ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十一章

学祭 13

 想像以上に大事で、死体を目の前に色々と考え込んでしまった。
 まぁ、うだうだ思考していても仕方がない。
 答えなんて出っこないのだ。
 嫌な予感はするが。
 こいつ以外放置する方向性で行くって事で、結論が出た。
 今起こってることはいいのだ。
 かなりの被害は出そうだが、解決は兵士に任せた。
 そのための税金である。
 彼らにはしっかり仕事をこなしてもらうとしよう。
 それよりも、だ。
 方法が気になる。
 こんな暴動が発生するに至った経緯も。
 そして、都合よく目の前にその手がかりになりそうなものが転がっているのだ。
 このまま何もせずに帰るなんて手はないだろう。

 あまり積極的に触れたいとは思えないが。
 他に見る場所もないしな。
 魔力の波が人間の物とは明らかにズレていて、魔法の規模もおそらく英雄級に達していた。
 それが複数人。
 はっきり異常と言い切れるレベルだ。
 てっきり何らかの特殊な道具でも使用してるのかと思っていたのだけど。
 少なくとも、ぱっと見それっぽい魔道具は無い。
 仮に小型化されてるのだとしたらそれだけでかなりの技術力であり、量産まで可能となると異次元。
 こんなの気にならない訳がない。
 しゃーなし。
 このまま何もわからず帰るのも気持ちが悪いしね。
 ちょっとは解消したい所。
 真っ二つに切断した死体に手を伸ばす。

 ローブに触れると血がべっとりと手に付着する。
 生暖かく気持ちが悪い。
 が、遺体を調べるのには邪魔でしかない。
 適当にそれを剥がす。
 こんだけ血を吸っているから当然ではあるが、ずっしりとした重みを感じ。
 それがまた不快感をプラスする。

 顔が分かる人間だったりは、しないか……
 まぁ、地元の英雄やってたノアのことすら把握していなかったのだ。
 仮にこれが王族だったとして。
 おそらく、俺には判断がつかないだろう。
 前世とは違うのだ。
 写真なんて便利なものはないし、テレビなど以ての外。
 絵画はあるが。
 本物と似てるとは限らないからね。
 有名人の顔を知る機会なんて、直接見る以外だと殆んど存在しない。

 と言いつつ、俺の場合現国王の肖像画すら記憶にないが。
 そこはね。
 単なる興味の問題だろう。
 つまりは俺の責任である。
 ただ、そんな知識が抜け落ちてる俺にも何となく分かることはある。
 こいつの身分だ。
 十中八九庶民。
 貴族とか、ましてや王族なんてことは間違いなく無い。
 服装がもろそっち側なのだ。
 それも貧民側の人間。
 肌着なんかは上質な物を着なれてしまうと戻れないからね。
 俺もそう。
 そこだけは結構な金額を使ってしまっている。

 こう組織立ったテロ行為な以上。
 偽装の線もあり得るけど。
 そもそも大規模な魔法を使った時点で、だ。
 貴族の可能性。
 これが捜査線上に上がらない訳がない。
 無意味とまでは言わないが。
 意味が薄い。
 だからあまり考えなくても良い気がする。

 ただ、そうなるとますます疑問ではある。
 これほどの力を持っていながら、貧しい生活をあえて選択するだろうか?
 働きたくないとか、縛られたくないとか。
 それぐらいなら理解出来る。
 実際俺もそんな感じだし。
 でも、なんだかんだ最低限の生活水準ってものがあるはずだ。
 豪華な暮らしはいらないが快適な暮らしは欲しい。
 それが人間って物だと思うのだけど。

 ふと、光る物が見えた。
 血で出来た水溜りの中だ。
 そっとつまむ。
 ガラス片?
 いや、違うな。
 これ……
 魔力結晶ってやつか?

 なんでこんな所にそんな希少な品が。
 わかりやすく言えば、この世界の魔石の様な物だ。
 魔力の塊。
 それが結晶化した物。
 こう言うとかっこよく聞こえるかもしれないけど。
 原理としては尿路結石とかその類。
 魔力が回路の中で詰まり、それが長い年月を掛け成長した物質である。
 ただ、貶しつつもそう簡単に取れる物でもない。
 回路自体はそこら辺のゴブリンやそれこそ人間にもある物だが。
 普通結晶化するほどの圧力は掛からない。
 ドラゴンとか。
 そのレベルの魔物でないと生成されない物質ではあるのだ。

 しかも、高圧で圧縮されすぎていて。
 確かに魔力の塊ではあるのだが。
 それを取り出して利用するなんて事は、到底夢物語だったはず。
 しかし、このカケラ。
 すっからかんだ。
 魔力が存在しない。
 魔力結晶なんてその成り立ちからして魔力の塊のはずなのに。
 ありえない。
 魔力が無いってことは、常識的に考えれば消費されたって事だ。
 何に?
 今、カケラが散らばってるこの場所から考えれば。
 さっきの魔法、これを使ったのか?
 それなら魔力の少ない人間でも魔法を使用できる。
 例えば庶民でも。
 この辺りに散らばるってるカケラが元は一塊だったとすれば……
 あの規模の魔法を発動するに足る魔力にはなるのか。
 庶民にも不可能ではない。

 しかし、魔力はあってもその制御も抽出も庶民には不可能。
 似たような事象が複数起こってるのを見るに。
 誰かがこれを完全に技術として確立したと見るべきか。
 天才の所業だ。
 ただし、一発目が不発したのを考えると未だ不完全の可能性も高い。
 今回の一件は本命ではない。
 ここまで大規模にやっておいて、その線もあるな。
 普通はそんなことしない。
 人材の浪費でしかない。
 でも、もしこの予想が当たっているなら。
 全て代えが効く存在なのだ。
 その前提が覆る。
 作戦に使う人間は誰でもよく。
 確かに魔力結晶は希少ではあるが、宝石としての利用がほぼ。
 内在する魔力量に比べれば格安で手に入る。
 こいつは死んだわけだが。
 同時多発的に起こってるのを見るに、彼が主犯と言う訳でもなさそう。
 黒幕がいる。
 全く、勘弁してほしいな。

 でも、力ある魔術師が何人も結託してってよりは納得か。
 1人の暴走の方が。
 その1人がとんでもない天才っていう、飛躍した前提ありきではあるけど。
 多少予想の確度は上がった気がする。

 それに、服を剥ぎ取る際に目に入ったのだが。
 男の首元。
 銀貨のネックレスがあった。
 これ前の盗賊も持ってたやつだよな。
 ……
 まぁ、これ自体はお守りみたいな物でどこの誰が持っていてもおかしくはない。
 この一点で関係を邪推するのはどうかと思う。
 けど、どうしても考えてしまう。
 それに、溜め込まれていた武器の事もある。
 てっきり近くの街。
 それこそウーヌか港町でも襲うために溜め込んでいたのかと思っていたが。
 まさか?
 いや、なんの証拠もない妄想である。
 根拠になりそうなものも、このどこにでもあるお守り一つだし。
 でも、関係性を疑うのも無理くりってことはない。
 たかが盗賊が討伐される事なくあそこまで規模を拡大したことが異常だったのだ。
 後ろで糸を引いてる奴がいるって言われても違和感はない。
 むしろその方が納得できる。
 あくまで断定する材料にならないってだけ。

 盗賊と庶民が共謀して王国を、ね。
 もはやテロではないな。
 革命か。
 歴史を見れば王政なんてのは滅びに向かうシステムではある。
 この世界でもそれは変わらないと。
 俺はどっちでも良いのだが、あまり内乱はやめて欲しいかな。
 何故って?
 良い酒と食い物が手に入らなくなる。
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