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第三章:来たる日に備えて
その瞳に映るのは
しおりを挟む「よっし!今日もいい天気だな!
これなら、思う存分チカラが使えるぞ!」
昨夜は、あの後ミチカの待つ宿へ行き、
そのまま何事もなく一泊して。
今朝起きたら、2人部屋の、
俺の隣のベッドには、もう、大先生はいなかった。
たぶん、昨日の宣言通り、
ブラックアビス本部へ”禁色”の報告をするために
村の外、数キロ先にある通信箇所へ向かったんだろう。
「ヨウのあのチカラが…
シオン君を勧誘するのに、役立つのかしら?」
相変わらず嫌味なミチカと一緒に
昨日見つけた、シオンの家までの道中を歩く。
「ま、チカラは使いようだからな。任せとけって。」
俺は胸をはって、堂々と答えたけど。
(ほんとは…
特訓以外でチカラを使うの、初めてだから…)
「…緊張する…。」
「え?何か言った?」
「な、なんでもないっ!」
俺はつい口からこぼれていた本音を急いで飲み込んで。
「そうだ!
シオンが、ミチカにチカラを使うか分かんないけど…
もし使ったら、心の声はダダ漏れだからな。失礼なこと、考えるなよ。」
いつも嫌味っぽいミチカに、ひとまず釘をさしておく。
「失礼なことなんて、私考えないわっ!
私が考えてるのは……あぁっ!!!!」
「なんだよ!急に大声出して。どうかしたか?」
「いや…あの…私っ!!」
「大丈夫か?なんか…顔が、赤いぞ?」
ミチカの赤くなった顔を覗きこむと
「なっ、なんでもないっ!!!」
ーードンッ!
心配してやったのに、
なぜか理不尽に、顔を押し返されて。
「…私っ!
まだシオン君に会ったことないから、
先に言って、様子を見てくるわ!
本気でブラックアビスに入りたくないなら、
近付いてくるヨウを見て、またすぐ逃げちゃうかもしれないでしょ?
初対面の私なら、
すぐに逃げられる心配はないと思うわ。
よって、今日はまず私が1人で、彼に接触します!
だからヨウは、ちょっと後から、追いかけてきてね。
すぐには、来ちゃだめよ!絶対ね!」
そう言って、俺の返事も待たずに背を向けて
「ヨウの隣にいる時…
いつも、”好き”って考えてしまってること、バレちゃう…!
先に言って、口止めしなきゃ…!!」
ミチカは、俺には聞き取れない声量で、何かをつぶやきながら、
俺から聞いていた、シオンの家の方向へと走っていってしまった。
「ったく、やる気満々なのはいいけど…
顔も赤かったし…風邪とか、大丈夫なのか?」
(まあ、あれだけ走れれば…大丈夫…か?)
走っていくミチカの背中を、少し不安になりながらも見送って。
(ミチカが上手く引き止めてくれてる間に…
どうやって勧誘しよう…やっぱ、チカラ、使うべきかな?)
再度計画を練りながら、
あえてゆっくりと歩いて、シオンの家に向かった。
「あ!ヨウったら、やっと来たわ。」
気を使って、慎重に近付いたけど。
近付いてくる俺に気付いたミチカが
俺に向かって、大きく手を振って声をかけてきた。
そこは、シオンの家の庭で、
ミチカの隣には、いつもの無表情のシオンが。
「ヨウ、おはよう。この前は…ごめんね。」
俺の目を見ながら、
少しだけ申し訳なさそうに、挨拶をしてくれた。
「シオン、おはよう。
この前のこと…ちゃんと、理由を聞きたくて、来たんだ。
あ、今…チカラ、使ってるのか?」
シオンは、俺と同じで極端に薄いカラーズ…
つまり、チカラを使っていても、
瞳にカラーズのモヤは、浮かばないだろうから。
チカラを使っているのか、
見た目では判断できなくて、素直に聞いてみた。
シオンは少し、考えたような素振りをして
「…ヨウは、もう少し
ミチカちゃんを、大切にしてあげなよ。」
「シ、シオン君…!」
「え?ミチカ?
ミチカのことなんて、今1ミリも考えてないけど…。」
「…だから、だよ。」
「わ、私の話はいいからっ!」
無表情だけど、なんだかシオンは呆れた感じで俺を見ている。
そして、ミチカは相変わらず、いつもより顔が赤い。
「…ミチカちゃんは、風邪じゃないよ、ヨウ。」
「あ、やっぱチカラ使ってるんだな!」
何だか会話が分からなかったが、
やっと、シオンが俺の心の声を読んでいることが分かった。
「シオンにしか見えない、薄紫の付箋(ふせん)か~。
俺も、舞ってるの見たいな。絶対キレイだよな。」
良い天気の空を仰いで、そこに舞う紫色の紙を想像する。
「私もそう思うわ!きっと素敵でしょうね。」
ミチカも、俺と同じように、空を見上げて言った。
そんな俺たちを、シオンは黙って、無表情で見つめている。
俺には…
シオンが何を考えているか、もちろん分からないから。
俺たちを見ていたシオンに視線を合わせて、
そのまま少し近付き、声をかけた。
「シオン…
単刀直入に聞く。ブラックアビスに、入らないか?」
心の声を、読んでいるのなら。
”禁色”などの事情は、きっと伝わっているはずだから。
「それから、やっぱり…
俺と、友達になってほしいんだ。」
シオンから、目をそらさずに続ける。
「心の声を読んで、俺の気持ちは分かってるだろ?
でも俺は…声に出した方が、想いは伝わると思うから。
だから、何回でも言うよ。
俺と、友達になってくれ!」
昨日の夜に、逃げられた時と同じように。
もう一度、心から、シオンへ気持ちを伝える。
俺の周囲を舞ってる付箋にも、絶対、同じことが書いてあるはずだから。
「…うん。全く”同じこと”、だよ。」
シオンは、少し嬉しそうに笑って答えた。
「こんな僕に…ありがとう。
でも、僕は君たちと一緒には、行けない。
…叔父さんを、守らなくちゃ。」
「叔父さんを…?」
俺は昨日、窓から見た、
怒りに震えるシオンの叔父さんを思い出す。
「ヨウ…違うんだ。叔父さんは…。」
シオンが、そう話し始めた時…
「シオンっ!!!
そんな所で、一体誰と話しているんだ?!」
家の中から、叫ぶような声が聞こえて…
「昨日の男といい…
その2人も、この村の人間じゃないな?
まったく、何でシオンに近付くんだ!?」
玄関から、シオンの叔父さんが飛び出してきて。
俺とミチカに、鋭い視線を投げて話しかけてきた。
「…ヨウ、見て。」
シオンは、叔父さんに返事をするわけでもなく。
近くにいた俺の手を、ギュッと握って、そうつぶやいた。
「見るって、何を……あっ!!!」
シオンに握られた手から
ぬくもりと一緒に、何かが流れてくる感覚があって…
その後、俺の視界いっぱいに広がる
薄紫の、桜の花びらのような、付箋たち。
その、一枚一枚を、よく見ると…
【大切なシオンに…こいつら、何をするつもりだ。】
【シオンを失うのが、怖い…姉さんのように。】
【シオンは、俺が管理しないと。】
【シオンに嫌われてでも、俺が…。】
「シオンのことで、いっぱいだ…。」
その全てが、シオンを思う言葉で、埋めつくされていた。
「…うん。
だから、いくら殴られても…
叔父さんのこと、俺は嫌いになれない。」
シオンは、俺にだけ聞こえる声量で、そうつぶやく。
そんな俺たちを見て、
シオンの叔父さんは
怒りと困惑と不安の入り混じった表情で、俺に話し続ける。
「おい、何とか言ったらどうなんだ?!」
【シオンは、何でこんなやつと…?】
【また、殴らないと、分からないのか?】
【どうしたら、言うことを聞いてくれるんだ…?】
付箋にも、不安定な言葉が並び始めて。
そんな言葉に囲まれながら、シオンは悲しそうにつぶやく。
「叔父さんには…
何を言っても、だめだったんだ。
『俺は、母さんと違ってどこにもいかない』って、
いくら伝えても…信じて、もらえない。
叔父さんも、発現者なら…
俺の付箋、見せてあげられたのにな。」
そう言って、寂しそうな顔をするシオンに目を向けると
【叔父さんのそばにいなきゃ。】
【母さんの代わりに…俺が、一緒にいる。】
そんな付箋が。
ヒラヒラと、儚げに散っていた。
「シオン…。」
シオンの瞳には、いつも、
こんな景色が見えていたんだな。
相手の心の声が、
こんなに正確に分かっているのに…
「伝わらないなんて…そんな…。」
シオンと叔父さん、2人の
すれ違うような、付箋を見て。
どうしたらいいか、考え始めた、俺の瞳に…
「…ヨウ?
そこにいるのは…ヨウ・オリーヴァーか?!」
…懐かしい、
明るい、オレンジ色の髪をした、少年が…
「…っ!レ、レン!?」
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…真っ白の隊服に、身を包んでいた。
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