ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十章

生徒 2

 さっきの少女、才能はある。
 でも、伸びが悪い。
 ざっと話を聞いた限りそんな感じ。

 ……そうか、伸びが悪いんか。
 メスガキの癖に。
 生意気で実力も確かなのが相場なのでは?
 それをひっくり返されるからこそ。
 わからせがいがあるって物。
 本人の責任の一言で終わりなんだけど。
 一応やる気はあるらしい。
 講師だからね。
 真面目にやってくれてるのに伸びない。
 これは自分のせいなんじゃないかと。
 相談内容としてはこんな所だ。

 いや、俺に聞いてどうするって話だが。
 どうも例のノートを元に教えてるらしく。
 俺に相談という事らしい。
 止めてくれ案件でしかない。
 あれ作ったの学園で学生やってた頃だし。
 しかも、ほとんど通ってないからね。
 完成度もお察し。
 とても生徒の役に立つとは思えないが。
 まぁ、触れてないノアからしたら。
 そこが分かりやすいのかもしれないけど。
 今更だ。
 ノートに関しては言っても仕方ない。

 それで、俺に少し見てやって欲しいと。
 ……無理だろ。
 誰がDランク冒険者の言うことなんか好き好んで聞くんだよ。
 ただでさえ、好感度も低そうなのに。
 俺としても見ず知らずの奴のために骨を折る気にはならん。
 放置でいいでしょ。

「え!? 先輩の好感度は低くないと思いますよ」
「お前はさっきの有様を見てなかったのか?」
「アレは……、多分びっくりして照れ隠ししただけです」
「そうは見えなかったけどな」
「先輩相手なら誰もがそうなります」

 いや、俺はスターか何かかよ。
 そもそもあの娘が照れ隠しする要素もないし。
 ただのおっさんだからね。
 むしろ貶されてた気もする。
 俺相手に照れるなんてお前だけだ。

「先輩のことかっこいいって言ってましたし」
「俺は初対面だったと思うが?」
「ほら、先輩のこと話してるって言ってたじゃないですか」
「そんなことも言ってたな」
「僕の話に同意してくれたし。先輩のことも興味津々でしたよ」
「へぇ……」
「あ、生徒相手はダメですからね」
「うっさい。分かってるわ!」

 それ、俺に興味あった訳じゃなくね?
 多分ノアと話したかっただけだと思うんだが。
 会話のとっかかりにしただけ。

 にしても、かわいそうに。
 好きな人と話すためにその人の好きな人褒める羽目になるとか。
 苦痛でしかない。
 それでも好きだから会話に付き合うしかないという。
 ……ただの拷問なのでは?

 まぁ、そっちは置いとくにしても。
 確かに話に出てたな。
 強くてかっこいいとか何とか。
 その後すぐ、趣味悪いとか話と違うとか散々な言われようだったが。
 そこは照れ隠しって事か。
 少なくとも、ノアの中ではそういう事になっているのだろう。
 随分過激な照れ隠しもあったものだ。

 かっこいいは、まぁ……
 主観でしかないし。
 好かれてるってのは分かってるからね。
 個人の自由だ。
 ただ、強いは嘘だろと。

 そりゃ、冒険者だからね。
 Dランクとはいえ一般人よりはマシだけど。
 ノアとかそこまでいかなくとも。
 学園の生徒にも勝てないレベルだぞ?
 普通に魔法使えるんだし。
 下級冒険者が叶う相手じゃない。

「少なくとも、強くは無いけどな」
「先輩も照れ隠しですか?」
「前も言ったけどなぁ。俺はただのDランクで……」
「あの日」
「ん?」
「先輩と再会して飲みに行った日もそう言ってましたね」
「なんだ覚えてるじゃないか」

 てっきり忘れられたものかと。
 あの後色々あったからな。
 俺のことが好きだとカミングアウトされて。
 何故かそこから娼館に行って。
 あ、ノアと嬢が会ったのもあの日か。

 振り返ってみると、本当に色々あった。

「後になって思い出してみたんですが」
「なんだ?」
「僕つい熱くなって机殴りそうになったじゃないですか」
「あぁ、あったあった」

 らしくなかったからな。
 印象に残っている。

「あれ、結構力入っちゃってたと思うんですよね」
「ほんとだよ。俺が止めなかったら机叩き割ってたぞ」
「先輩、簡単に片手で止めてましたよね?」
「……」
「僕の拳の下に手を滑り込ませて、力も入りづらい体制だったのに」
「そんな事、あったっけ?」
「今更その惚け方は無理があると思います」

 冷や汗が……

「お互いお酒飲んでたからなぁ。ノアの記憶違いじゃないか?」

 ジト目。
 無理があるのは分かる。
 軽率だった。

 いや、確かにおかしいよな。
 あの時、力加減なんて出来てなかったし。
 当時はそれぐらい気が動転してたからね。
 その瞬間は気づかなかったにしても。
 後から思い出してみて。
 違和感を覚えるに決まっている。

「まぁ、先輩がそう言うなら。そういう事にしておいてあげます」
「ありがとう。いや、記憶はないんだけどね」
「はいはい。僕も今日はお酒飲んだので、今の話は忘れちゃうかもしれません」

 軽く息を吐いて、そんな事を言う。
 一安心。
 って、そんな単純な話じゃない。
 どうしよう。
 ノアに弱みを一つ握られてしまった。
 いや、脅す気はないんだろうけど。

 それなら素直にこれ取引材料にして。
 いくらでも交渉出来るし。
 この話を出してきたのも俺が強いってのを否定したから。
 それ以外の意図はないのだろう。

 まぁ、認めて欲しそうではあるけどね。
 俺への憧れ的なものはそのままっぽいし。
 でも、それを拒否ってるのも分かってくれただろう。
 実力がないってのよりは受け入れやすいか。
 それならそれで。
 心に秘めておいてくれる分には。

 ただ、本人の心情と相手の心情は別物。
 ノアからの相談。
 あくまで良ければって話。
 お願いでしかない。
 でも、これ断るのは結構な勇気では?
 それに。
 まだ講師を始めて一年も経ってないが、真面目だからね。
 生徒も大切に思えているのだろう。
 そうでもないとわざわざ相談してこないだろうし。
 本心としては面倒でしかないが。
 さっきの話は別にして。
 ノアの力になる事自体は吝かでもない。

 うーん。

「さっきの話、受けてやってもいい」
「え、本当ですか!? ……でも先輩のこと脅したい訳じゃ」
「そんなの分かってるって」
「なら、どうして……」
「まぁ、困ってる後輩のためだ」
「……先輩!! ありがとうございます」

 焦ったり、感動したり。
 忙しいやつだ。

「その代わり報酬はしっかり貰うからな?」
「もちろんです」
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