となりの君は、ちょっとかっこわるいけど、かっこいい。

つちのこうや

文字の大きさ
12 / 22
4章

ダンスを始めた

しおりを挟む
 初めてのダンス教室は、実来ちゃんと仲直りしてから、三日後だった。
 ダンス教室をやっている建物の前まで来て、そこで深呼吸をする実来ちゃん。
「梨月ちゃん、緊張するよ~」
「わたしもしてる……」
「やっぱするよねー」
「うんうん」
 だけど、緊張してるからっていつまでもここで固まってたら、初めてのレッスンから遅刻することになっちゃう。
 そうなったら、もっと恥ずかしい。
「行くよ実来ちゃん」
「うん!」
 

 受付に行って、そして、まずはダンス教室のメンバーカードを作った。名札としても使うから、服につけるための、ピンがついている。
わたしはメンバーカードを眺めた。
「りつき」と大きな丸っぽい字で書かれている。
 もちろん、実来ちゃんの名札には、「みく」って書いてある。

 それから着替えて、名札をつけて、いよいよレッスン開始だ。
 わたしと実来ちゃん以外にも数人の人がいる、初心者のクラス。
 大きな鏡のある部屋で、ポニーテールの女性の先生が、わたしたちのほうを向いた。
「7月から入ってくれた皆さん、こんにちは。わたしは今日からみなさんにダンスを教えます、中島です」
 中島先生、美人でいい先生そうだなあ。
 ちょっと緊張がほぐれた。


 んだけど、もうレッスンが始まってすぐに、別の問題が。
「はい、りつきさん! 指先が全然のびてないですよ!」
「は、はいっ」

 うん、めっちゃ初回から厳しいよ!
 初めてのレッスンはまずはダンスを楽しんでみましょう! たんたかたん♪ 
 みたいな感じだと思ってたの。違った。中島先生、美人なのに厳しいから、なんかドラマとかの登場人物だったら、人気ありそうだなあ。
 隣の実来ちゃんを見てみたら、すっごく真剣。
 そうだよね、わたしも頑張らないと。
 指先を伸ばす。リズムにのる。
 よし。頑張る。
 まだ基本的なゆっくりな動きしかないって、中島先生も言ってたし、きっとこれからどんどん難しくなるんだから。

 それからも中島先生の熱血指導を受けて、気がついたら、一時間半たっていた。
 初めてのレッスンが終わったあとの感想。
 疲れたし厳しかったけど、ダンスって楽しい!

 今日は天気も良くて、とてもきれいな夕焼けの日。
 実来ちゃんとジュースを飲みながらのんびりと帰っていた。
 少し涼しくなった夏の夕方と、ジュースはすごく合う。
 つかれてなんか足とか手がへなへなする。運動会の後みたいな感じ。
 もしかしたら、これって、筋肉痛とかになっちゃうのかな。
 でも、とにかく今はすっきりだった。
「実来ちゃん、わたし、楽しかった」
「わたしも! よかったね。申し込んで」
「うん! 誘ってくれて、ありがと!」
「わたしこそ、梨月ちゃんと一緒で心強い!」
 二人で今日のダンスを思い出しながら笑った。
 そう、この時わたしは、すごくダンスは楽しいんだなって感じることができたんだ。


 だけど次の日、わたしは教室で痛がっていた。案の定だよね……。
「いたた」
「どうしたんだ?」
 心配してくれる陽飛。
 洋香ちゃんに優しいところとかも見たからか、わたしから見ると、妹を心配するお兄ちゃん感が出ている。
 そんな陽飛にわたしは答えた。
「筋肉痛」
「え、筋肉痛? もしかして、バレーやったのか?」
「ううん。バレーはしてないよ。でも、ダンス始めたんだ」
「ダンス。ダンスか。おれあんまりダンス詳しくないけど、確かにすごく筋肉使いそう」
「思ってたよりも使うかも」
「やっぱりそうか。腕が筋肉痛なのか?」
「うん。あと脚もだし、お腹も」
「大体全部じゃん」
 マイペースな陽飛もすかさず突っ込みを入れるくらい全部筋肉痛って、なんとも情けないオチ。週二回、ダンスやっていけるんだろうか、わたし。
「陽飛は、バレーしてて筋肉痛になったりしないの?」
 わたしは尋ねた。陽飛、きっとかなりレベルの高い練習してると思うから、なってるかもって。
 わたしがバレーしてた時は、そこまでならなかったけどね。
「うーん、そんなにならないかな」
「もう筋肉が強いんだ」
「そうなのかな。そうかもしれない」
 自分の腕をみつめる陽飛。確かに結構、しっかりした腕だ。そんな腕とか見てても、ちょっとドキッとしてしまう。

「あ、そうだ」
 陽飛がちょっと改まって言った。
 そしてなにやら机の横にかかっている袋をがさごそして、
「おれ、今度この大会に出るんだ」
 わたしの机と陽飛の机の、ちょうど間に置かれたチラシ。
 市の、バレーボール大会だった。すみっこにトーナメント表も印刷されている。
「すごい。陽飛のチームはどこなの?」
「これ」
 指さしたチームは……。
「ドルフィンズ?」
「そうそれ。なんか名前を誰かに教えるたびに、イルカってバレーボールするのかなって思うけど」
 そっか。ドルフィンってイルカの英語だもんね。
「するんじゃない? ほら、よくショーとかだったら、ボールでも遊んでるじゃん」
「たしかに」
 この前陽飛と行った水族館にはイルカはいなかったけど、イルカがいてショーをやってるところでは、高いところにあるボールをタッチしたり、水に浮いているボールを飛ばしたりしていた。
「この試合って、見に行けるの?」
 わたしはきいてみた。
 なんかちょっとまた、陽飛がバレーボールしてるの見てみたいなって。
「あ、もちろん見に来れるよ。試合会場、ここの小学校の体育館だし。ていうかおれ、梨月に、よかったら来てって言おうと思ってた」
「そうなの?」
「うん」
 それは意外。
 確かに最近陽飛とはたくさん話すけど、でも、バレーボールの試合を見に来ないか誘ってくれるとは思わなかった。
「あ、そうだ。洋香ちゃんは見にくるの?」
「うーん、結構遠いし、洋香はキツいかもなあ。でも見に来れなかったとしても、試合の動画を記録のためにとってるから、それを見せることはできるかな」
「そっか、じゃあ洋香ちゃんにかっこいい所見せれるじゃん。頑張ってね」
「……おお」
 うなずく陽飛。
 そして鳴る朝のチャイム。
 うちの学校って朝のチャイムだけ、ただのキーンコーンカーンコーンじゃなくて、ちょっとさわやかなメロディなんだよね。
 だからわたしは、陽飛のうなずき方がちょっとぎこちなかったのが、あんまり気にならなかったんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

処理中です...