後悔する。店員に付け入る隙を与えた事を悔いた。
「そうです。あちらは嘘みたいなお値段で売ってますが、こちらは大庶民の味方のリーズナブルな激得プライスです。化学薬品だって良いものなんですよ」
神殿には今もポーションが売っている。大昔に比べて神殿が大分廃れたとはいえ、ポーションくらいは売ってるよ神殿ブランドだよと、虚勢を張っていた。虚勢であるのでその実は大昔に比べると神官の実力が半減したのと比例してポーションの効果も半減しているのだが、今回の魔王誕生によって改めて直面した生命の危険などと、とんと重く何百年もの間に関係無かったせいで忘れてしまっていた人間達は知る由もなかった。
「…化学薬品は否定してません、けど」
「良かったです。まだまだ薬草農協の力が強くてですね、化学薬品が馴染まないんですよねぇ」
と、店員は言ったが化学物質で出来た薬品に否定的な思考を持つ人は今や少数派だった。薬草で事足りればそれで良しで、それでも足りない時に化学薬品に頼るのが一般的な流れとなっているからだ。ケイトもそのパターンの人間だった。お守り的に自宅の救急箱に化学薬品の鎮痛剤や風邪薬が常備してある。
「最近では魔王疲れで購入される方も多いのですよ」
「何ですかそれ」
「魔王騒ぎのせいで家庭不和になったとか、会社内でのコミュニケーション不足によるストレスやら。余計な仕事が増えたからという理由による体調不良全般です」
「……魔王疲れ…」
もしかして。ジョルジオ君も魔王疲れなんじゃないだろうか。
一般人でさえ不調を訴える人が多いのだ。サポート業務だけでも疲れていたのに、更に疲れる要因があったなんて。
心の中で唸る。
どちらかと言えばニコニコしている顔しか見てないようだけれど、実は相当疲れてたんじゃなかろうか。
それなのに自分は何か不用意な事を言って、ますます疲れさせてしまったんじゃないかな。
なら、怒って当然だし。
呟いたきり沈黙してしまったケイトに、関係なく店員が喋りを続けた。
「薬草ポーションとは違って効き目が出で来るのは若干遅いですが、持続性はこちらの商品の方があって長いです」
商品を見ている振りをした。
「お客様も体調不良で?」
「いえ、特には…」
って、何答えてんのかな俺!
放っといてほし―――。
「プレゼントにもよく売れますね。今時期ですとバレンタイン間近なのでそれ用ラッピングも出来ますけど」
「買います」
「はい?」
ぽそっと呟いたケイトに店員が聞き返す。
「買います、プレゼント用で」
「プレゼント用で」
「ラッピングして下さい二本買います、オマケも確か付きますよね、それも一緒に包んで下さい、会計します、今すぐお願いします、早くして下さい」
「有難うございまーーーーす。あのラッピングはどちらの」
「何でも良いです」
棒読み店員にギロリと睨み視線を投げつけてケイトはレジに行こうとする。
「あ!お客様ちょっとお待ち下さい」
「!?」
歩調も荒く踏み出そうとして止まり、ケイトが振り返る。
「お客様、もしかしてグリムドラッグのメールをお持ちですか」
「あ」
そうだった、忘れていた。
「こちらの商品お買い上げという事で本日のお買い物全てが半額になる特典になりますので」
「あの」
「はい」
「……………すみませんが、その特典、今日でなくては駄目でしょうか」
「ええっと、後日使えないかという事でしょうか?」
「あ、無理ならいいです、訊いてみただけです」
「使えますよ」
「元メールを削除しなければ。シリアルナンバーとパスワードをお付けしたメールを送信しますのでお客様のメールアドレスを元メールから当店ホームページにアクセスして登録して頂けますか?」
「そんなんでいいんですか?」
「はい」
「分かりました、ではそれで」
店員がニコッと笑った。鉄壁の営業スマイルである。
「ではこちらの商品はラッピングします。お会計お願いします」
場所はグリムドラッグこと通称一服盛った薬局の店内で。会社名の前後が逆な様だが世間一般にはこれが正しいのでいいのである。
悩んでいるのは例の買い物カゴ全部が半額になる条件のドリンク剤の購入と同等の、下手したら上回って先日のジョルジオの態度の件だ。用事があると先に帰ったが、どうも様子がいつもと違って見えた。一瞬、ほんの一瞬だったけど。途中までちょくちょく小噴火しつつも普段通りだったから、予想が正しければ大学復学の話をしてからだ。
何を話したっけ。
あ、そうそう、大学復学と彼女が出来るはずだから一緒に辺境カフェオレ店に来れるね、魔王討伐が済んだら友達に隠し事が無くなるから気兼ねなく遊べるねみたいな事を言った気がする。
あの時の場面を気が付くと繰り返し思い出してみては思う。
これのどこが変だったのか分からない。
いや待って。変だったんじゃなくって、もしかして怒らせた方?怒った?どの辺に?
……………とも思ってみたけれど。
ケイトが頭をひねる。だとしたらポイントが分からない。分からない。怒ったと思ったのが正解なのかも分からない。分からないまま謝っても火に油を注ぐだけになるかも知れない。それはそうだろう。
多分、自分の発言の何かが彼を怒らせたとして、それに気遣ってもやれずにいたら、その内に自然と離れていくだろう。
実は元々、期限付きの友人だと思っていたから、距離が遠くなるのはすぐに納得出来た。
なのに、何故だか寂しい気がした。
だから今悩んでいた。
寂しいと思ってしまったから悩んでしまった。
「悩んでないでパーッと買っちゃったらどうです?お客さん」
「うわっ!?」
急に背後から声を掛けられてケイトの両肩が上がり首をすくめた形になった。そのまま顔だけ振り返る。
振り返るとニッコリ営業スマイルの店員がいた。
―――――あの店員だ!!
会いたくなかったのに!
でももう遅い。ならば相手にしないだけ。
「そのドリンク剤はですね、神殿で売っているポーションと同等以上の疲労回復成分が有るんですよ」
「神殿以上!?」
思わずオウム返しに呟いて、しまったと後悔する。店員に付け入る隙を与えた事を悔いた。
「そうです。あちらは嘘みたいなお値段で売ってますが、こちらは大庶民の味方のリーズナブルな激得プライスです。化学薬品だって良いものなんですよ」
神殿には今もポーションが売っている。大昔に比べて神殿が大分廃れたとはいえ、ポーションくらいは売ってるよ神殿ブランドだよと、虚勢を張っていた。虚勢であるのでその実は大昔に比べると神官の実力が半減したのと比例してポーションの効果も半減しているのだが、今回の魔王誕生によって改めて直面した生命の危険などと、とんと重く何百年もの間に関係無かったせいで忘れてしまっていた人間達は知る由もなかった。
「…化学薬品は否定してません、けど」
「良かったです。まだまだ薬草農協の力が強くてですね、化学薬品が馴染まないんですよねぇ」
と、店員は言ったが化学物質で出来た薬品に否定的な思考を持つ人は今や少数派だった。薬草で事足りればそれで良しで、それでも足りない時に化学薬品に頼るのが一般的な流れとなっているからだ。ケイトもそのパターンの人間だった。お守り的に自宅の救急箱に化学薬品の鎮痛剤や風邪薬が常備してある。
「最近では魔王疲れで購入される方も多いのですよ」
「何ですかそれ」
「魔王騒ぎのせいで家庭不和になったとか、会社内でのコミュニケーション不足によるストレスやら。余計な仕事が増えたからという理由による体調不良全般です」
「……魔王疲れ…」
もしかして。ジョルジオ君も魔王疲れなんじゃないだろうか。
一般人でさえ不調を訴える人が多いのだ。サポート業務だけでも疲れていたのに、更に疲れる要因があったなんて。
心の中で唸る。
どちらかと言えばニコニコしている顔しか見てないようだけれど、実は相当疲れてたんじゃなかろうか。
それなのに自分は何か不用意な事を言って、ますます疲れさせてしまったんじゃないかな。
なら、怒って当然だし。
呟いたきり沈黙してしまったケイトに、関係なく店員が喋りを続けた。
「薬草ポーションとは違って効き目が出で来るのは若干遅いですが、持続性はこちらの商品の方があって長いです」
商品を見ている振りをした。
「お客様も体調不良で?」
「いえ、特には…」
って、何答えてんのかな俺!
放っといてほし―――。
「プレゼントにもよく売れますね。今時期ですとバレンタイン間近なのでそれ用ラッピングも出来ますけど」
「買います」
「はい?」
ぽそっと呟いたケイトに店員が聞き返す。
「買います、プレゼント用で」
「プレゼント用で」
「ラッピングして下さい二本買います、オマケも確か付きますよね、それも一緒に包んで下さい、会計します、今すぐお願いします、早くして下さい」
「有難うございまーーーーす。あのラッピングはどちらの」
「何でも良いです」
棒読み店員にギロリと睨み視線を投げつけてケイトはレジに行こうとする。
「あ!お客様ちょっとお待ち下さい」
「!?」
歩調も荒く踏み出そうとして止まり、ケイトが振り返る。
「お客様、もしかしてグリムドラッグのメールをお持ちですか」
「あ」
そうだった、忘れていた。
「こちらの商品お買い上げという事で本日のお買い物全てが半額になる特典になりますので」
「あの」
「はい」
「……………すみませんが、その特典、今日でなくては駄目でしょうか」
「ええっと、後日使えないかという事でしょうか?」
「あ、無理ならいいです、訊いてみただけです」
「使えますよ」
「元メールを削除しなければ。シリアルナンバーとパスワードをお付けしたメールを送信しますのでお客様のメールアドレスを元メールから当店ホームページにアクセスして登録して頂けますか?」
「そんなんでいいんですか?」
「はい」
「分かりました、ではそれで」
店員がニコッと笑った。鉄壁の営業スマイルである。
「ではこちらの商品はラッピングします。お会計お願いします」
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