ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十章

生徒 15

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 メスガキが崩れた壁に近寄り。
 恐る恐る、撫でる。
 確認するかの様に、何度も何度も繰り返し。
 自分でも信じられないのだろう。
 それぐらい激変したからな。

 いい笑顔。
 かなり満足そうだ。
 良かったな。

「あ、ありがとうございました!」
「いや、別に。俺は軽く教えただけだしな」
「ロルフ先生……」

 なんか、自分で口に出しておいてあれだが。
 有能教師みたいだな。
 本当に軽く教えただけなのに。
 1日だけ。
 しかも、そのうちの数時間。
 塾講師や家庭教師レベルですらない。

 水泳とかの。
 夏休みにプールとかでやってる教室。
 感覚的には、あれと同じぐらいだろうか。
 ただの体験って感じ。
 そんな感謝されても困る。
 にしては効果出過ぎの気もするが。
 チート様様だな。

 それに、だ。
 感謝されて悪い気はしない。

「終わったし、帰るか」
「はい!」

 元気だな。
 テンションもやけに高いし。
 ほんと、内心が表に出るタイプだ。
 大丈夫なんかね?
 いや、元気なのはいいと思うけど。
 貴族だろ?
 こんなんでやってけるのか。
 腹芸とか。
 全部顔に出そうな気がする。

 まぁ、男尊女卑激しめな世界だし。
 そういう意味じゃ……
 でも、これこそ女の出番みたいな所もあるしな。
 少々心配だ。
 別に俺には関係ない話なのだけど。
 多少なりとも関わりが出来てしまったのだ。
 せっかく魔法教えたし。
 あまり早死にしてほしくはない。

 と言っても、メスガキ今はまだ学生だしな。
 年齢で言えば小学校高学年ぐらい。
 そう思えば。
 どうとでも変化するか。
 政治家だって、これぐらいの歳のころは普通の子供とそんな……
 あぁ、中学受験があるっけ。
 ま、みんながみんなそうでもないし。
 大丈夫でしょ、多分。

「えっと、こうでしたっけ?」
「??」

 何が?

 魔力を少しづつ出しながら。
 壁をぺたぺた触って歩き回っている。
 何をしてるのだろうか。
 このメスガキ。
 悩みが吹き飛んだ喜びで脳まで吹き飛ばしてしまったのか?
 これは悪いことをした。

 ……あ、そういえば。
 思い出した。
 そんなことしたな。
 ここの部屋に転移して来る前に。
 外で似たような事をやらせた覚えがある。
 あれは完全に無駄な行為なんだが。
 だから忘れていた。
 この様子だと気づいてなさそうだな。
 よしよし。

「まぁ、魔法とは別のコツがいるからね」
「そうなんですね」
「今日は壁を取り除いただけ、そこからは努力あるのみ」
「はい」
「頑張って」

 やり方が適当すぎる気がするけど。
 疑われてもないしね。
 誤魔化しはこんなもんでいいでしょ。

 もうここに来ることもないし、今この場さえ凌げればそれで。
 何も問題はない。
 上で何しても、ここには繋がらないからね。
 こんなんでいいのだ。
 仮に魔力の安定した出力が可能になった所で、そんな仕掛けはない。

 彼女にも分かる様に、魔力を放出。
 その裏でこっそり転移魔法を準備する。
 気がとられたところで発動。
 部屋から出た。

 景色が切り替わる。
 眩しい。
 一応室内も魔法で照らしてはいたが。
 やはり日の光には敵わないな。
 それに、ひらけた空間も。
 あそこも窮屈ってほどではないのだが。
 外の方が気分がいい。

 日も傾き掛け、しっかり夕方だ。
 なんだかんだ言いながら。
 教えるのに結構時間使ったらしい。

 このまま解散、と行きたいところだが。
 流石にね。
 ここで彼女を放置はまずいか。
 庶民街だし。
 貴族のお嬢さんを放流する場所としてはよろしくない。

 仕方なく、学園に戻る。

「あ、ノア先生!」
「エリス?」

 タイミングが良かった。
 ちょうどノアが出てきた所だ。

「どうだった?」
「ロルフ先生のおかげで解決しました!」
「それは良かった」
「本当にロルフ先生すごくって」
「ね? 言った通りだったでしょ」
「はい!!」

 自分のことを他人が話してる空間というのは。
 どうも落ち着かない。
 あれだな。
 これ、会話の内容は関係ないらしい。
 貶されても褒められても。
 気恥ずかしいものは気恥ずかしいのだ。

「トーナメント期待しておいてくださいね」
「うん、頑張ってね」
「それで……」
「?」
「もし優勝したら一つお願いしてもいいですか?」
「お願い?」
「はい」
「どんなお願いなのかな?」
「それは秘密です」
「そっか、」
「ダメですか?」
「エリスが優勝したらね」

 自慢気だ。
 微笑ましいな。

 にしても、安請け合いしても良かったのだろうか?
 それ告白とかなんじゃ。
 まぁ、ノアは好意にすら気づいてなさそうだし。
 しゃーないか。
 玉砕するだろうけど、それもいい経験だ。

「先輩、今日はありがとうございました」
「別に大した手間じゃなかったしな」
「そんなこと言って。もしかして照れ隠しですか?」

 そういうと、笑われてしまった。
 何故?
 照れ隠しなつもりはないのだが。

「ほら、こっち向いてください」
「ん?」

 ノアと目が合った。
 てか近い。

「エリスのこと本当にありがとうございます」
「いいって」
「僕の教え方が未熟なせいで……」
「そんな事ないよ」
「先輩にはずっと助けてもらってばかりです」

 顔を曇らせる必要は無いんだけどな。
 俺はチートありきだし。
 とは言っても。
 慰めても、意味はないのだろう。
 明かせばいいだけなのだが。
 どこか、躊躇してしまう自分がいるのだ。

 ちょっとした沈黙、それを嫌う様に抱きつかれた。
 おいおい、こんな所で。
 って、そんなの気にするやつじゃなかった。
 ここで振り払うのもなんだ。
 慰めることすらできないのだから、せめてこれぐらい。
 背中に手を回す。
 そしたらキスまで求めて来て。
 調子乗ってるのでは?
 別にいいんだけどね。
 まったく、相変わらず大胆なやつだ。

 メスガキ、心理的な物が原因だったっぽいからな。
 普通は解決まで時間がかかる問題だ。
 それを俺はズルしただけ。
 チート能力で。
 問題の根本は解決してないし、再発する可能性も余裕である。
 と言うか、まだ治ってはいない。
 杖という強制具を貸して、治療している段階だ。
 ここから先はノアの仕事である。
 いや、講師がそこまで関わる必要があるかは疑問だけど。
 やりたいっぽいし。
 否定されるような事でもないだろう。

 ……あ。
 ふと、メスガキが視界に入った。
 絶望したかのような表情。

 知らね。
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