クソガキ、暴れます。

サイリウム

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原作開始前:崩壊編

89:話しましょ

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ティアラたちが第二王子と会談を行った翌日。すでに全身から生気という生気を全て抜き取られてしまったかのような陛下は、王宮内にある小さな会議室に、主だった人間たちを集めていた。

神のおもちゃと化していたせいか、元からその顔色は良いものではなかったが……。つい先ほど自分に取り入るために“第二王子の暗殺”を計画していた貴族の一人と密談を行い、その計画を後回しにさせた直後である。すでに体力の大半を使い切ってしまい、息も絶え絶えといった状態であった。


(おそらく、あの者はマンティスが率いる一派からの離反者。故にその内情もかなり深い所まで理解していた。だからこそ名代となった直後に暗殺を行うことで、生き残っているほか王族が行ったと対外的に発表する。そう言いくるめる他なかった。)


王の乱心によって命を落としてしまった王族は数多くいるが、そのすべてがいなくなったわけではない。成人済みの第二王子もいれば、まだ子供の王族もいる。各派閥がもしものために王族やその庶子を確保しているため、王が計画者の彼に話した内容は難しい所があるのだが……、もし“ソレ”が成功すればマンティスの派閥のみならず、他の五大臣の派閥の弱体化も狙えるだろう。

そこに離反者である暗殺を計画した男が、マッチポンプを行い華麗に事件を解決して見せれば、弱体化した派閥から影響力を剥ぎ取り、新たな派閥に成れると刷り込んだのである。

疲れ果てていたとしても、彼は王であり、賢王と呼ばれた男。自身に未だ宿る覇気とその話術をもってすれば裏切りを企てる程度の器しか持たない貴族を意のままに操るなど苦ではなかった。


(……その分体力を大幅に消費してしまった。そしてこれから待っているのは、先の男よりもより厄介な存在たち。)


既にこれを最後の仕事と定めた国王は、擦り切れた精神を奮い立たせ、この場に集まった5人の男女に目を向けていく。操られていた時代の記憶は、あまり信用できない。だからこそ直前ギリギリまで自身に忠誠を誓ってくれていた者たちが集めて来た五大臣の資料を思い出しながら、回らぬ頭を無理矢理動かしていく。


「ははは! 急なことだったので驚きましたぞ陛下! して、一体何の御用ですかな?」


一人目、民から“強欲”の名を与えられた男。名をギーヴ。武門の出身で、爵位は公爵。眼に入ったすべてを欲しがるような男であり、第一王女を確保している人間。おそらく王の死後に大々的に王女との婚約を宣言し、王国を我が物にしようとしている存在でもある。

形だけは国王に対する敬意を示しているようだが、その目に一切の尊敬の念は見られない。あるのはその王座に対する強い感情だけ。先の帝国との戦争において自身の配下を総大将として派遣していたことから、全く仕事をしていなかったことにも関わらず『先の戦いは我らの奮迅あってこその勝利である!』と主張している様だった。


「……。」


二人目、リタ。伯爵でありながら派閥の長であり、民から“怠惰”の名で呼ばれている男。しかしその二つ名とは裏腹に、国王は彼の瞳からとてつもない“欲”を感じ取っていた。民からすれば『何もかも“無駄”って言いながら予算とか人員を削減しやがる、何にもしねぇ“怠惰”な奴だぜ』と思われているようだが……。その削減した“力”は、全て彼の懐に入っている。

おそらくだが国王の変化に気が付いている人間であり、より自身が富を蓄えることが出来るかと策を巡らせているからこそ、黙っているのだろう。王は彼に対する警戒度を上げながら、後ほど意図的に情報を流すことでその行動を制限しようと考える。


「ギーヴ様? 陛下もご公務でお疲れの様ですし、あまり大声を出されるのは控えたらどうです? あぁ、それと陛下。この前は大変ありがとうございました。」


三人目、本名を把握することはできなかったが、ヒディアという名を名乗っている女性であり、侯爵。民からは“色欲”と呼ばれている存在だ。王が神に操られ狂ってしまった当初、まだ若かったその肉体を差し出すことで平民から貴族に成りあがった傑物。すでに年のせいか若いころの美貌は衰えてしまっているが、それでもまだ“女”として十二分に戦えるものを持っている、というべきだろう。

娼館などを通して王都の裏社会を牛耳っており、同時に女性関係からか各派閥の弱みも握っているような女である。その身に宿す欲望も相当なもので、先ほど王に対する気遣いの言葉を見せたようだったが、薄っぺらな嘘でしかない。裏社会を牛耳っているからこそ、表も自分の物にしてしまいたい。本人は隠しているようだったが、王からすれば目をつむっていても理解することが出来るほどだった。


「にしても皆さま、今日もすごいですね。陛下も少し顔色が良くなったようで、何よりでございます。」


四人目、全員に対して少し下に出るような口調でどんどんと言葉を紡いでいく男、名をミューターと言い、民から“嫉妬”と呼ばれている公爵である。下に出るような行動をしておきながら、その実質は自分よりも上の者が許せない、他人が持っている物を全て自分の物にしたい、邪魔するのなら消してしまいたいという欲を持つ男。

互いに蹴落とし合う五大臣ではあるが、この者の動きが一番苛烈であり、同時に規模も大きく民への悪影響も大きい。五男だった彼が兄たちを蹴落として公爵の椅子に座っていることからわかる通り、その能力も決して低くなく、欲望と合わせることでかなり面倒なことになっている存在だった。


「……して、陛下。我らを呼び出してなんの御用でしょうか。」


五人目、マンティス公爵。この中で唯一王国の、そして王家の“存続”を考えている男であり、ここにいる他の貴族たちからの攻撃を受け宰相から落とされてしまった者。宰相という国王に近い存在だったため、かなり早い段階から王が狂ってしまった原因が教会にある事を暴いていたが、それを何とかして元に戻そうと行動していたことが裏目に出てしまい、民に“背信”の名で呼ばれてしまった男でもある。

マンティスの問いに深く頷いた王は、同時に彼が持つ王族としての資格。覇気をその身に纏いながら、言葉を紡ぐ。そして同時に、全員の視線が自身に向いた瞬間、マンティスにだけわかる様に、小指を少しだけ立てる。

王がまだ賢王であった頃によくしていた、『今から少し悪ふざけをする、付き合え』というサイン。


「我が先日から寝込んでいたのは皆の知るところだろう。そこで主治医に見てもらったのだが……、少し良くないようでな。公務などを控え、長期の療養をすべきという言葉を貰ったのだ。」

「まぁ! 大丈夫なのですか陛下!?」


わざとらしいヒディアの言葉、『政など自身に任せ療養に専念してください』という全く真意がこもっていないモノを受け取る王。そしてすぐにマンティス以外からも同様の言葉が飛んでくる。王はそのすべてに深く感じ入っているようなそぶりをしながら、より言葉を続けて行った。


「皆の献身、痛み入る。故に少し任せたいことがあってな……。我が療養している間、我が子フェルナンドに少し仕事を任せてみようと思うのだ。奴ももう成人済みだ。適性を図り、また経験を積むのには良い機会だと考えている。」


その発言により、その場にいた五大臣たちの意識が一瞬だけ、マンティスの方に向けられる。すでにここにいる全員は、元宰相である彼と、第二王子であろうフェルナンドが繋がっていることを理解していた。そしてこれまでの“王位継承”を考えるに、“致命的な問題”がない限りはその長子が継ぐということも。

第一王子が以前王に殺されているため、今一番継承権が高いのは、第二王子フェルナンドだ。


「皆にはぜひ、奴を支え同時に次代の王として相応しいか見極めて貰いたいのだ。……我も年だ、あまり時間が遺されていないことを考えると、一月ほどだろうか。そこで様子を判断し、難しそうであれば奴の継承権を下げ、他の子の適性を図っていきたいと思う。」


既に国王は第二王子フェルナンドの“王”としての適性を強く理解しているし、同時に今他派閥に囲い込まれている王族や庶子がまだ若く五大臣たちの影響下にある事や、成人していたとしても真面な教育者が付かなかったことでその血を宿すものとして相応しくない存在になっている者がいることも、理解していた。

だからこそ、王座を渡す相手としてはフェルナンドしかいなかったのであるが……。そう言ってしまえば、五大臣からの反感を買い、現在水面下で行われている五大臣抹殺計画も頓挫してしまうだろう。


(……だからこそ、違うモノに目を向けさせる。茶番劇に、付き合ってもらうぞ。)


王が先ほどの言葉、『適性を図る』という言葉が出た瞬間。全員の顔が少しだけ変化した。言ってみればその試用期間の間に“不適切”と判断されるようなことをしでかせば。もしくは“嵌めてやれば”いいのだ。記録や事象の捏造など、ここにいる者たちには取っては簡単な者だろう。


(これにより、彼らの意識は自己や自身の派閥を守る事よりも、今後行われる“試用”期間の間、如何に相手を蹴落とし自陣の妨害に対処できるか、というものに移るだろう。)


五大臣たちの表情と、王の話の後に紡がれた言葉。自身の策が見事に実った国王は、自身の臣下たちの頼もしさを喜ぶような笑みを浮かべ、自身が亡き後も王国は安泰だな、と言葉を紡ぐ。

そんな国王の内心は、酷く静かなものだった。






 ◇◆◇◆◇






「……ではこの辺りで、ティアラ殿。」

「えぇ、また何かございましたら是非お声がけくださいね。」


えー、はい。ティアラちゃんです。

そんなこんなで時間が結構経ちまして、諸侯会議の前日。

先の帝国との戦いで多大な被害を出してしまったものの、それを上回る戦果を挙げた王国は帝国に対し多大な賠償金と停戦条約を叩きつけることに成功したのだ。まぁそこらへんの細かい所はユリアンお婆ちゃん、オリアナさんの戦友の一人で指揮が上手いお婆ちゃんに任せちゃったから賠償金の流れとかどうなってるのかは解らないけれど……。

まぁ大勝したことは事実。というわけで諸侯会議を始める前に、戦勝を祝う宴が開催されてるわけ。

一応ティアラちゃん使徒だし? この後の“ゴミ掃除”もお手伝いするわけだから参加させてもらってるんだけど……。


「むっちゃ人話しかけてくる!」

「いやまぁそうだろうな。」


お前自分がしたこと忘れたのか? なんて笑いながら料理を口にするオリアナさん。流石“強者”というべきか、この貴族ばっかりの立食パーティーに場慣れしており、話しかけてくる者たちを適当に流しながらお目当ての料理を確保していらっしゃる。

いやまぁ帝国との戦争の後にすぐさま教会との戦いって言うハードスケジュールだったせいで、私が帝国兵ぶち殺しまくってたこと忘れかけてましたけど……。

実際オリアナさんの言う通り、貴族側の立場に立って考えてみれば話しかけない理由にはならない。何せ一人で万の兵を難なく押し潰せる“強者”であり、雑魚狩り専門ではなく十分同格とも戦って勝てる。その上、新興宗教の使徒と来たもんだ。耳の早い奴なら第二王子の改宗の話も聞いているだろうし、私と伝手を作っておくということは無駄にはならない。


(言われたらわかる、解るんだけど……。こ、こっちの負担が!)


私が信じるアユティナ様は、『来る者拒まず去る者追わず』のスタンスを掲げていらっしゃる。つまりいつでも私たちの教えは門を開いているわけだけど……、これの悪い所として、来た人も去った人も把握しておかないといけないのだ。いつ帰ってくるか解んないし、その時は暖かく迎えてやらないといけないわけだから、名前を呼んであげなきゃいけない。

早い話、今日あった全員の顔と名前と役職を叩き込んで置く必要があるのだ。

宴終わりの“お掃除”で大半消えることが決まっていたとしても、なんだよね。それに先の帝国との戦い、教会との戦いで交友を結んだ人たちもいる。彼らのことを思い出しながら更に新しいのを覚えないといけないわけだから……。

あ、あたまこんがらりますよコレ! 大丈夫オリアナさん!? 私変なことしてないよね!? ミスってないよね!?


「はは! 大丈夫さ。それに、最初で人捌きながらそんな風に飯食えてる時点で十分よ。私なんか最初はマナーも顔も覚えられないで大恥かいたからな。まぁ結局私のことを笑った奴を片っ端から叩きのめすことで事なきを得たが。」

「……それ“事なきを得た”って言っていいの?」

「丸く収まったんだからいいだろ。」


それ丸く収まったというよりも、叩いて丸くしたって言うんじゃ……。


「あら、ずいぶんと懐かしい話をしているわね。」

「ん? あぁ、誰かと思えばユリアンか。久しぶりだな。」

「えぇ。先の戦いぶりね。まぁ貴女たちからすれば相当に濃い日々だったようだけど……。また相当腕を挙げたみたいね。末恐ろしいわ。っと、ティアラちゃんもお久しぶり。」


オリアナさんとそんな話をしていると、ドレス姿のユリアンお婆ちゃんが話しかけてきてくれる。オリアナさんがちょっと儀礼向けの鎧着てるからお婆ちゃんもそうなのかなぁ、と思ってたけど、そう言えばこの人貴族だったや。そりゃドレスも着るよね。

落ち着いた配色の衣を身に纏う彼女に言葉を返しながら、昔のオリアナさんのことを聞く。


「二回目は相当マシになってたけど……、最初はすごかったわよぉ? この子ったらマナーも何も解らないから逆に振り切れちゃってね? 片っ端から料理を腹の中に叩き込んで、酒を浴びるように飲んだと思えば暴れ出しちゃったんだもの。無駄に強かったものだから制圧するのにも時間が掛かってね……。」

「いやマジで何してんのお婆ちゃん……。」

「あ~、何だったか。実際その時に最初の二つ名決まったんだっけ? ほら“大鬼”っていう。まぁ私は酒のせいで途中から何も覚えてないんだが。」

「迷惑よねぇほんと。いい思い出ではあるんだけど。」


私なんか潰してない剣そのもので切りかかったのに、片手で殴り壊されて腹に一発。そのまま壁に吹き飛ばされたのよ? なんて笑うユリアンお婆ちゃん。……ま、まぁ確かにオリアナさんのやらかしを聞いてると、ティアラちゃんはまだマシな方ですね……。

え、もしかして孫の私もそういうのやった方が良い奴? よっしゃそうと決まればお酒を……。あ、未成年飲酒だからダメ? 確かに。んじゃ大人しくししとこ。ジュースで乾杯! うん、うまい! あとこのお肉もおいしー!


「ほんと、懐かしいわ。将軍のリッテル様どころか、国王陛下までぶっ飛ばしてたもんね。最終的に未来の貴女の夫、結婚前の彼に止められて事なきを得たけれど……。実際あの時陛下が『ははは! これほど強ければ今後も我ら王国のため獅子奮迅の働きを見せてくれるだろうよ!』なんて笑い飛ばしてくれなきゃ、普通に処刑対象だったわよ?」

「はは。そう言えば、そうだったな……。あいつから何度も聞かされたよ。」

「でしょうね。……長く生き過ぎたせいか知った顔もかなり減ったけど。この子みたいに新しい子も出てきてる。見届けるまで、そう簡単に死ねないわ。よね?」


確かユリアンお婆ちゃんは、五大臣の派閥には所属していない無所属の貴族だったはずだ。

だからこそ今日何が起きるかを知らされていない。けれど長く生きた勘がそうさせたのか、強くオリアナさんに言い聞かせるように、鎹を打ち込むように、そう言葉を紡ぐ。


「……あぁ。解ってるよ。こいつもまだガキだからな。止めれる奴がいないと、どんどん前に進んで行っちまう。あと10年は目を離せねぇよ。……いや10年でこいつの性格直るか? いや直らんな。諦めるか。」

「あらら、要らぬお世話だったかしら? 楽しそうな悩みで何より、ね。」


私の頭を強く撫でながら笑うオリアナさんに、微笑ましそうな顔をしながらこちらを眺めるユリアンお婆ちゃん。そうそう、ティアラちゃん死ぬまで暴れ続けるからね! オリアナさんは200ぐらいまで生きてもらわなくちゃ困るの! え? 老人に無理させるなバカ? でもオリアナさんの腕力もう老人というか、ただのバケモノ……、あだッ! あだだだ! 頭蓋! 頭蓋が割れる! 掴まないでッ! いちゃいッ! あーッ!!!


「ふふ、ほんとに楽しそ。っと、長々と独占しちゃうのは悪いわね。もし今後時間があったら私の領地にいらっしゃい? 賠償金を少し“頂いた”おかげで町が急成長してるの。かなり住みやすい場所に進化していっているし、家族にも紹介したいわ。ぜひ、ね?」

「あぁ、機会があったらな。」

「うん、絶対行くねー!」


そう言いながら、ユリアンお婆ちゃんと別れる。

実際少し彼女と話し過ぎたせいか、他の参加者からの視線が集まっていた。おそらくというか、確実に私やオリアナさんと話すタイミングを見計らっていたのだろう。こういう貴族社会だと話しかける順番にも気を使いそうなものではあるが……。

そんなことを考えていると、一人の男が三人分の飲み物片手に私の方に歩いてくる。おそらく彼と私とオリアナさんのもの、わざわざ会場内を歩き回っているボーイから新しいグラスを用意してもらっていたし、直前に服装などを確認して気合を入れていた。

明らかに初対面だし、そこまでやってくれるのなら真面目に使徒として振舞った方が良いだろう。そう思いながらそちらに振り向こうとした瞬間。


「ティアラ!」


非常に聞き馴染んだ声。知らない男の方へ振り向くのを中止し、声のする方へ向く。

やはりというべきか、私の見知ったライバルの姿がそこにあった。


「久しぶりだね、エレナ。」

「えぇそうね! ……というか貴女、ドレスは?」

「いやティアラちゃん平民ぞ? それに今日使徒として来てるようなもんだし。」


せっかくドレスで勝負できると思ってたのにー! と頬を膨らませて不満を私にぶつけてくるエレナ。実際かなり今日のために張り切っていたようで、彼女の髪色と同じドレスにその快活さを損なわないような衣になっている。うんうん、眼福。


「だから言っただろうエレナ……。姉上、ティアラ。先の戦いではどうも。」

「あぁ、こっちこそ。んでお前もドレスかナディ。」

「はは、お恥ずかしながら。普段であれば武人として鎧で参加するのですが、此度は夫も来ております故。」


少しだけ恥ずかしそうにしながらそう笑うナディママ。どうやら夫の子爵様は他の貴族に捕まってお話の真っ最中のようだが、一緒には来ているらしい。にしてもエレナもナディママも、あんまり時間なかったのによくドレス用意したよね。見るからにソレ今回初めて袖通した奴でしょ? 新品さんだ。


「あら、解るのね。当たりよ! 急に諸侯会議のお話が来たから、みんなでペガサスに乗って超特急で王都に来たの。そこからすぐさま仕立て屋さんにお願いして作ってもらって、って感じ。……ちょっとだけチラ見したんだけど、すごい値段だった。」

「あー、まぁ今回の会議かなり急だったみたいだしね。仕立て屋さんとか嬉しい悲鳴上げてたんじゃない?」

「悲鳴というか、奇声はあげてたわね。『今日で徹夜5日目だぜFoooOOO!!!』って。」


Oh……。つよく生きて仕立て屋さん……。え? ついでにエレナのパパもちっちゃい悲鳴上げてた? ドレスの見積もり見て? あぁ、よっぽど値段したんだろうね。実際急な依頼の上に他の貴族からの依頼も来てたんだろうし、割高になるのも致し方なしってやつなのかな?

けどまぁそんなパピィの悲鳴もすぐに収まるんじゃない? 彼女の耳元に口を運びながら、この後待ち構えているイベントについて話す。


「ちょうど今日、“お掃除”の日だし。」

「お掃除……? あぁ、なるほど。ようやくね。」


ぼかした言い方だったが、上手く伝わったようで。私同様に非常に悪い顔をするエレナ。五大臣やその配下がお取り潰しに成れば、その分領土や資金が浮き出てくる。領土は国や戦で活躍した貴族に分配さてるだろうし、金もそうなる事だろう。

ナディママやその配下の騎士団。そして聖戦だけの参加だがエレナもかなりの戦果を挙げている。それ相応の褒章が出るだろう。もしかしたら爵位もぐんと上がるかもだし……、今彼女のパピィが抱えている問題も、全て解決して大量のお釣りが出てくるぐらいの報酬になるはずだ。


「王子が全員をいい感じに集めたらしいからさ。ゴミはまとめてポイするのさ。」

「いいわね! ……私も参加できる?」

「……そのドレスで?」


というか武器とかは……。あ、私が出すのね。いやちゃんと神秘込めた【鋼の槍】がありますけど。ペガサスは……、あ。口笛で呼んだら飛んでくるんだ。凄いねぇ。ん~、じゃあエレナのとこに敵がやってきたりしたら槍飛ばすし、それで我慢してくれる?


「ほんとはもっと暴れたいけれど……、まぁそれで我慢してあげるわ! 前の戦いかなり消化不良だったもの、折角のお祭りは楽しまなきゃ損よね!」

「まぁ確かに。ここで“ゴミ”やっちゃったら相手できるのボロボロの帝国ぐらいだろうしね~。残りはダンジョンだけ? ……まぁどんだけレベル上げてきても、ティアラちゃんはその先を行くんですけど!」

「はっ、上等! 今はまだ負けてるけど、何でも吸収してすぐ追いついてやるんだから!」


ふふ、そうこなくっちゃ!

拳と拳をぶつけ合い。互いが負けぬように激励しあう。正直単純な腕力だけだとすぐに抜かれてしまいそうなのが非常に怖い、だからこそ私も頑張ってレベリングしなきゃ。“お掃除”とか色々終わったらダンジョンにでも籠って最下層延々と周回しなくちゃね!


「……あ、そう言えば姉妹も来てるの?」

「うん、護衛役として詰めてるよ。ほら壁の方に。滅茶苦茶緊張で震えてるけど……。」

「あぁ……。ちょっと後で声かけてくるわ。」


そんな感じでエレナとの会話を終わらせ、ナディママさんと二人で戻っていく彼女たちを見送る。他の貴族にまだ捕まっているのだろうパパを回収して、またここに戻ってくるつもりのようだ。……さて、んじゃさっきこのティアラちゃんに話しかけようとしていた“グラス三つ持ちニキ”の相手でもしてあげようか。流石に可哀想だし。

そんなことを考えながら、私がエレナと話ている間ずっと様子を伺っていた貴族の男に声を掛けようとすると……、またカットインされてしまう。それも、面倒な相手に。

……私の後ろにいるオリアナさんの纏う雰囲気に、一瞬だけ殺気が混じる。


「初めまして使徒ティアラ殿、そしてお久しぶりオリアナ殿。私、陛下から公爵の位を頂いております、ミューターと申すものです。以後お見知りおきを。」


私の祖母の仇が、目の前にいた。


「先の戦いでは大変な戦果を挙げたようで、その報を受けた時はまるで自分のことのように舞い上がった次第でございます。どうです、ティアラ殿。パーティは楽しめておりますか? よろしければお口に合いそうなものをこちらで選ばせていただきますよ。」


声に余計な感情を乗せないようにしながら、使徒としてではなく“孫”として言葉を紡ぐ。


「……いえ、結構です。実は祖母と違い食が細いもので。もっとよく食べろといつも怒られてしまうのです。して、ミューター様。祖母とお知り合いだったのですか?」

「えぇ、過去に少し。……して、オリアナ殿。実は少し貴殿のお耳に入れたいコトがございまして、お時間よろしいでしょうか?」

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