ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十五章

平常 3

 ゆったりと座り心地のいい椅子に腰掛け。
 設けられた窓からは、日の出の様が自然と目に入る。
 片手には酒。
 景色を肴にそれを煽り。
 澄んだ空気が、アルコールで熱った体に心地よい。

 ふと思い立ち、腰を上げる。
 このまま日の出の様を眺めているだけで十分。
 満足は出来るだろう。
 ただ、この環境に居て空だけで満たしてしまうのは。
 少し勿体無い気がした。

 流石に、身を乗り出すのは迷惑になるだろう。
 それは自制し。
 窓から地面を見下ろす形。
 今の季節は冬。
 想像通り、見渡す限り一面の銀世界が広がっている。
 しかし……
 それは想像以上の絶景で。
 日が昇り、徐々に明るくなっていく空。
 その光を反射し。
 キラキラとまるで宝石の様に輝いて見えた。

 ドラゴン便に乗っていなければ見れない。
 チート使えばどうとか、そんな御託が気にならない程の景色。
 乗り心地が良いのも勿論だけど。
 この体験も。
 なかなかどうして、素晴らしい物がある。

 優雅な空の旅。
 それを、目一杯満喫した。

 時間はあっという間に過ぎ。
 気がつくと、徐々に高度が下がる。
 目的地に着いたらしい。
 特にトラブルもなく。
 無事、王都から帰ってきた。

 一応、心の中で警戒はしていたのだ。
 何か起こるかもしれないと。
 これはドラゴン便で。
 そんな事、滅多に無いと知ってはいつつも。
 飛竜だからね。
 そこらの魔物が叶う相手ではない。
 ……ただ。
 ほら、王都で色々あったから。
 家に帰るまでが遠足の精神である。

 行きは、ドラゴン便なんて珍しい物が来て。
 人だかりができていたが。
 時間も時間。
 もう空が明るくなったとはいえ、朝早い事に変わりはない。
 外に出ていた人間も少ないのだろう。
 まばら。
 ほぼ、早番の門兵ぐらいしか視線は感じない。

 便から降り、御者に軽くお礼を言う。
 そんな建前だけのやり取りもほどほどに。
 予定が詰まっているのだろう。
 飛竜を休ませる事なく。
 乗り込み、そのまま飛び立って行った。

「ん、ん~~」

 両手を空に伸ばし、体を伸ばす。
 いくら乗り心地がいいとは言っても。
 結構な時間だからね。
 筋が引かれてる感覚が快感。

 改めて、周囲を見渡す。
 雪が積もってこそいるが、見慣れた光景。
 門も、草原も。
 久しぶりにウーヌ街へ帰ってきた。
 そう心で実感する。

 旅先から帰ってきた訳だし。
 このまま自宅にでも帰ってゆっくりしたい所。
 しかし、ここでだらけるのは悪手。
 再起動に時間が掛かるの。
 それは自分自身が一番よく分かっているのだ。
 ここでだらけると仕事をしなくなる。
 多少疲れてても。
 旅先だからって言い訳が効かなく無くなった。
 今、正にこのタイミング。
 ここで再会するのが吉なのだ。

 さて、ギルド行きますか。
 気は進まないけどね。

「あ、おじさん! ……ようやく帰って来たんですね。こんな長期間ギルドに来ないなんて、何処で油を売ってたんですか」

 いつもの受付嬢。
 ギルドに入るとすぐに目が合い。
 そのまま連行された。
 まぁ、元から依頼受けるつもりだったし。
 別にいいんだけど。

 ……あれ?
 今回、俺にしては珍しく事前に報告してた気が。
 受付嬢。
 お前、俺がどこ行ってるか知ってるよね?
 それに。
 もしかしてちょっと機嫌悪い?

「王都行くって言ってなかったっけ?」
「それは聞いてましたけど、こんな長いとは思ってませんでした」
「え、そう?」
「だって、いつもはすぐ戻ってくるじゃないですか」

 あぁ、確かに。
 言われてみればそうかもしれない。

 俺って、大した貯蓄があるわけでも無いからね。
 自転車操業なのだ。
 少し金が貯まれば小旅行へ行き、戻って来ては一労一休の薬草採取。
 大体がこのルーティーン。
 結果。
 度々街から出つつ、そこまで間は開かないのである。

 それが、突然長期間開けたとなれば。
 心配するかもしれない。
 ……コイツが。
 俺の事心配するような人間かは置いて置いて。

「って言うか、あのドラゴンはなんなんです?」
「?」
「ほら、王都行った時の。おじさんが出てった後その話でもちきりでしたよ」
「ノアに奢ってもらった」
「惚気ですか?」
「ちなみに今日もアレ使って帰って来た」
「は? 死ね!」
「おい! 俺は聞かれたから答えたんだからな」

 なんの捻りもない、ストレートな暴言。
 まったく……
 受付嬢らしいと言えばらしいけど。
 少し間空いてしまったが、コイツは変わらないな。

「それで、初めての王都はどうでした?」
「初めてじゃ無いけどな」
「そんな田舎者が変な強がりしなくても良いんですよ」
「誰が田舎者だよ」
「え? もちろんおじさんですけど」

 なんでそんなキョトンとした顔出来るんだか。
 変わらないって言ったが。
 間空いたせいか。
 なんか、より俺への扱いが雑になってる様な気がしなくもない。
 なぜ?
 もしかしてコイツ、俺でストレス発散してたり?
 ……あり得なくはない。
 ちょっと不機嫌だったのそれが原因か。
 サンドバックがなかなか帰ってこないから。

 なんか、王都初めてじゃないって発言も謎の強がり判定くらったし。
 田舎者言うなよ。
 忘れてるかもしれないが、俺もお前もこの街住んでるんだからな。
 俺が田舎者ならお前も同類でる。
 ったく。
 ま、俺が用事あるような場所でもない。
 理解出来なくもないけど。
 実際学園辞めて以降行ってなかったのだから、セカンド歴20年以上。
 これじゃ未経験扱いされても仕方ないか。

「それが、向こうで散々な目に遭って」
「へぇ」
「聞きたい?」
「多分おじさんが悪いだけなんでいいです」

 コイツ……

 自分から聞いといて、それはどうなん?
 心底興味なさそうなんですけど。
 釣れない奴である。
 まぁ、当たってはいるのだが。
 知ってか知らずか、これが逆に腹立たしい。

「今日も草むしりですか?」
「正解。王都で有り金全部使っちゃって」
「おじさんらしいですね」
「そう?」
「そろそろ、貯金したらどうなんです?」
「宵越しの金は持たない主義なんだ」

 受付嬢の正論に、この返し。
 我ながら酷い理論である。
 でも、この方が楽しいのだから仕方がない。

「……おかしいですね」
「ん?」
「この歳まで冒険者一本で食べてきた人がこう言って、カッコよくない訳無いんですが。何故でしょう。おじさんが言うと残念な言葉に聞こえるのは」
「差別では?」
「多分、アレですね。冒険者の癖に薬草採取って安定な仕事しだけして、その上でこんなこと言ってるのが違うのかも」
「うっ、…… 」

 別角度から、予想外の言葉のナイフ。
 確かに。
 こんなこと言っておいて俺の暮らしは破天荒と無縁ではあるが。
 そもそも、カッコつけたつもりもないし。
 ほぼボケみたいな物である。

 ってか、このセリフ似合う人間もボケだと思うけどね。
 生き方自体が。
 金なんてあったほうがいいのだ。
 少なくとも真面目ではない。
 俺の場合。
 稼ぐ時間が惜しくて、それを削って飲んだくれてる訳だけど。

「えっと、こちらにサインを」
「了解」
「……依頼受ける時、毎回読み込んでますよね」
「一応ね」
「そこはおじさんの良い所です」

 散々なこと言いつつ。
 書類はバッチリ用意してくれてたらしい。
 流石。
 仮にも受付嬢やってるだけある。

 ……

 流れで何気なくスルーしそうになったが。
 あれ?
 今、珍しく褒めらてなかった?
 枕詞に数少ないとか余計な言葉が付きそうではあるけど。
 それでも褒められた事に変わりはない。

 彼女、根本は変わらないと思うんだけど。
 どうも今日は上にも下にもブレが激しくなってる様な。
 明日の天気は槍かもしれない。

「失礼なこと考えてません?」
「んなことはない」

 疑惑の視線を向けられつつ、無視してサイン。

「じゃ、行ってきます」
「気をつけてくださいね」
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