ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十四章

始末 4

「……先輩?」

 ふと、横から声が聞こえた。
 まだ寝ぼけているのか、それとも別の理由か。
 少し掠れているが。
 流石に目で見て確認するまでもない。
 ノアの物だろう。
 俺が隣でもぞもぞしてたせいだろうか。
 起こしてしまったらしい。

 あ、もぞもぞしてたと言っても。
 断じて変なことをしていた訳ではない。
 本当よ?
 神に誓ってもいい。
 まぁ、疑われる様な人間なのは自覚しているが。
 散々搾り取られたのだ。
 もうそんな元気は残っていない。

 そんなどうでもいい言い訳は置いておくとして。
 現在進行形で、大ピンチ。
 身の危険が迫ってるとすら言える。
 淫魔が目覚めたのだ。
 死闘のすえ倒したはずのラスボス。
 それが復活した的な?
 これ以上いかれたら、本当に死ぬ気がする。

 女教師にターゲットにされてたの。
 あれ、ワカラセだ何だと言ってほっといたのもあるし。
 それでやり返されたりとか……
 勘弁してくれ。
 適当ほざいてたのは冗談で。
 冤罪も、半分は自業自得だって分かってますから。
 ……これも全て。
 そう!
 全て、暴動起こした奴らのせい。
 奴らが馬鹿な事しなきゃ、俺が捕まることもなかった。
 ひいてはノア達にお預けさせることもなく。
 予定通り3人で普通にして終わっていたはずなのだ。
 普通?
 いや、普通である。
 まぁ、その場合もノアの貞操に関して怪しい所あるが。
 それはそれ。
 全て奴らが悪いって事で、押し付けてしまえ。

 なんて適当な理論武装。
 頭の中で、全ての責任を他人押し付けつつ。
 藪蛇をするつもりもないので。
 声には出せずに。
 要はいつもの現実逃避である。

 一応、警戒しつつノアの様子を伺うも。
 だらんとしている。
 どうやら、向こうも結構ヘトヘトらしい。

「もう無理ですよ~」

 俺の視線に何を勘違いしたのか。
 そんな否定の言葉を吐く。
 マジでか。
 まさか、ノアからそんな言葉が出ようとは……

 当然、勘違い。
 そんなつもりではなかったのだけど。
 良かった。
 俺だけならどうなっていたか。
 これは女教師に感謝だな。

 2人いたせいで死にそうにもなった訳だが。
 2人いたおかげで助かった。
 いくら淫魔の様だと言っても。
 相手も同様である。
 そうなればギリギリだったのだろう。
 セーフ。
 すんでのところで、新たな死亡フラグを回避した。

 半分寝ぼけつつ、うとうとしているノアのことを眺める。
 行為の後、そのまま寝ちゃったからね。
 生まれたままの姿。
 安全だとわかってみると、なかなかの絶景である。
 それに、横には女教師も同様に一糸纏わぬ姿で。
 普段1人で使ってるベッドに3人で川の字になって寝ている状態。
 Aランク冒険者と学園の教師……
 それを侍らせてる俺。
 この景色だけで何杯でも酒が飲めるな。

 ま、今飲む勇気はないけどね。
 さっき飲んでたと勘違いされたのがきっかけで。
 お仕置きと称したこれが始まった訳だし。
 変に刺激するつもりはない。

 でも、機嫌は多少治ってそうな感じもする。
 チャンスか?

「あのー、これ。解いてもらってもいい?」
「へ?」
「いや、ちょっと喉が渇いちゃってさ」

 俺がそう言うと、少し薄ぼんやりとした視線と目が合った。
 そのまま俺の体をなぞるように移動し。
 枕がわりにしてる腕で眠気まなこを擦りつつ、反対側へ。

 現在、俺はベッド上から身動きが取れないわけだが。
 それは腕枕にされ。
 2人を起こしたくないってのは勿論。
 それとは別に。
 ベッドの支柱、そこに腕が縛り付けられたままなのだ。

「……あっ、そういえば」

 しばらく見つめたのち、一拍置いて理解してくれたらしい。
 寝起きで頭があまり働いてないのだろう。
 あるあるだ。
 これで、やっと解放される。
 助かった。
 ずっと身動き取れなくて、地味に辛かったのだ。
 自分で解けるだろって?
 それもそうなのだが、余計な事すると碌な目に遭わないし。

 にしても、そう言えばって。
 酷くね?
 人の事ベッドに縛り付けておいて。
 どやら忘れてたらしい。

「……ごめんなさい」
「いや、別に怒ってはないけど」
「そうじゃなくて」
「ん?」
「冷静に考えて、縛られたままお酒飲むのって無理だよね」

 ノアに謝られた。
 一瞬、縛ったまま寝落ちしちゃった事かと思い。
 別に怒ってないと返したのだが……
 むしろ、途中で落ちてくれない方が危なかった。
 違ったらしい。

 どうも、今のやり取りのおかげで。
 誤解が解けた様子。
 まぁ、あの時は元々怒らせちゃってた部分もあったし。
 そのせいもあるのだろう。
 時間が経って。
 改めて考えて気づいてくれた様だ。

「でも、あの酒瓶はどうして」
「通りがかったクソガキに投げつけられて」
「……へぇ」

 疑惑の視線。

 謝られたのとは別に、俺への信頼はないらしい。
 まぁ、今回の件はともかく。
 冤罪食らったのだって、色々と積み重ねあったからだしね。
 自業自得だという認識はある。

「別に無理に信じてくれなくても……」
「いえ、信じます」
「なんで急に」
「先輩の嘘、何だか分かるようになってきたので」
「え!?」
「今のは嘘をついてない目です」

 真っ直ぐな瞳でそう言われてしまった。
 どうもマジらしい。
 まぁ、ちょくちょく思考ばれてそうな所はあったけど。
 改めて言われると。
 嬉しいような、ちょっと怖いような。
 いや、嘘つく予定はないんだけどね。
 自分が信用ならん。
 咄嗟に適当言って誤魔化す癖。
 少なくとも、ノアの前では改めた方が良さそうだ。

「さっきは、言い訳も聞かず疑ってしまいました」

 無理もない。
 詰所で諸々あってからの。
 戻ってきたら俺の横に酒瓶転がってた訳だからね。
 理解は出来る。

「よいしょっと」

 ノアがベッドから降りる。
 もう起きるのか。
 早くね?
 まだ日も登ってないし。
 疲れてもいるっぽいけど。

 ……

「ちょいと、どこ行くおつもりで?」
「それ聞きます?」
「いや、トイレじゃないでしょ」
「よく分かりましたね」
「まぁな」
「少し、野暮用が出来たので……」

 ふーん、野暮用ねぇ。
 嫌な予感はするが。
 まぁ、別に干渉する必要も。

 ふと、ノアの表情を見る。
 見覚えのある笑みを浮かべていた。

「ノア、ストップ!」
「何ですか?」
「ただでさえ暴れたんだから、しばらくは大人しく」

 バレちゃいましたかと言わんばかりの表情。
 いや、可愛いんだけど。
 ちょっと怖い。
 あくまで想像だけどね。
 どうも、クソガキの命が危ない気がしたのだ。

 まぁ、クソガキなんか庇う義理もないのだが。
 酒瓶投げただけ。
 流石に殺されるのは可哀想だろ。
 それに。
 気分的に、んな事されても嬉しくないしね。

「ノアも大概分かりやすいよな」
「って事は、お揃いですね」
「……は?」
「あれ先輩。もしかして照れてます?」
「いや、別に照れてはねぇよ」
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