ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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六章

奴隷 7

「……」

 謎に視線を感じた。
 別にスラムの奴らじゃない。
 もっと近く。
 普通に奴隷から。
 獣人の女の子。
 彼女からジトーっとした視線が向けられる。
 背が低いのもあって自然と俺を見上げる形。
 かなりの上目遣いだ。
 可愛らしい。

 いや、そんな話ではなく。
 何か言いたげなご様子。
 商人から買ってそのまま連れ歩いてたからね。
 そりゃそうなるよなって。
 まず会話がないし。
 あまり現状を理解してなさそうだ。

 なら俺から話しかけろよって事になるんだが。
 勢いで買ってしまったのだ。
 なんと言うか、どう話しかけていいか。
 初対面特有の雰囲気。
 それでいて上下関係だけははっきりしている関係。
 ちょっと気まずい。
 まぁ、向こうはさらにそうなのだろうけど。

 突然来て、何も言わずに買ってった訳だし。
 奴隷と一切会話せずに買うと言うのも珍しいだろう。
 技能とかもまともに聞かなかった。
 ま、俺としては見た目に惚れ込んだわけで。
 他のことは二の次。
 その時点で買うことは確定してたのだが。

 そういう目的で買われたのは理解しているんだろうか?
 微妙な年齢だ。
 分かっていそうな分かってなさそうな。
 だから、余計に。
 そっち方面の話をして引かれても困るし。
 娼婦とは違うのだ。
 いや、奴隷だからどう扱おうと俺の自由なんだけどね。

 しばらく沈黙が続いた。
 そして、恐る恐ると言った様子で奴隷が口を開いた。

「あ、あの……」
「なんだ?」
「ご主人様とお呼びしても?」
「好きにしていいぞ」

 また会話が止まった。

 この微妙な距離感、なんと言えばいいのか。
 ペットを飼った時の様な感覚。
 甘えてこられたら上手く出来るが。
 構ってやればいいだけだし。
 でも、距離が出来ちゃうとね。
 どうしていいか分からない。
 こっちから詰めて良いかも良く知らないし。

 あと汚い。
 今はあんまり近寄りたくない。
 酷いとは思うが。
 本音である。
 さっさと洗って、それからだな。

「えっと、ご主人様?」
「なんだ?」
「それで、私は何をすれば」
「まぁまぁ、後で説明するから」
「はぁ……」

 困惑気味の奴隷を連れ門をくぐる。
 温泉街を出た。
 季節は冬。
 雪もうっすら積もってる状況で街の外へ。
 予想外だったのだろう。
 俺の行動に余計混乱してる様子。

 別にそんなきついことをさせたい訳じゃないよ?
 まぁ、あの状態でケージに入れられてた子を歩かせてる訳で。
 今の状況が十分きつい説もあるけど。
 森の奥までは行かない。
 少し歩くだけだから、許してくれ。
 そこまで行かずとも良さげな場所があったはず。
 仮に上流まで行った所でこの子じゃ火傷するだろうしね。

 川が見えてきた。
 少し湯気が出ている。
 気温が低いからお湯とは限らないが。
 近づくと熱気を感じる。
 温泉ほどとは行かずとも温水プール程度の温度はありそう。
 そばに立ち、軽く触れる。
 うん、問題なさそうだ。

 ここならいいかな。
 興味があるのか、奴隷っ子が川を覗き込んでいる。
 ……後ろからそっと近づいて。
 ぽんっと押す。

「え!?」

 そのまま、川に落ちた。
 酷いなこれ。
 ただのいじめである。

 いや、ちょっと魔が差しまして。

「何をするんですか! って、あったかい?」
「温泉が流れ込んでるからね」
「お、温泉?」
「もしかして初めてか?」
「多分、そうです」
「地面からお湯が湧き出てる、天然のお風呂みたいな物だ」
「……天然のお風呂?」

 不思議そうに首を傾げる。
 そうか。
 温泉街にいたのに、温泉の事知らなかったのか。
 まぁ、奴隷だもんな。
 他の街から連れてこられたのだろうし。
 この街に来た時にはすでに商品だったのだから。
 あのケージから出る機会もなく。
 元々いた場所に無ければ知る良しもない。
 考えてみれば当然の話だ。

 一体、どれほどの期間。
 今の格好から言って、直近って事はないよな。
 それでここまで汚れはしない。
 買われるまでずっと。
 ケージの中。
 そこから見える世界が全てだったのだ。

「ほら、体洗って」
「?」
「今のままじゃどこにも連れてけないだろ?」
「あ……。はい!」

 嬉しそう。

 ま、気持ち悪かっただろうしな。
 何日も風呂入ってない状態。
 いくら冬とはいえ。
 体は老廃物を出すのだ。
 しかも獣人。
 毛が多かったりと。
 多分、人間以上に不快だったはず。

 流されないように様子を見る。
 ま、浅い川なんだが。
 一応念のため。
 あの生活で体力落ちてるだろうからね。

 しかし、ぼーっと全体を眺めていた訳だけど。
 しばらくして。
 視線がある一点に引き寄せられる。
 別にトラブルが起こったとかではなく。
 ただ、淡い色のポッチが……
 うっすら透けて見えた。
 獣人もそこはピンク色なんだなと。
 そんな感想を抱く。
 彼女はそれに気づいてないのか気にしていないのか。
 今は目の前の川に夢中らしい。

 初めはね、純粋に彼女を心配しての行動。
 邪な思いはなかったんだが。
 これを見るなって方が無理だよね?

 ……もはや、透けてるっていうか。
 元々服がボロボロだったのだ。
 川の流れも相まってか、徐々になくなってるような。
 半裸である。
 かろうじて布が少し残ってる程度。
 漫画ぐらいでしか見ないな。
 しかも大事なところが隠れてないし。

「ひゃ!」

 あ、気づいたっぽい。

 咄嗟に胸を押さえて、俺の方を見る。
 視線が合った。
 見られていたのを理解したのだろう。
 頬が真っ赤に染まる。
 そして、川の中にチャポンと全身を沈めた。
 この反応、羞恥心はあるのか。
 健康的でよろしい。
 まぁ、今はそれのせいで恥ずかしい思いをしている訳で。
 むしろ無くなって欲しいと思ってるかもしれないが。
 それだけ健全って事だ。
 なにも悪い事じゃない。

 結構元気そうだな。
 精神も、体も含めて。
 あの環境で。
 どちらの意味でも死んでいておかしくない。
 強い子だ。
 獣人だからじゃないな。
 この子だから。

 やっぱり、買ってよかった。

「よし、綺麗になったな」
「……」

 川から上がってきた。
 声をかけたが視線を逸らされる。
 大事なところを手で隠し。
 それに精一杯って感じ。

 まぁ、隠しきれてないのだけれど。
 布は全部なくなってしまった。
 どうやらそのまま遊ぶ気にはなれなかったらしい。
 夜の相手もしてもらうつもりだが。
 これ、慣らさないと無理そうだな。

 適当に服と布をアイテムボックスから取り出し渡す。
 一応申し訳程度にカバンから出すふり。
 ま、バレてはないでしょ。
 今の彼女を見るにそれどころじゃなさそうだし。

「あ、ありがとうございます」

 うん、可愛い。
 これならいけるはず。

 やっぱり不潔だと雇ってくれないだろうからね。
 別に、お金は必要ないんだが。
 店に丸投げするのだ。
 世話をしてもらう以上利益は出さないといけないし。
 でも、この容姿なら問題ない。
 獣人というマイナスを補って余りある。
 それだけの魅力。

 少なくとも、俺なら間違いなく指名するし。
 ナンバーワンを目指せる逸材。
 押し付けなんてとんでもない。
 むしろ、泣いて感謝されるまであるな。
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