長田浜高校ミステリー同好会の事件日誌

浜 タカシ

文字の大きさ
1 / 19

File1 窓ガラス事件

しおりを挟む
事件、人生において、願わくば遭遇したくない厄介ごとの事だ。
人は事件を嫌い、目を背けようとする。俺もその一人だ。
人生において、厄介ごとは必要ない。

「気を付け、礼」
「さようなら」
「はい、気を付けて帰れよ」

今日も一日が終わった。長い長い一日だった。

ここ、県立長田浜高校は部活動に強制加入ではない。つまり俺は部活に入る必要はない。
ということで、帰る。

「戸田、今日お前日直だろ。ちゃんと当番日誌出して帰れよ」

クソ教師が。

―ーーーーーー

長い長い、本当に長い一日だった。気づけば、時計の短針は5を指している。特にクラスの出来事に無関心な俺にとって、当番日誌ほど苦痛なものはない。
やっとの思いで、下駄箱までたどり着き、靴を履く。

パリーン…

なんだろう、どこからかガラスが割れるような音がする。
ドン「あっ、ごめんなさい。お怪我は?」
「大丈夫です」
「そうですか、それでは先を急ぎますので失礼」

後姿をみるに、黒髪の普通の女子生徒。頭に探偵帽を乗せていることを除けばだが。
邪魔された、靴履きを続行し、俺は家路につく。
途中、横目で見ると、確かにガラスが割れていた。そこには野球部と教師、野球ボールと探偵帽の黒髪…。なんであいつがいるんだ。

「あっ、さっきの。先ほどは失礼しました。そのあとはお変わりなく」
「あっ。えぇ、まぁ」
「そうですか、それは良かったです。ところで、ガラスが割れた音聞きませんでしたか?」
「聞いてないです」

危ない危ない、危うく事件に巻き込まれる)グッ

「何か知ってますね、あなた」

顔をやたら近くし、(俺がここで一歩出たらキス寸前だぞ)いい匂いのする黒髪探偵帽はにこにこしながらおれにそう言った。
あぁ、面倒事に巻き込まれた

「まず、貴方のお名前は?」
「黙秘します」
「それでは話が進みません!もう…分かりました、それではまず私から、私は1年A組の鹿野 琴です。どうぞお見知りおきを。ではあなたの名前は」
「黙秘します」
「それはいけませんね。名乗られたら名乗り返す、礼儀ですよ?」

あっ、この女めんどくさい奴だ。これがおれの黒髪探偵帽改め、鹿野への第一印象だった。

「1-B戸田 博人だ。」
「同じ学年でしたか。分かりました、よろしくお願いします。下手さん」
「なんかイントネーション違う気がするけど」
「えっ?下に手で下手さんですよね?」
「どういう苗字だ。戸棚の戸に、田んぼの田で戸田だ」
「あっ…。もちろん最初からわかってましたよ!」

なぜそこで見栄を張る。第一印象にねじが一本欠けているも追加しておこう。

「こほん、では戸田さん。あなたが知っているこの事件の情報を提供してください!」
「と言われてもな。昇降口で靴履こうとしてたらガラスが割れる音がして、すぐにお前にぶつかられてそれきりだ」
「ふむふむ。他には?」
「それきりだと言っただろう。ただガラスが割れる音を聞いただけだ」
「何時にその音がしたか覚えてますか?」

知る訳ないだろ。と思ったが、教室を出た時ちょうど17時だったという事は割れたのはそれから5分も経ってないだろう。

「俺が教室を出た時ちょうど17時だった。そこから昇降口にきてすぐだからだいたい見当つくだろう」
「なるほど。ということは17時2分から3分あたりが怪しいという事になりますね」
「そういう事だ。じゃあ俺は帰るぞ」
「ちょっと待ってください」
「今度はなんだ」
「貴方、さっき知ってる情報があるのに知らないと嘘つきましたよね」
「覚えてない」
「いいえ、言いました。罪滅ぼしはしっかりやってください戸田さん」

なんなんだこの女…。

――――――

「それでは事件の概要を整理しましょう」

というわけで、俺は罪滅ぼしという名のもと、鹿野に半ば強制に連行された。

「まずこの見取り図です。ここがいま私たちのいるミステリー同好会室。そして、この赤バツが窓ガラスが割れた現場です」
「あぁ」 
「事件の発生は17時からの3分間の間。野球ボールによって窓ガラスが割れていました。ガラスは地面に散乱していたので間違いないでしょう。容疑者は野球部の二人、さっきいた人たちです」
「あぁ。確かさっき先生と一緒にいた」
「その通りです。先生によるとどうやらあの二人、ながらキャッチボールの常習犯だったらしく、先生が何度注意しても聞く耳持たずだったそうです」
「じゃあその二人だろう」
「いいえ、なんと二人は容疑を否認しているんです」
「容疑を否認?」
「はい。自分たちはその時現場にはいなかったと」
「じゃあどうしてさっきいたんだ?」
「はい。それが不思議なんです。やってないのになぜ二人が現場にいたのか」
「二人が嘘をついているという可能性はないのか」
「それについては二人のお話を聞いてみない限りは。でも、今二人は生徒指導課の聴取を受けているので無駄足ですよ」
「そうか」
「この隣の文芸部は今日活動してるのか」
「えぇ、たぶんしてると思いますけど」
「そうか」
「…?どうせ暇ですし、話聞きに行きますか?」
「そうだな」

そういうや否や、俺と鹿野はミステリー同好会室を出て、隣の文芸部室に話を聞きに向かった。

コンコン「誰かいらっしゃいますか?」
「はいはい、今開けます」

そう言って出てきたのは一人の男子生徒。部屋の奥にはもう一人いるらしい。

「こんにちは、ミステリー同好会の鹿野と」

鹿野は後ろを向いて俺に挨拶をしろと言わんばかりのジェスチャーをしてくる。

「戸田です」

別にミステリー同好会に入ったわけじゃないけど。

「それはどうもご丁寧に。文芸部の福川といいます。後ろのは」
「大潮だ」
「それで、ミステリー同好会の人がどうしたんだい?」
「さっき、そこのガラスが割れたことはご存知ですよね?」
「えぇ、まぁ知ってるけど。それがどうかしたかい?」
「それについて詳しく調べてるんですが、良ければお話を聞かせてもらえないかと」
「お話?と、特に話すようなことはないけどね。まぁいい。何が聞きたいんだい?」
「この事件の発生当時何か気になる事はなかったですか?」
「気になる事…?まぁ、強いて言えばガラスが割れるちょっと前に野球部の二人が昇降口に向かって歩いているのを見たよ」
「なるほど…。他に何かありますか?」
「いや、特にないかな。お役に立てたかな?」
「はい、ありがとうございました」

――――――

「やっぱり野球部の二人が犯人で決定ですかね」
「どうしてそう思うんだ」
「だってさっき文芸部の人も言っていたじゃないですか。割れる直前に野球部の二人を見たって」
「まぁ、確かにそうだ」
「だったら、もう野球部の二人しかいないじゃないですか。またながらキャッチボールでもしてたんじゃないですか?」
「まぁ、そうかもしれないな。でも、犯人は別にいる」
「…?もしかして戸田さん、犯人分かってますか?」
「まぁ、目星は」
「聞かせてください!」

ち、近い…。鹿野はグッと体を近づけ、俺になぞ解きをねだってきた。

「あぁーもう。分かったよ」
「お願いします」
「まず、野球部は犯人じゃない」
「どうしてそう思うんですか?」
「あの二人に犯行は不可能だからだよ」
「…?と言いますと」
「ここの学校、敷地が狭くて野球部のグラウンドだけ別にあるだろ。ほらこんな風にさ」
「確かにそうですね」
「これの直線距離をおおよそ1kmと仮定しよう」
「仮定しましょう」

「この1kmはあくまでも直線距離での話だ。道をきちんと歩こうと思えば1kmじゃ済まんだろう」
「たしかにそうですね」
「そしてここの終業は16:20。それからどんなに頑張っていっても片道15分はかかる」
「確かに、そのくらいかかると思います」
「ここからはあくまで仮説だが、あの二人、なにか忘れ物に気が付いてすぐ引き返して来たんじゃないか?」
「忘れ物ですか?なんだったんでしょう」
「野球ボールだよ」
「ボール?」
「詳しく言えばあの二人がながらキャッチボール用に使ってたボールだろう。どういう訳か知らんが、学校に忘れて取りに帰ってきた。こうすれば時間的にも、物理的にもあの二人犯行は不可能だろ」
「なるほど…。では真犯人は?」
「文芸部の二人だ」
「文芸部の?」
「あぁ、見取り図を見てくれ」

「ちょうど文芸部室の入り口のドアと、ガラスが割れている場所が一致している」
「たまたまという可能性は?」
「いや、証拠ならまだある。野球部の二人が、あの時間に帰ってこれない以上、奴らは嘘をついた」
「嘘ですか?」
「あぁ、あの窓ガラスが割れた時間に、野球部を見たっていう嘘だよ」
「…!確かに、確かに言ってました」
「まだあるぞ。ガラスが割れるとき、今回は物が当たって割れた時だ。そこそこの速さの物がガラスに当たれば、ガラスはおのずと当たった方とは逆側の地面に落ちる」

「はい、その通りです」
「今回、ガラス片は外に多く飛び散っていた。つまり、ボールは中から当たったという事になる。だから奴らなんだよ」

――――――――

後の生徒指導課の聴取により、文芸部の二人は口を割り、落ちていた野球ボールでキャッチボールをしていたら、取り損なって、窓ガラスを割ってしまい、慌てていると、運悪く忘れ物を取りに来た野球部が見えたので罪をかぶせようとしたと供述したという。

一方の野球部の二人は、俺の見立て通り、ながらキャッチボール用のボールを落としてしまったことに気づいたらしく、慌てて取りに戻ってきたら、ガラスが割れる音がし、なぜか自分たちの失くしたボールがそれを割っていたということだった。

「お見事でした戸田さん」
「お前はまったく分かってなかったじゃないか」
「お恥ずかしい限りです。…なんで今回の事件は起こってしまったんでしょうか」
「野球部の二人の日ごろの行いの悪さと、文芸部のずる賢さ、これがきれいに合わさったからだろ」
「なるほどです」
「さてと、帰るかな」
「戸田さん!」
「ん?」
「ミステリー同好会に入ってくれませんか?」
「断る」
「罪滅ぼしですよ」
「しただろ、さっき」
「まだしたらないんです!」
「はぁ、まぁ、そんないつもいつも事件が起こる訳でもないだろうしな。名前だけおいとくよ」
「…!ありがとうございます」
「勘違いするなよ。名前だけだからな」
「はい、名前だけですね。了解です!」

本当に了解したのか、あの黒髪探偵帽は…

「でも」
「ん?」
「でも、この世の中の謎って全て解かれるためにあるんですよ」
「なんだそれ」
「ふふ、確かに、なんでしょうね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...