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十五章
平常 5
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「おばちゃん、久しぶり」
「……誰かと思ったら、あんたかい。今回は長かったね」
「まぁね」
ギルドに併設されている大衆酒場。
そこで、店員やってるおばちゃんに声をかける。
仕込みでもしてたのか。
初めはこちらに背を向け作業していた様子だが。
俺に呼び掛けられ。
少々、億劫そうにふり返った。
怪訝そうな表情が見えた気がしたけど。
それも一瞬。
まぁ、おばちゃん呼びする人もそう居ないだろうからな。
長い事ギルドに居座る俺があんまり聞いた事ないし。
相手の心当たりが無かったのだろう。
しばらく離れてたから。
俺が帰って来たことも知らず。
だからこその表情。
ふり返って見て、ちょっと予想外といった反応。
まぁ、俺らの関係性的に再会を喜ぶってものでもない。
ただの店員と常連客である。
驚いた様な反応は、その一拍後には呆れた表情へと変わり。
今回は長かったねなんて。
当たり障りのない世間話へと流れる。
受付嬢もそうだが。
おばちゃんもいつも通り。
いや、それが普通なんだろうけど。
メスガキやらノアが短期間で目に見えて変わってたせいか。
変化しないってこと自体に、何か感じる物がある。
「おばちゃんってずっと変わらないよね」
「何が?」
「いや、昔からこの雰囲気だなと」
「この年齢にもなって、おいそれと変化してたまるかいな」
「そんなもん?」
「変わるのなんて、それこそ老いが来た時ぐらいだろうね」
「んな、あんまり寂しいこというなよ」
でも、そうだよなぁ。
おばちゃんの言う通りかもしれない。
受付嬢がずっと変わらないのは。
まぁ性格として。
俺とか、おばちゃんとか。
いい歳した大人が変化するとしたら。
次は年老いた時だわな。
そう思うと、ずっと成長してない自分も。
成長していないのではなく。
老けていない。
こう考えれば、なんだかいい事の様な気がしてくる。
いや、そんな意味で言ったんじゃないんだろうけど。
どっちにしてもだ。
今更になって、変わりようもないよな。
「あ、そうだ。つまみお願いしていい」
「ん? あんたが酒飲まないなんて、どういう風の吹き回しだい。明日は槍でも降りそうだね」
「どんなイメージだよ」
「そんなの、飲んだくれてるおっさんに決まってるだろう」
「うっ、否定は出来ない」
「なに不本意みたいな言い方してんだか、このギルドに複数回来た事ある人間なら誰もがそう答えるだろうよ」
「そこまで?」
「いっつも飲んだくれてるあんたが悪い」
自分でも飲んだくれの自覚はあるが。
他人から言われると、ちょっとくるものがある。
まぁ、客観的に見れば。
全くもって間違いではないのだけど……
「今日は、お土産買ってきたからね」
「土産?」
「この前の、港町の地酒喜んでくれたろ? 今回は王都の酒をいくつか」
「やっぱり飲むんだね」
「飲んだくれのおっさんだからね、やっぱ酒は飲まないと」
「ったく、調子のいいやつめ」
多少の文句は言いつつも。
本気で気にしてたら、ギルドで昼間っから酒を飲んだりはしない。
多少くるものがあるのも事実だが。
まぁ、そんな段階はとっくに通り過ぎてしまった。
おばちゃんと軽口を交わし。
持ってきた酒。
これを適当に取り出す。
ただ、薬草採取中は邪魔だったからね。
酒はアイテムボックスの中なのだ。
カウンター。
そこの影になるようにさっと取り出す。
普段だったもう少し気を使うんだが、少なくともこんな大胆な事はしない。
しかし、後ろに視線をやる。
活気が無い。
ギルド自体に冒険者が全然居ないのだ。
寂れてるとかではなく。
単純に。
冬だからだろうな。
そうなれば当然ギルド側の職員も少ない訳で。
つまり、おばちゃんからの視線さえ切れていればそれで良いのだ。
「おじさん、何してるんですか?」
びくっ
「ちょっと、驚きすぎですよ」
突然声を掛けられ、誰かと思ったら。
受付嬢。
俺が声掛けられただけで驚いたのがツボにでも入ったのか。
口元を押さえて、笑いを堪えるような。
さっきと似たような表情。
多少イラッと来たが、それ以上にほっとした。
一瞬、見られたかと思ったのだが。
どうも、そんな事はなさそう。
こいつ遠慮とかそんな物とは無縁の人間だからな。
真っ先に突っ込んで来るだろうし。
どうやら、裏から回って来たらしく。
カウンターがうまいこと影になってくれた様子。
肝心の部分は見えてなかったと。
まぁ、バレたからどうってことはないのだが。
一応ね。
隠せるなら隠しておいたほうがいいだろうって判断。
そんなんだから脇が甘くなるのだろうけど。
……いや、なくないのか?
受付嬢に限っては。
討伐しろと、うるさくなるのが目に見えてる気が。
やっぱ、チートがバレるのはあかんな。
「いや、おばちゃんには普段からお世話になってるから土産をと思ってね」
そんなことを言いながら。
隠れて取り出した酒を並べていく。
安酒だが。
あまり見ないのも多いのだろう。
おばちゃんも。
興味深そうに眺めている。
「私の分は?」
「お前にもやるって」
俺の言葉に、受付嬢が正面からそんな事を。
ったく、よく聞けるよな。
ほんと凄いわ。
「もしかして、言わなかったら何も無かったり?」
「んな事ないって」
「怪しい……」
「お前はまだ仕事中だったからな、一応気を使ったんよ」
「……なら、仕方ないか」
何が仕方ないだ。
偉そうな奴め。
まぁ、だからこっちも気を遣わなくて済むし。
いいんだけど。
よくギルドでやってけるなと。
偶に疑問に思う。
って言うか、仕事は?
いつの間にか飲む気満々みたいだけど。
果たしていいのだろうか。
「仕事中は飲まないんじゃ無かったっけ?」
「この時期に依頼受けるバカなんてほぼいませんよ」
「もしかして、俺の事をバカって言ってる?」
「気が付きましたか」
バカって呼ばれてたらしい。
まぁ、普段から討伐依頼受けて稼げば。
今の時期働く必要ないしな。
受付嬢からはひしひしとそうしろと言う圧を感じてはいるが。
無視だ無視。
そしたらそしたで。
出費が増えるだけ。
その日暮らしはもはや治らない気がする。
ギルド内にほぼ冒険者も居ないし。
受付してても暇なだけか。
なら、大丈夫なのだろう。
多分……
どうなっても知らねーけど。
ま、怒られるのは受付嬢である。
こんなじゃれあいしてる間に。
手際よく、つまみといくつかのグラスを並べていく。
受付嬢の前にも同様。
どうやらおばちゃんから参加の許しが出たらしい。
「にしても、この酒。かなり高かったんじゃないのかい?」
「そう見える?」
「あぁ、知らない酒ばかり」
「それがおばちゃん、ここに並んでるの王都じゃ安いのばっかりなんよ」
「へぇ」
「高いのは輸送費入れても売れるんだが」
「なるほど、安いと売れないのか」
「元の値段から何倍にもなっちゃうらしいからね」
「はぁ、それで」
「そゆこと。それが理由でこっちに入らなくなったんだと思う」
グラスが1人に対して3、4個程度だろうか?
飲み比べしながら楽しむ気満々である。
酒にも興味深々って感じだし。
買って来た側としちゃ、こうも喜んで貰えると嬉しいねぇ。
今日のつまみは、干し肉に漬物。
それが数種類って感じ。
冬だからな。
保存の効く物を中心にって事か。
普通の食卓だと考えてみると。
まぁ、多少味気なくなるのかもしれないが。
酒と合わせた途端。
その癖と塩気。
これが、最高のアテになるのだ。
「お前、今の話ついて来れてる?」
「バカにしないでください、仮にも受付嬢やってるんですからね」
「知ってる」
なんだかんだ、エリートだからね。
貴族やら学園やらには霞むが。
ウーヌの街。
ここの女性で言えばトップ層ではあるだろう。
あまり、そうは見えないけどね。
だから、まぁ……
雑に扱われた意趣返の様な物だ。
「それじゃ、どれから飲みますか?」
「じゃ、これから」
「おい! なんでお前が真っ先に選ぶんだよ」
「私へのお土産ですよね?」
「おばちゃんが先な」
「何でですか!」
「年功序列です」
「え、何ですか。それ」
「年上が優先って事」
「初めて聞く概念持ち込まないでください!」
「こらこら、仕事だからね。私が注ぐさ」
俺と受付嬢がくだらない争いをしていると。
おばちゃんが半分呆れながら仲裁。
いや、自分でもくだらないと思ってはいるんだけどね。
このくだらないのが楽しいのだ。
気心の知れた相手しか周りにいないってのもある。
別に誰に迷惑をかける訳でもなく、馬鹿騒ぎ。
結構楽しいのだ。
おばちゃんも笑顔だし。
元気な若者を見てテンションあがるとかに近いのだろうか?
受付嬢に、雑な対応されつつ。
それでも俺があまり嫌ではないのと同じ。
いや、俺とおばちゃんの場合。
受付嬢と並べられるほどの歳の差はないのだろうが。
俺の精神年齢が幼いから。
……うん。
多分、そういうことなのだろう。
「……誰かと思ったら、あんたかい。今回は長かったね」
「まぁね」
ギルドに併設されている大衆酒場。
そこで、店員やってるおばちゃんに声をかける。
仕込みでもしてたのか。
初めはこちらに背を向け作業していた様子だが。
俺に呼び掛けられ。
少々、億劫そうにふり返った。
怪訝そうな表情が見えた気がしたけど。
それも一瞬。
まぁ、おばちゃん呼びする人もそう居ないだろうからな。
長い事ギルドに居座る俺があんまり聞いた事ないし。
相手の心当たりが無かったのだろう。
しばらく離れてたから。
俺が帰って来たことも知らず。
だからこその表情。
ふり返って見て、ちょっと予想外といった反応。
まぁ、俺らの関係性的に再会を喜ぶってものでもない。
ただの店員と常連客である。
驚いた様な反応は、その一拍後には呆れた表情へと変わり。
今回は長かったねなんて。
当たり障りのない世間話へと流れる。
受付嬢もそうだが。
おばちゃんもいつも通り。
いや、それが普通なんだろうけど。
メスガキやらノアが短期間で目に見えて変わってたせいか。
変化しないってこと自体に、何か感じる物がある。
「おばちゃんってずっと変わらないよね」
「何が?」
「いや、昔からこの雰囲気だなと」
「この年齢にもなって、おいそれと変化してたまるかいな」
「そんなもん?」
「変わるのなんて、それこそ老いが来た時ぐらいだろうね」
「んな、あんまり寂しいこというなよ」
でも、そうだよなぁ。
おばちゃんの言う通りかもしれない。
受付嬢がずっと変わらないのは。
まぁ性格として。
俺とか、おばちゃんとか。
いい歳した大人が変化するとしたら。
次は年老いた時だわな。
そう思うと、ずっと成長してない自分も。
成長していないのではなく。
老けていない。
こう考えれば、なんだかいい事の様な気がしてくる。
いや、そんな意味で言ったんじゃないんだろうけど。
どっちにしてもだ。
今更になって、変わりようもないよな。
「あ、そうだ。つまみお願いしていい」
「ん? あんたが酒飲まないなんて、どういう風の吹き回しだい。明日は槍でも降りそうだね」
「どんなイメージだよ」
「そんなの、飲んだくれてるおっさんに決まってるだろう」
「うっ、否定は出来ない」
「なに不本意みたいな言い方してんだか、このギルドに複数回来た事ある人間なら誰もがそう答えるだろうよ」
「そこまで?」
「いっつも飲んだくれてるあんたが悪い」
自分でも飲んだくれの自覚はあるが。
他人から言われると、ちょっとくるものがある。
まぁ、客観的に見れば。
全くもって間違いではないのだけど……
「今日は、お土産買ってきたからね」
「土産?」
「この前の、港町の地酒喜んでくれたろ? 今回は王都の酒をいくつか」
「やっぱり飲むんだね」
「飲んだくれのおっさんだからね、やっぱ酒は飲まないと」
「ったく、調子のいいやつめ」
多少の文句は言いつつも。
本気で気にしてたら、ギルドで昼間っから酒を飲んだりはしない。
多少くるものがあるのも事実だが。
まぁ、そんな段階はとっくに通り過ぎてしまった。
おばちゃんと軽口を交わし。
持ってきた酒。
これを適当に取り出す。
ただ、薬草採取中は邪魔だったからね。
酒はアイテムボックスの中なのだ。
カウンター。
そこの影になるようにさっと取り出す。
普段だったもう少し気を使うんだが、少なくともこんな大胆な事はしない。
しかし、後ろに視線をやる。
活気が無い。
ギルド自体に冒険者が全然居ないのだ。
寂れてるとかではなく。
単純に。
冬だからだろうな。
そうなれば当然ギルド側の職員も少ない訳で。
つまり、おばちゃんからの視線さえ切れていればそれで良いのだ。
「おじさん、何してるんですか?」
びくっ
「ちょっと、驚きすぎですよ」
突然声を掛けられ、誰かと思ったら。
受付嬢。
俺が声掛けられただけで驚いたのがツボにでも入ったのか。
口元を押さえて、笑いを堪えるような。
さっきと似たような表情。
多少イラッと来たが、それ以上にほっとした。
一瞬、見られたかと思ったのだが。
どうも、そんな事はなさそう。
こいつ遠慮とかそんな物とは無縁の人間だからな。
真っ先に突っ込んで来るだろうし。
どうやら、裏から回って来たらしく。
カウンターがうまいこと影になってくれた様子。
肝心の部分は見えてなかったと。
まぁ、バレたからどうってことはないのだが。
一応ね。
隠せるなら隠しておいたほうがいいだろうって判断。
そんなんだから脇が甘くなるのだろうけど。
……いや、なくないのか?
受付嬢に限っては。
討伐しろと、うるさくなるのが目に見えてる気が。
やっぱ、チートがバレるのはあかんな。
「いや、おばちゃんには普段からお世話になってるから土産をと思ってね」
そんなことを言いながら。
隠れて取り出した酒を並べていく。
安酒だが。
あまり見ないのも多いのだろう。
おばちゃんも。
興味深そうに眺めている。
「私の分は?」
「お前にもやるって」
俺の言葉に、受付嬢が正面からそんな事を。
ったく、よく聞けるよな。
ほんと凄いわ。
「もしかして、言わなかったら何も無かったり?」
「んな事ないって」
「怪しい……」
「お前はまだ仕事中だったからな、一応気を使ったんよ」
「……なら、仕方ないか」
何が仕方ないだ。
偉そうな奴め。
まぁ、だからこっちも気を遣わなくて済むし。
いいんだけど。
よくギルドでやってけるなと。
偶に疑問に思う。
って言うか、仕事は?
いつの間にか飲む気満々みたいだけど。
果たしていいのだろうか。
「仕事中は飲まないんじゃ無かったっけ?」
「この時期に依頼受けるバカなんてほぼいませんよ」
「もしかして、俺の事をバカって言ってる?」
「気が付きましたか」
バカって呼ばれてたらしい。
まぁ、普段から討伐依頼受けて稼げば。
今の時期働く必要ないしな。
受付嬢からはひしひしとそうしろと言う圧を感じてはいるが。
無視だ無視。
そしたらそしたで。
出費が増えるだけ。
その日暮らしはもはや治らない気がする。
ギルド内にほぼ冒険者も居ないし。
受付してても暇なだけか。
なら、大丈夫なのだろう。
多分……
どうなっても知らねーけど。
ま、怒られるのは受付嬢である。
こんなじゃれあいしてる間に。
手際よく、つまみといくつかのグラスを並べていく。
受付嬢の前にも同様。
どうやらおばちゃんから参加の許しが出たらしい。
「にしても、この酒。かなり高かったんじゃないのかい?」
「そう見える?」
「あぁ、知らない酒ばかり」
「それがおばちゃん、ここに並んでるの王都じゃ安いのばっかりなんよ」
「へぇ」
「高いのは輸送費入れても売れるんだが」
「なるほど、安いと売れないのか」
「元の値段から何倍にもなっちゃうらしいからね」
「はぁ、それで」
「そゆこと。それが理由でこっちに入らなくなったんだと思う」
グラスが1人に対して3、4個程度だろうか?
飲み比べしながら楽しむ気満々である。
酒にも興味深々って感じだし。
買って来た側としちゃ、こうも喜んで貰えると嬉しいねぇ。
今日のつまみは、干し肉に漬物。
それが数種類って感じ。
冬だからな。
保存の効く物を中心にって事か。
普通の食卓だと考えてみると。
まぁ、多少味気なくなるのかもしれないが。
酒と合わせた途端。
その癖と塩気。
これが、最高のアテになるのだ。
「お前、今の話ついて来れてる?」
「バカにしないでください、仮にも受付嬢やってるんですからね」
「知ってる」
なんだかんだ、エリートだからね。
貴族やら学園やらには霞むが。
ウーヌの街。
ここの女性で言えばトップ層ではあるだろう。
あまり、そうは見えないけどね。
だから、まぁ……
雑に扱われた意趣返の様な物だ。
「それじゃ、どれから飲みますか?」
「じゃ、これから」
「おい! なんでお前が真っ先に選ぶんだよ」
「私へのお土産ですよね?」
「おばちゃんが先な」
「何でですか!」
「年功序列です」
「え、何ですか。それ」
「年上が優先って事」
「初めて聞く概念持ち込まないでください!」
「こらこら、仕事だからね。私が注ぐさ」
俺と受付嬢がくだらない争いをしていると。
おばちゃんが半分呆れながら仲裁。
いや、自分でもくだらないと思ってはいるんだけどね。
このくだらないのが楽しいのだ。
気心の知れた相手しか周りにいないってのもある。
別に誰に迷惑をかける訳でもなく、馬鹿騒ぎ。
結構楽しいのだ。
おばちゃんも笑顔だし。
元気な若者を見てテンションあがるとかに近いのだろうか?
受付嬢に、雑な対応されつつ。
それでも俺があまり嫌ではないのと同じ。
いや、俺とおばちゃんの場合。
受付嬢と並べられるほどの歳の差はないのだろうが。
俺の精神年齢が幼いから。
……うん。
多分、そういうことなのだろう。
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