ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十五章

平常 2

 馬車が止まり、目的地に到着したのだろう。
 肩を揺すられ目が覚めた。
 元々眠かったのもあり。
 これとは別物と感じていた安馬車ですら寝落ちしていたのだ。
 それほど距離がある訳でも無かったが。
 まぁ、落ちない訳もなく。
 すやすやと、心地よくこの隙間時間を満喫。

 昨日からずっと忙しかったであろう。
 ノアから、俺への何か言いたげな視線は感じつつ。
 眠かったのだ。
 これも仕方ないと内心で自己弁護を図る。

「あ、ロルフくん! おはようございます」

 気怠げな体を動かし、下車。
 すると、フィオナがテンション高めに迎えてくれた。
 詳しい場所は知らないが。
 わざわざ馬車で移動するぐらいだ。
 おそらくは王都の外れ。
 ドラゴン便の用意だけではなく。
 フィオナ本人が、お見送りに来てくれるとは。

 表情を見ると、やはり疲れが見える。
 ノアと同じ。
 昨日からほぼ寝ていないのだろう。

 そりゃ、そうだ。
 学園で講師をやってるノアでそれだけ忙しいのだから。
 学園理事。
 その上で王宮魔術師も兼任して。
 騒動を解決したって部分ではノアもフィオナも同条件。
 少し考えれば分かることだ。
 諸々の処理の量も多くなるだろう。
 ここから更に。
 俺のドラゴン便の用意までお願いしちゃって。
 忙しくもなるのも当然。
 経歴の時点で、仕事の出来る人間だと察してはいたが。
 これ、想像以上だな。

 少し無理させ過ぎてしまっただろうか?
 でも、ドラゴン便云々に関しては向こうが言い出した事だからなぁ。
 既に済んだ事だし。
 ありがたく受け取るのが一番か。
 多分、その方がフィオナとしても気持ちがいいだろう。

「わざわざ、ありがとね」
「いえ。ほんのお礼ですから」

 ドラゴン便に関しても、もう到着済みらしく。
 少し奥。
 開けた場所で休んでる飛竜が目に入った。
 俺が挨拶されてるのを見てか、御者らしき人も頭を下げる。
 フィオナがお偉いさんだからね。
 常識的に考えてそれが安牌。
 まさか、ただの下級冒険者に頭下げてるとは思うまい。
 とは言え相手は客だし。
 身分関係無く露骨に雑な対応する訳にも行かないだろうが。
 にしても、予想外ではあるだろうなぁと。

 どちらも、こんな朝早くからご苦労な事で。
 今日はフル回転の予定なのだろう。
 ここから休みなく一日中稼働。
 稼ぎ時だ。
 ま、嬉しい悲鳴って奴かね。
 飛竜に関しては。
 全然嬉しくもない、ただの悲鳴をあげることになるかもしれないけど。

 おそらく、時間としてもそこまで余裕って事もないだろう。
 ただでさえ無理言ってもらってる訳だし。
 馬車から降りた流れで、そのまま乗り込もうとして。

 あ、そうだ!

 一つ、やり忘れてた物を思い出した。
 乗り込む前に。
 これ、帰る前に渡しとかないと。

 次に王都来るのいつになるか分からないし。
 せめてものお礼。
 ……としてはどうかと思うが。
 まぁ、2人とも喜びそうな性格ではある。

「これ、帰る前に渡しとこうと思って」
「え、ありがとうございます」

 フィオナが素直に喜んでくれてるけど。
 そういう物じゃない。
 渡すの、このタイミングじゃ無かったな。
 と言っても。
 ここ以外選択肢も無かったのだが。

 仮に、昨日渡せるような時間的余裕があったとしても。
 その時渡してたかどうか。
 今日までに一晩ある訳で。
 淫魔のことが頭をよぎり躊躇っていた可能性。

 なら渡すなって話なんだが……
 2人に責められたのも、なんだかんだで楽しかったのは楽しかったのだ。
 ただ、連続じゃ体持たないってだけで。
 故の先延ばし。
 それこそ。
 今度会った時に着て見せてほしい。

「勿論ノアにもね」
「……先輩、そんなマメな性格してたんですね」

 フィオナとは反対に、意外とでも言いたげ。
 失礼な反応である。
 しかし、多分中身的にこっちの方が正しいのがなんとも。

 2人に渡すもの渡したし。
 これで全部かな?

「ロルフ先生!」
「ん?」

 少し遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
 視線をやると、一台の馬車。
 誰かと思ったらそこから顔を出すメスガキが見えた。
 急がせたのか。
 馬車の癖に珍しく激しめな鞭を入れられている。

 可哀想なお馬さん。

「ギリギリ間に合った!」
「何か用事でも?」
「えっと……。ロルフ先生に、ちゃんとお礼言えてなかったと思って」
「お礼?」
「先生のお陰で決勝まで残れたし」
「あ、そうか」
「本当にありがとうございます」

 色々と恩を感じてくれてるらしい。
 この場所は。
 多分、ノアかフィオナ辺りが教えたのだろう。
 ギリギリなのも。
 寝坊。
 ってより、直前まで迷ってたのかもな。

 わざわざお礼言うためにこんな時間に馬車走らせて。
 律儀なやつだ。
 確かに、なんかノアとの関係バレたりそっから俺が捕まったりで。
 ちゃんと話せて無かったもんな。
 教わったからって。
 メスガキ、俺のせいでかなり散々な目に遭ってた気がするが。
 それでも。
 見送りに来てくれるらしい。

 ってか、先生呼びに戻って?
 いつの間にか、間男呼びから元に戻ってるし。
 前の先生呼びも。
 ほぼ、ノアに言われたから変えてただけで。
 今は誰も何も言わないのに。
 それだけ感謝してくれてるってことか。

 結構ひどい状態だったっぽいしな。
 詳しくは知らない。
 そもそも、原因も放置したままなんだけど。
 表情を見るに。
 因果が逆になってしまったが。
 多少、吹っ切れたのかもしれない。

「残り、決勝も頑張れよ」
「はい!」

 混乱した王都で、本当にやるのかは知らないが。
 ノアの言い分からして。
 王国がテロに屈したと見られる訳にも行かないだろうし。
 多少時間かかっても。
 ま、おそらく開催はするのだろう。

 ミスリルの杖を取り上げてしまった状態。
 ここからどこまで伸ばせるか。
 トラウマが消えたとは言っても、現状ではマイナスが減っただけ。
 経験値は少ないのだ。
 ここまでの勝ち上がりも装備で下駄はいた訳だし。
 今のメスガキがどこまで通用するのか。

 まぁ、頑張るしかないか。

 いい表情をしている。
 悪くない。
 仮に負けても、前ほど腐ることもないだろう。
 勝ちたい事情があるらしいが。
 いざとなれば、ノアもフィオナも助けてくれる。
 変に気負う必要は無い。
 俺も。
 頼られればやぶさかでもない。

「ロルフくん、これって……」
「……先輩??」

 てっきり、今のやり取り見て。
 教師らしく感動でもしてくれてるのかと思ったら。
 何やら違いそう。
 フィオナが手に何かを持って、困惑している。
 まだ早朝。
 薄暗いながら、キラリと光るソレ。

 俺とメスガキのやり取りに暇だったのか。
 いつの間にか、フィオナが渡した物を開封していて。
 中身はセクシーなランジェリー。
 困惑。
 当然ノアも横で見て、現状に至ると。

「えっと、」
「ロルフ先生?」

 俺と、ノアとフィオナの目が会い。
 やっちゃったって感じ。
 後から開けられて、呆れられてもいいやぐらいの物だったのだが。
 まさかここで開封されるとは。

 メスガキの反応。
 一瞬、何か分からなかったのかキョトンとしていたが。
 ぱっと見、キラキラしているし。
 ジュエリーとかそっち系に見えなくもない。
 分からない方に掛けるも。
 どうも、そこまで純真無垢では無いらしく。

 視線が痛い。

「この浮気者!!」

 フィオナが持ってたのが不味かった。
 この状況で、視線からしても俺が渡したのは確定。
 これがノアだったら。
 壁一枚挟んで散々やってしまったし。
 呆れられるレベルで済んだかも知れないのだが。
 多少回復していた株。
 今回の件で、盛大に暴落したらしい。

 間男と浮気者ってどっちが上なのだろうか?

 そんなどうでもいい思考が浮かぶ。
 最後の最後にちょっとしたトラブルはありつつも。
 ま、それも俺らしいか。
 逃げるようにドラゴン便に乗り込む。

「じゃあ、また今度」

 全員から、白い目を向けられつつ。
 ふわりと。
 軽い浮遊感を感じる。
 行きと同じ、飛ぶ瞬間ですらほぼ揺れを感じない。
 流石、バカ高いだけあるな。

 下を見ると、ノアとフィオナが手を振ってくれていた。
 呆れられてはいるんだろうが。
 何度目だよって話だしな。
 2人とも、既に慣れっこなのだろう。
 ソレもどうかと思うが。
 そもそも、一夜を共にした仲である。
 この場にふさわしくなかっただけで、物自体に文句はないはずだ

 問題のメスガキは、そっぽを向いていた。
 チラチラと見てはいる様だが、2人のように笑顔で見送る気にはならないと。
 そんな様子。
 まぁ、これは全面的に俺が悪いかもしれない。

 大きく手を振り返す。

 3人が豆粒になり、王都全体を空から見下ろす。
 今回の暴動。
 その傷跡のいくつかも確認出来る。
 外の景色を眺めながら、昨日買い溜めた酒を軽く一杯。
 うん、実に贅沢なひと時だ。
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