ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十三章

清算 5

 俺が逃げるとか、最早関係なかったな。
 ほら、罪被ることにしたは良いが。
 どうせその責任隊長が追及されるんだろうなって思ってたんだけど。
 その前に死んじゃったし。
 責任の所在なんて概念は消失したらしい。

 んな事はどうでもいいのだ。
 それより。
 何か、嫌な予感が……

 冷静に考えて、女教師が助けに来たって時点で予想外ではあった。
 部屋の中から漏れ出る声を聞いて納得は出来たが。
 そもそも、だ。
 彼女が助けに来るのは良いとして、ノアが来ないのはおかしくないか?
 助けに来いとか。
 そういう上から目線の話ではなく。
 確かに、俺を助けるにおいて適任が他にいた。
 その事実はあった。
 それはそれとして、人任せにするかね。
 頼りはするだろうが、任せっぱなしってのは解釈違いである。

 衛兵に取り囲まれた時。
 あの時点で切り掛かりそうだったのだ。
 それを嫌って。
 俺は素直に連行されたまである。
 そんなノアが。
 来ないなんて事あり得ます?

 どことなく見覚えのある魔力を感じ取った。
 普通は魔力での区別なんてつかない。
 それは一般人の感覚はそこまで敏感でないってのもそうだが。
 魔眼で。
 魔力を視界として捉えられる俺もそうだ。
 種族ですら大雑把の判断しか付かず。
 個体での認識なんて不可能に近い。
 それは、差異が認識感知出来ずに区別不能なのではなく。
 記憶できないから。
 感覚で言えば化学式を読めないとかに近い。
 
 しかし、何事にも例外はある。
 肌まで重ねたのだ。
 そんな相手、早々忘れる訳が無い!

 これ、ノアの魔力だよな?
 間違いない。
 お前は冒険者だろ、いつの間に兵士に転職したんだ。
 ……ってのは冗談だが。

 流石にね、そこまで空気の読めない男ではない。
 十中八九俺の為だろうな。
 変装のつもりなのか。
 フルフェイスの鎧着てるから一見では分からなかったけど。
 短期間ではあるが、どれだけ一緒にいたか。
 魔眼を使わずとも漏れ出る魔力の波でなんとなくね。
 使えば間違えるはずも無い。

 個人じゃ助けに来るにも時間かかるだろうなと思ってたが。
 まさかこんな手で来るとは。
 まぁ、女教師が兵士相手にここまで強権振るえるなら。
 紛れての参戦も不可能ではないか。

 どうも、初めからあらごとすら想定してたっぽいしな。
 強い人を連れて来ようと思えばより面倒ごとが増えるのは必至。
 なら手早く動かせる下っ端を集めて。
 戦力はAランク冒険者にお願いってのが効率的か。
 Win-Winってやつだな。
 まぁ、ノアの場合だと無理やりついて来た可能性もあるけど。

 さっきまでは大人しくしてたのに。
 突然切り飛ばすとは……
 いや、そうも言ってられない状況ではあるか。
 俺の死体。
 ここで大人しくしてるなら。
 そもそも着いてくる意味がない。

 ノアの表情は見えない。
 後ろ姿だし。
 そもそも、フルフェイスの兜なんて被ってるし。
 でも、感情ぐらい予想がつく。
 そして、隠すつもりも無いのだろう。
 怒気がビンビンに伝わってくる。

 しかし、良いのかこれ?
 いや、隊長の首が飛んだことに関しては別になんとも思わないんだが。
 飛ばした方。
 ノア、これ学園の講師クビになるんじゃ……
 仮にも衛兵の一部隊の隊長だし。
 そもそもそれを嫌って。
 あの時、俺は大人しく連行された訳なんだけど。

 いや、一応の正当性はあるのか?
 無理やりかもしれないけど。
 書類はあるのだ。
 ここに居るのも格好から見て兵士として。
 なら。
 正式な許可の元調査しようとしたら抵抗されたので殺した。
 そう言い訳出来なくもない。
 これなら、問題はない様な気がする。
 目撃者もいるが。
 2人以外兜の中身は知らないだろうし。
 最悪。
 処分したと言い張ってもオッケー。

 って、他人の心配をしてる場合じゃないか。
 ノアが止まる気配がない。
 そりゃそうだよね。
 1人殺しちゃったんだから、ここで止まったところで今更だ。
 そして。
 次に向かってくるのは当然俺の方。
 隊長の首を切り飛ばした剣がそのままこちらに。

 え、これどうしよう。
 このまま戦う感じ?

 拷問官が強いのって違和感あるよな。
 そりゃ多少は戦えるだろうけど。
 相手はAランク冒険者。
 普通適う相手じゃない。
 とは言え、流石に首を飛ばされたくはない。

 まぁ、仮に当たったとして。
 大丈夫だとは思うが。
 俺の体って無駄に頑丈だし。

 ただ、鬼気迫るものを感じる。
 無抵抗で受けてやられたふりはちょっと。
 それに。
 流石に騙せないよなぁ。

 ノアは色々と抜けてるとこあるけど、戦闘に関してはプロだ。
 プロ相手に負けたふり。
 殺す気だろうし、死んだふりか。
 チートのおかげで戦闘力に自信はあるが。
 技術は皆無である。
 しゃーなしか。
 多少の違和感は受け入れるとしよう。

 剣の軌道を避ける。
 一応、申し訳程度に運よく避けれました見たいな演技付き。
 ま、十中八九無意味だわな。
 反応を見ただけで分かる。
 只者ではない。
 そう言わんばかりの視線を感じる。
 フルフェイスで表情は見えないが。
 ビンビンだ。
 実際、追撃がこないし。
 これで引いてくれたら楽なんだけど、その様子もなさそう。
 剣を向けられたまま。
 一定の距離を保っての膠着状態。

 他の衛兵やら兵士は何をしてるんだか。
 動けないらしい。
 どっちにもつかず、ただ今の一瞬の事を眺めていただけ。
 失格では?
 いや、英雄級相手じゃ仕方ないかもしれないけど。

 とりあえず本部の兵士はいい。
 仲間が突然暴走してる様な形だし。
 判断に困るのは分かる。
 下手に加勢されても俺が困るし。

 ……でも、衛兵共よ。
 お前らは隊長が殺されてもう1人襲われてるんだからさ。
 ちょっとは助太刀してくれても良くね?

 ま、正味これは大した事じゃない。
 それよりも、だ。
 問題がある。
 何って、出口が見つからないところだ。
 え?
 俺はこっからどうすれば……

 ここでノアを倒しておさらばが違う事ぐらいは流石に分かる。
 いや、拷問官の余罪が増えるのは別に構わないのだが。
 そう言う話ではなく。
 そもそも俺が死んでるのは親しい人間にバレる予定は無かったのだ。
 この詰所と、他は書類だけ騙して。
 解決した後はそれが誤報でしたって流れにするつもりだったのに。
 それが早々に破綻。
 解決策を思いつかないまま。
 今の現状になっている訳で。
 この誤解は早々に解いた方が良い気はする。
 方法は簡単。
 なんたって俺自身が証拠なわけで、その証明は一瞬で出来る。

 かと言って、だ。
 俺にここでマスク取る勇気なんてないぞ?

 目撃者に関しては、この際全滅させれば良いとして。
 元は最終手段だった訳だが。
 どこまで情報が伝わってたかも不明だったからね。
 容疑が増える気しかしなかった。
 この詰所だけじゃなく王都全域やるのは流石に違うかなって。
 でも、今なら。
 無理やり書類書かせたであろう女教師もいるし。
 もみ消しはしてくれるのかもしれない。

 ちょうど王都中で暴動起こってることだし。
 2人だけバリアでも貼って、この詰所ごと吹き飛ばして仕舞えば。
 完全犯罪。
 容疑はテロリストが勝手に持っていってくれるだろう。

 そっちの心配はもうしていない。
 それよりもだ。
 見てみろ。
 俺に偽装した拷問官の死体の横で膝ついてる女教師と。
 警戒心マックスで俺に剣向けてるAランク冒険者。

 助けに来てくれたのは素直に嬉しい。
 でも、ここでマスク取って正体明かしたとして……
 2人に怒られる気しかしないんだが!?
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