ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

文字の大きさ
20 / 277
五章

温泉 4

 さて、受付嬢への報告も済ませたし。
 早いとこ行きますか。

 ギルドを出て、その足で大通りを抜ける。
 自宅とは反対方向。
 門をくぐり、街の外へ。
 そのまま森の中に入った。

 何故、依頼も受けてないのにこんな所に来たのか。
 普段は薬草採取ぐらいでしか入らない場所。
 魔物の居る様な森だし。
 当然、何か建物があるなんてはずもなく。
 用もないのに来るような所ではない。
 もちろん理由がある。
 今回、温泉までわざわざ馬車で行く気は無いのだ。
 代わりに転移魔法を使う予定。
 なら何処からでも行けるのでは?って話なんだけど。
 念のため、ね。
 転移魔法を使う瞬間とか誰かに見られたく無いし。

 街の中だと色々不都合が出るのだ。
 人目を避けるのが無理だとは言わないが。
 仮に避けたとして。
 何処かの建物に入ったまま消えたとか。
 そんな噂になっても厄介。

 今の俺は、ノアの事もあってかなり人目に付きやすいし。
 あまり迂闊なことをして話を広められたくはない。
 この世界は村社会的な側面が強い。
 噂が回るのは一瞬。
 街間での情報のやり取りは遅いのだけど。
 その代わりにと言えばいいのか、内輪での情報共有は本当にあっという間。
 もともと知ってはいたが、前回の一件で強く実感した。

 わざわざ森まで出て来たのも、そんな事情があっての事。
 ここなら人も多くはない。
 この森に用のある人間なんてせいぜい冒険者ぐらい。
 他の人間はまず立ち入らない場所。
 それに、冒険者にしたって。
 冬に入ったおかげか、蓄えに余裕ある人間は休養に入っている。
 旅ほどじゃないが危険は危険だし。
 ますます森に入る人数が減っている状況。
 木々で視界も限られ。
 色々なリスクを最低限に抑えられる理想的な環境なのだ。

 辺りを見回す。
 ざっと見た限り、人はいない。
 一応、魔眼も起動。
 目に魔力を流し、周囲の魔力を可視化する。
 動いてるのは魔物だろうか?
 人型っぽいのもいるが。
 まぁ、ゴブリンかオークだろう。

 よし、問題は無いな。
 転移。

 魔法を使用した瞬間、景色が一瞬で変わった。
 でも、それだけ。
 特に浮遊感を感じたりとか、転移したことで酔ったりとかはしない。
 例えるならPCの画面に別の画像を表示した、的な?
 もちろん出来事としては全く違うのだが。
 それぐらいシームレス。
 流石のチート仕様である。
 多分、コップ満杯に汲んだ水をこぼさず目的地まで移動出来る。
 それになんの意味があるんだって話だけど。
 そんだけ快適って事だ。

 ま、景色が変わったとは言っても同じく森の中なんだけど。
 転移前せっかく手間を掛けて人目を避けたのだ。
 これで街中とかに転移したら全くもって意味がない。
 後、普通に危ないし。
 転移で人と重なったりしたら悲惨である。
 チート仕様のおかげで俺が傷つくことはないのだが、その代わりに転移先の空間が抉り取られる訳で。
 そこに人が居たら体に人間大の穴が空くことになる。
 当たりどころによっては即死。
 しかも、スプラッタと見まごう様なグロい死体の出来上がり。
 俺の方も血まみれになるし。
 いいことなしだ。
 だから、同じく人目がなさそうなここを転移先にした。

 この転移魔法、事前のマーキング等は一切不要。
 一度行ったことがある場所なら何処にでも行ける便利仕様。
 でも、こういうデメリットもあるからね。
 また行きたいなと思った時。
 必ず転移先の空間に目星を付けてから帰る事にしている。

 一応、こちらでも魔眼を起動。
 周囲の魔力をチェック。
 辺りに人は居ないな。
 珍しい事に人型の反応すら無い。
 ゴブリンの類はここじゃ少ないのかもしれない。
 森ごとに結構生態も変わるのだ。
 危険であまり研究は進んでないらしいが。

 森を出て、街まで少し歩く。
 門。
 港町のものより更に小さなそれが見えてきた。
 到着だ。
 なんだかんだ手間を掛けたが。
 延べ1時間も掛かってないのではなかろうか。
 馬車よりよっぽど楽。
 あまり雰囲気は出ないけどね。

 って事で。
 ビバ、温泉街!
感想 69

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。