ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十三章

清算 6

 ふと、座り込んでいた女教師がゆるりと立ち上がった。

 ノアの事を収めてくれるのかと思ったが。
 魔力の揺らぎを感じる。
 どうも、そういう訳ではなさそうだ。
 明か臨戦体制。
 収めるどころか、むしろ加勢しようって事らしい。

 一瞬で火球が生成され、射出される。
 教師。
 しかも、学園のだもんな。
 そりゃ魔法ぐらい使えるか。
 ってか卒業生だし。
 擬きではない。
 本物の魔術師を相手にするのは久々だ。

 不意打ちとはいえ、魔力には気付いてたからね。
 流石にこれに当たったりはしない。
 火球が背後の壁に衝突。
 ミスリルほどではないだろうが。
 仮にも拷問部屋。
 それなり以上に頑丈な作りになってるはずなのだけど。
 壁がどろりと溶けだし赤く光っている。

 当然だが、メスガキとは比べ物にならない威力だ。
 と、そこにすかさずノアからの追撃。

 別に普段から連携取ってる訳でもないだろうに……
 なかなかどうして。
 良いコンビネーションじゃないか。

 同僚だからかね?

 いや、戦闘職についてる訳でもないのだ。
 関係ないとは思うけど。
 ノアが魔法の発動に合わせた形。
 どっちらかと言うと、冒険者としての経験値だろうか。
 即席パーティーも珍しくはないし。
 だからだろう。
 流石はAランク冒険者ってところかな。

 この連携、どっちも避け続けるのは無理だな。
 屋外ならともかく。
 ここは詰所、しかも地下。
 空間が限られる。
 まぁ、どうしても避けたければ転移とかいくらでも手段はあるのだが。
 それはちょっと。
 あまり人前で使いたくはない。

 ……仕方なく剣を受け止める。
 石壁を溶かすとこを見てたからね、魔法を受けるのは無しだ。
 とは言え、変装中。
 武器なんて持ってない。
 普段なら持ち歩いてるんだけど、ほら今は拷問官仕様だからね。
 拷問道具ならあるが。
 用途的に、耐えきれず折れるのが目に見えている。
 そんなんなら無い方がマシ。

 こんな所でアイテムボックス開いて武器取り出す訳にもいかず。
 使えるのは自分の手のみ。
 一応手袋ぐらいはしてるけど、拷問で手が汚れない様にって代物なのだろう。
 大した装備ではなく、ほぼ素手みたいな物だ。

 いくらチートがあるとはいえちょっと怖い。
 が、流石はチート様。
 布のみを切り裂きノアの剣が止まる。

 手で受け止められるとは思っていなかったのだろう。
 驚いたのか一瞬動きまで止まってしまった。
 良くないねぇ。
 確かに予想外ではあるだろうけど。
 敵の前でそんな隙見せてたら、簡単に殺されちゃうよ?
 もちろんそんなつもりはないが。
 そのまま、腹を蹴って強制的に距離を取る。

 そこに女教師の魔法が……
 本当、ただの同僚ってのを疑いたくなるぐらい完璧だな。
 実は普段からパーティー組んでたりしません?

 これは受けたくない。
 剣と違って余波が大きいし。
 マスクに傷がつく、その事態は避けたいのだ。
 もうどうしようもない気もするが。
 ここで顔バレはちょっと。

 魔力をぶつける。
 学園でやったのと同じ方法。
 圧倒的物量。
 それで魔法を押し流す。

 別に相手を殺したい訳じゃないからね。
 これが最適。

 と思ったんだけど、ちょっと力加減を間違えたらしい。
 コンビネーションが良かったから。
 その弊害。
 手加減する暇があまりなかった。
 女教師と、ついでに死体が部屋の壁に吹き飛ぶ。
 この方法にしといてよかった。
 普通に魔法撃ってたら勢い余って殺しちゃってたかも。

 だらりと壁にもたれる死体。
 2人の顔が曇る。
 ……いや、わざとではないからね?

「これ、闘技場の……」

 女教師が何かに気づいた様子。

 あの時学園に居たんだもんな。
 そりゃそうか。
 規模こそ違えど、やってる事は同じ。
 バレてもおかしくない。

「あなたのせいで!」

 ただ、黒幕だと思われたらしい。

 魔力が派手に活性化する。
 後先とかあまり考えてなさそうな。
 効率悪いだろうに。
 なんとしてでも殺そうという殺意を感じる。
 あーあ。
 本当にこれどうしようかな。

 彼女視点での現状の俺って……
 闘技場で騒ぎを起こし。
 元同級生に罪なすりつけ、冤罪で逮捕。
 そして拷問の上殺害したと。

 言葉にしてみると酷いな。
 この反応も納得の外道っぷりである。

「……っ、フィオナ先生。ストップ!!」

 暴発覚悟の大規模魔法でも使われそうだった所。
 突然、ノアが叫んだ。
 ん?
 何かあったのだろうか。
 止めてくれるのは嬉しいんだけど。
 ノアが女教師を止める理由なんて何も無い気が。

 視線は、女教師を見てる訳じゃない?
 その横。
 どうも死体を見つめている様子。

「この死体って、本当に先輩なんでしょうか?」

 そして、言葉を漏らした。 
 バレた!?
 結構自信作だったんだけど。

 でも、確信はなさそう。
 現実逃避?
 実際は死んでないと思い込みたいとか、そういうの。
 にしては遅いような。
 それに。
 まだ戦闘中である。
 急に冷静になるタイミングでもない。

 ノアの視線……
 正確には死体ではなく、死体の胴体部分を見ていて。

 あぁ、俺が魔力で吹き飛ばしたからか。
 体つきは結構違うもんな。
 服は着せといたのでその上からじゃ分からなかっただろうが。
 俺の服はなんせ安物だし。
 大した威力じゃなかったとしても。
 さっきの衝撃で、簡単に破れてしまったらしい。

 それで疑われてると。
 え、どうしよう。
 これバレるのはどうなんだ?

 死んだと思われっぱなしは困る。
 でも、ここでバレるのも。
 それはそれで。
 ……あ、良いこと思い付いた。

 魔法の刃を生成する。

 と言っても、2人に傷を与えるつもりはない。
 だから少々面倒なのだが。
 ほら、普通に魔法撃ったら俺の死体を庇いそうだし?

 ノアはともかく。
 女教師はまだ混乱してるっぽいからね。
 死体ぐらい囮にしてとか。
 どうもそんな雰囲気ではなさそう。

 そのための見えない斬撃。
 闘技場の地下でテロリスト殺すのに使った魔法だ。
 これに、偽装を掛け。
 さらに転移魔法で死体まで直接飛ばす。
 座標の記録はないが。
 視界の範囲内だ。
 そうそう誤差を起こす距離じゃない。

 その刃はあっさりと服を切り裂く。
 当然だが、俺の魔法がそれだけで止まる筈もなく。
 胴体と。
 ついでに後ろの壁も逝った。

 その惨状に、女教師は咄嗟に視線を逸らし。
 ノアは凝視するように視線を固定。

「よく気付いたな、それは偽物だ。本物は拠点にて預からせて貰っている」

 こんな感じ、かな?
 これでOK。
 全部解決した後。
 用済みだと解放すればいい感じになる、はず。

 なんか段々と適当になってきた気もするが。
 元々思いつきでしかないし。
 俺が咄嗟に考えつく作戦なんてこんな物だ。

「え、何を言って……」
「フィオナ先生。あいつの言ってる事、多分本当の話です」
「え?」
「顔は先輩そっくりですが、体つきが違います」
「本当に?」
「……はい。先輩は生きてます」

 俺の自爆な面もありつつも、今回の事件の結構な巻き込まれ具合。
 多少、意図的なものを感じなくもない。

 いや、暴動の首謀者に俺がターゲットにされているとかではなく。
 もっと別の方向。
 つまり、神様が俺にこの事件を解決しろと言ってるんじゃないかなって。
 何かお告げ的な声が聞こえた訳じゃないんだけど。
 チートに意味があるならとか、そんな妄想。

 魔力結晶から魔力を取り出すとか相手もチートみたいな物だし。
 どうにかした方が良さげ。
 でも、自分でやるのは面倒。
 そこでだ。
 こう言ったら上手いこと勝手に解決してくれないかなって。
 俺は向こうに忍び込んで囚われのお姫様やってればそれで万事解決。

 色々迷走したが。
 その手間を省けたと思えば、結果オーライってことで。
 よろしく。

「で、何でこんな事をしたんですか? 先輩」

 へ??
 フルフェイス越しにノアの瞳が見えた。

 視線の先は……
 あぁ。
 なるほど、ね。

 連携に対応しようと派手に動いたせいだろうか。
 拷問官の服とか丈夫そうだけど。
 アレは、血だらけにした上で派手に破れちゃったからね。
 似た服を着てるだけ。
 安物なのだ。
 結果、エロゲのダメージ演出みたいな格好に。

 体つきを見て、死体の偽装に気づいたんだもんな。
 こっちでも気づくか。

 ……マズい。
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