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第一章:あの日、再び
別れは1分後
しおりを挟む思いっきり抱きしめたことで、
アオ兄の顔が、俺の肩口にうずめられる。
「…ふふっ。」
アオ兄のかすれた笑い声が、直接、俺の耳から頭の中に響いてくる。安心する、大好きな声…。
「ヨウにっ、抱きしめ…られるなんて。いつ…ぶり、だろうなぁ。」
苦しそうな呼吸で、でも声色は心底嬉しそうで。
アオ兄は、途切れ途切れに、俺の耳元で言葉を繋いでいく。
「ごめん、なっ…。ヨウを…置いて、いっちゃうなんて…。兄ちゃん、失格…だよなぁ…。」
アオ兄は、ゲホゲホと血を吐きながら、ぽつりぽつりと言葉をこぼした。
俺は…
「しゃべらなくていいからっ!失格なんかじゃ、ないからっ…!」
アオ兄を抱きしめたまま、泣きじゃくりながら言葉を返した。
アオ兄の表情は見えなくても…俺には、アオ兄が困った顔で笑っているのが分かった。
「ヨウは…優しいなぁ。
…ヨウのお兄ちゃんでいさせてくれて、ありがとな…。」
もう、吐き出す血もないのだろうか。
アオ兄の乱れていた呼吸が、次第に…静かになっていく。
「もう、喋るなっ!誰かっ!誰か、助けて…っ。」
必死に周りを見渡す。
誰でもいいから…アオ兄を、助けてほしい。俺の、たった1人の家族を、助けてほしい。
「…勅令放棄なら、私も習得しています。」
残酷にも、返事を返してきたのは、アオ兄を傷付けた張本人…ヒュー・ブレイズだけだった。
「…アオバ君の提案が、本心だと思いたかった。私は嬉しかったのに。本当に、残念です。」
本当に悲しそうに、そいつはつぶやく。
「1分だけ、あげましょう。今度こそ…本当に、お別れです。」
「…許さない。」
何が1分だ…!
アオ兄を、こんな…こんな傷だらけにしておいて。
お前が悲しそうな顔をするな。
俺はこいつを…「絶対に、許さない…!」
怒りで…俺の中に湧き上がる怒りで、
目の前が、血の色以上に、さらに赤く染まっていくのが分かる。
(こいつだけは…絶対に、許さない。)
怒りが、頭を支配していく。
頭だけじゃない…全身が、真っ赤に染まっていく感覚ーーー
「…ヨウっ!」
アオ兄に呼ばれて、我にかえる。
「…ヨウっ。」
再度呼ばれて、俺はアオ兄を抱きしめる手を緩めた。
肩口から降ろし、膝の上に寝かせたアオ兄の顔を見る。
「アオ兄…。」
血を失いすぎて…俺の知っている、いつものアオ兄の顔色ではなかった。
それでもアオ兄は、俺の目を真っ直ぐに見つめて話し始める。
「…兄ちゃんさ、実はまだ…奥の手って、やつ?あるの…よねぇ。」
アオ兄は、苦しそうでも、ニヤケ顔で告げる。
「奥の…手?」
俺は、悲しみと怒りがごちゃごちゃと渦巻く、ぼぅっとした頭で反芻する。
…奥の手、って…?
「だから…、大丈夫だから。
俺が勅令したら、ヨウはすぐ俺を地面に降ろして。そんで…全力で逃げろよ?」
アオ兄が、今後はいつもとあまり変わらない、いたずらっ子のようにニヤッと笑う。
「大丈夫。兄ちゃんが…、俺が、絶対ヨウを守るから。」
「嘘っ、つくなよなっ!そんな身体でっ…!」
俺は叫ぶ。
せっかく止まっていた涙も、また溢れ出てきた。
俺は、口調とは裏腹に…膝の上のアオ兄の頭を優しくなでながら言う。
「置いて逃げるなんて…っ!俺、絶っ対にしないからっ!」
涙が、止まらなかった。
ボロボロのアオ兄を置いて、俺だけ逃げるなんて、できない。
…絶対に、離れたくなかった。
「…最後まで…一緒に、いさせてよっ。」
泣きながら、アオ兄の頭を、なで続ける。
…もうすぐ、…もうすぐ、きっと、約束の1分だ。最後の、お別れ…。
「うぐっ。なっ…んでっ…。」
今朝は、こんなことになるなんて、夢にも思わなかった。
今朝の特訓の時…アオ兄の膝の上、優しく頭を撫でられて。
それで目が覚めて…。
それが今、血まみれのアオ兄を膝にのせて。
その頭を…俺は、撫でることしか、できない。こんな…。
ーーー俺たちは2人で、ただ、ただ日々を一生懸命、支え合って生きていただけなのに。
「どうしてっ…、こんな…っ。」
怒りと悲しみで、ぐちゃぐちゃになった頭で考える。
俺のそばに、くしゃくしゃの紙袋が2つ転がっていた。
シゲ叔父さんも、ヒマリも…誰も救えなかった。
いつもの日々の、大切な人たち。そして、たった一人の…大切な家族も。
…俺は、また、救えないのか?また、俺をかばって、大切な人が、俺の目の前で…
「くそぉぉぉ!!!!」
俺は、声を上げて泣くことしかできない。
「1分…過ぎていました。
…正義のために。…すまない。」
ブレイズの、ささやくような声が聞こえた…気がした。
ーーー【黒の再来】まで、あと3分ーーー
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