ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十五章

平常 12

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 目を開けると見慣れない天井。
 寝返りを打とうとして、何処かから落っこちる。
 ……あれ?
 横に視線を向けると立派なソファーが目に入った。
 ここで寝ていたらしい。
 そりゃ、寝返りで落ちもするわ。

 にしても、天井といいソファーといい。
 全く見覚えないのだが。
 自分の家じゃないのは勿論、冒険者ギルドでも無さそうな。
 初めて入った部屋ではあったけど。
 こんなソファーなんて置いてなかったし……
 何処だここ?
 俺、なんでこんな所で寝てたんだっけ。

 確か、いつも通り薬草採取の依頼を受けにギルドに行き。
 そこで受付嬢に今日の草むしりは中止と、謎の一方的な宣言を受け。
 サプライズで誕生日を祝って貰った。
 ここまでは記憶がはっきりしているのだが。
 なんだっけか。
 そろそろ場所を変えようとかいう流れになった気がする。
 二次会に行って。
 そこのお店でも散々飲んで。
 どうやら、家に帰る前に何処かで寝落ちしてしまっていたらしい。

 大きめの窓が目に入った。
 窓の外は真っ暗、もう日も暮れてしまったらしい。
 ギルドに行った時は。
 まだ結構朝早かった様な気もするが。
 そこからとなんだかんだあって。
 すっかり、夜になっている様子。

「……ん、んっ~~」

 ソファーなんて変な場所で寝ていたせいか、体が硬い。
 筋を伸ばしつつ。
 片手に体重を掛けながらそのそと立ち上がる。
 放置されてたってことは。
 別に迷惑をかけるような場所で寝ていたわけじゃないと思いたいが。
 と言うか、だ。
 他の4人も俺の事起こしてくれても良くね?

 なんて文句も頭に浮かんでいたが、一瞬で氷解。
 どうやら、俺以外も結構寝落ちしちゃってたらしい。
 ノアに嬢に受付嬢。
 皆んな夢の中に旅立っていた。

 おばちゃんの姿が何処にも無いけど……
 思い返してみれば、後は若い奴らでと先に帰った気もする。
 記憶が多少あやふやだ。
 二次会の時はまだ居た気もする。
 若い奴らって、前世も含めりゃ俺の方が全然年上なんだが。
 そんなの知らんしな。
 俺も含め、おばちゃんから見たら若いの扱いらしい。

 こんなしっかり酔っ払ったのはいつ以来だ?
 チートのおかげか、転生して以来気持ちよくはなっても泥酔までは行かなかったからな。
 多分、アルコールってより雰囲気に酔った気がする。
 サプライズで誕生日パーティーなんて、その経験自体が初めてだったから。
 テンション上がっちゃって。
 周りは普通に酔うし。
 前世の泥酔した記憶も合わさり。
 お酒関係なく、体が引っ張られてしまった。

 ……まさか、チートが貫通されるとは。

 そんな事を考えてるうちに目も覚めて来て。
 寝起きは二日酔いっぽく、体が少し怠かったのだが。
 これもかなり雰囲気に引っ張られていたのだろう。
 それを認識したことで。
 錯覚から覚め、二日酔いの症状も消えた。

 改めて周りを見回す。
 冷静に考えて、飲み屋で大人が4人も寝ていて迷惑でないはずがないのだ。
 叩き起こされるか、外にほっぽり出されるか。
 ま、この街じゃノアが居れば少しは多めに見てくれるかも知れないけど。
 髪も伸びてドレスアップしちゃってるし。
 多分、気づかない気がする。

 俺が寝ていたやたらと高そうなソファー。
 ノアと嬢が寝ている大きなベッド。
 他にも、壁紙やら家具一つ一つ見ても高級感が漂う。
 酒場の2階に運んでくれたとか。
 そんな感じじゃないよな。
 ここ、どう考えてもホテルなのでは?

 ノアと嬢が寄り添うように寝ている。
 2人ともはだけていて。
 事後のカップルみたいな格好ではあるが、どっちも俺が脱がせた気も。
 お似合いではあるが。
 これで親友だってんだからよく分からないものだ。
 男女だぞ?
 信じられるか?
 まぁ、これは良い。
 ここの2人とって事はこれまでもあった事だし。

 おばちゃんは帰ったから良いとして、受付嬢を返した記憶がない。
 視線を下に……
 床に寝っ転がってるバカが1人。
 腰に悪そうだが。
 んな事はどうでも良いのだ。
 ここで寝てるバカ、俺の見間違えじゃなければ受付嬢では?

「……おじさん?」

 少し信じがたく、ジロジロと眺めていたら。
 目があった。
 どうも起こしてしまったらしい。
 ま、俺も自然に起きたし。
 多分それぐらいの時間に寝落ちしたのだろう。

 眠気まなこをこすりながら上半身を起こし。
 自分で引っ張って来たのか、ノアか嬢が気を利かせて掛けたのか。
 被っていた毛布がずり落ちる。
 上は何も身につけてなかったらしく彼女の胸が露わに。

 ……

 こんな格好をしているって事はそういう事だ。
 確かにぼんやりと記憶はある。
 しかし、酔っ払っていた状態と今とでは事情が違うと言うか。
 ドキッとしてしまった。
 顔が赤くなんてる自覚がある。
 こんな歳になって。
 今更、何をって話だが。
 これまで気安い関係だったからこそ、余計に。

「あれ?」

 少し遅れて、受付嬢も違和感を持ったらしい。
 自分の格好を確認し。
 そこで一時停止。
 近くのベッドで眠る2人、その布団を引っぺがして大したものを身につけていない事を確認。
 頭が働き出したらしく。
 とりあえず毛布を抱き抱え胸を隠す。

 真っ赤だ。
 2人して頬を染め、何を言うでもなく。
 ただ無言で見つめ合う。
 気まずいやら。
 気恥ずかしいやら。

「おじさんに抱かれるとは、不覚」

 そして、口を開いたと思えばそんな言葉が飛び出した。
 何が不覚だ。
 酔っ払っていて記憶が曖昧だが。
 確か、受付嬢が大暴れしていた様な……
 あ、そうだ!
 確か二次会の店。
 そこで、暑くなってきたとか言って服を脱ぎ出し。
 やめろと抑えるも聞かずに。
 大丈夫な店を知ってると。
 嬢とノアに手を引かれ、連れてこられた結果がここだ。

 酒のせいでそこから先が微妙だけど。
 そのまま、やっと解放されたとばかりに全裸になっていた気が。
 うん。
 完全なる自業自得である。

「不覚って、お前がまず脱ぎ出したんだろ」
「私の事痴女って言いたいんですか!」
「間違いではない」
「何を! そこは男らしく俺が襲ったで良いじゃないですか」
「そんなのこっちが犯罪者になるだろーが」

 その時の事を思い出して来たのか。
 ただでさえ赤かった顔が、さらに真っ赤に染まって。
 テンション上がったのだろう。
 立ち上がって。
 ペシペシと八つ当たりをしてくる。

「そもそも、おじさんにはノア様って人が」
「そのノア達に誘導されてここ来た様な気もするけどな」
「……確かに言われてみれば?」

 受付嬢は酒であまり記憶が飛ばないらしく。
 顔は真っ赤になりつつも。
 俺の言葉に、少し冷静になった。

「ひゃっ!?」

 ただし、さっきみたいなことすれば。
 手で抑えていただけなのだ。
 毛布が完全に落ちる。
 上半身には何も身に纏っておらず、下半身もショーツ一枚。
 しかもそのショーツも。
 随分と、セクシーなランジェリーを着ちゃって。
 よく痴女じゃないと言えたものである。

 元々その気だったのでは?
 ……いや、これ俺が王都で買ったやつだな。
 渡した記憶は無い。
 流石に、受付嬢に王都土産だと言ってこれを渡すほど非常識では無い。
 なのに持ってるって事は。
 酔っ払ってる内に、いつの間にかあげてたって事か。

 もしかしてだけど。
 俺の方からも結構グイグイ行った?
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