ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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十五章

平常 13

 冒険者ギルドへの道のりをぼんやりと歩く。
 昨日、結局薬草採取の依頼をやり損ねちゃったからね。
 今日はしっかり働かないと。
 流石に、一労一休のペースすら崩すのは不味い。
 振替はなるべく近く。
 理想は翌日に。
 でないと、俺の性格上。
 そのままズルズル行くのが目に見えている。

 にしても、昨日は楽しかったなぁ。
 これまでの人生で、一番良い誕生日だった。
 多少予想外のアクシデントもあったが。
 それもご愛嬌って事で。

 元々受付嬢の事は憎からず思っていたし。
 不意を打たれはしたが。
 別段、不本意という事も無かった。
 向こうも多分……
 ショックを受けてるって感じも、本気で怒ってるって感じも無かったからな。
 まぁ、かなり恥ずかしそうにはしてたけど。

 あの後は、もうそれなりに遅い時間だったからね。
 そのまま解散って事になった。
 もう一度出来る元気もなかったし。
 ノアはノアで、次の日は仕事らしく王都に帰らないとって事で。
 いや、本当に凄いな。
 別にホテルに泊まっても良かったのだけど。
 残りの3人でこのまま。
 ……うん、流石に気まずい。
 酔った勢いでやって、酔いが覚めたらそりゃそうなる。

 後悔とかは無いんだけど。
 ちょっとね。
 こればっかりは少しだけ時間が欲しいやつだ。
 向こうもそうだったのだろう。
 分かりやすく頷いていたし。
 それに、嬢と受付嬢も初対面だったろうから。
 多分、この方が無難なはず。

 そして、解散前に嬢にお金を渡そうとした所を見られて。
 2人から文句が飛んできた。
 非難轟々である。
 つい、いつもの癖で。
 確かに、別に娼館来た訳じゃ無いんだから渡さなくても良いのか。
 でも、プロだし。
 そういう事したのに、お金渡さないってのも失礼な気が。

 ノア曰く、お金を渡す方が失礼だと。
 お姉様はそんなつもりでここに来た訳じゃないとの事。
 何がお姉様だよ。
 でも、言ってることはもっともだ。
 そんなつもりじゃ無いよな。
 単に、俺の誕生日を祝いに来てくれた訳で。
 その後色々あったが。
 そこを仕事と受け取る方が失礼か。

 受付嬢の主張は、不公平だから私にも金をよこせと。
 こっちもこっちで。
 まぁ、正論ではあるんだろうが。
 さっきまで頬染めて恥ずかしがってた癖に。
 なんと言うか流石だな。
 関係もってもこういうところは変わらないらしい。

 ただ、この発言にノアがイラッと来たらしく。
 受付嬢と睨み合う。
 おい!
 酔っ払い同士の喧嘩とか勘弁してくれ。
 と言うか、受付嬢。
 お前、ノア様とか呼んでノアのファンやってなかったっけ?
 あ、ミーハーだったんだっけか。
 軽く齧ってるだけのノア様よりはお金優先と……

 嬢本人はというと、このやり取りを笑って眺めていた。
 笑ってないで止めて欲しいんだが。
 まぁ、確かにノアの言う通りここでお金渡すってのも違う気がする。

 結局、今度全員連れて良さげな飯屋に行くことにした。
 受付嬢も納得の表情。
 なんでお前がそんな表情できるのか、不思議で仕方ないが。
 ま、そういう奴なのだから仕方がない。
 嬢には金じゃなくてすまんねと謝ったけど。
 元々貰うつもりはなかったからと。
 気にしてもいない様子。
 やっぱ、いい子だ。
 受付嬢も少しは見習って欲しい。
 いや、受付嬢がこんな態度取ったら逆に心配するけど。

 その場には居なかったが、おばちゃんも後で誘う予定。
 別に、4人も5人もあまり変わらないだろうし。

 帰ろうとした所、袖を引っ張られた。
 受付嬢だ。
 まぁ、どうしても欲しいってなら別に金渡すこと自体に異論はないが。
 と思ったら、違ったらしい。
 腰をさすっている。
 どうやら、痛めたから家まで遅れと。
 そう言う話だ。
 普段なら男相手にと思う所だが、今更送り狼も何も無いだろう。

 頬を染めてかなり恥ずかしそうに頼まれ。
 さっきの、私にも金をよこせと主張してたコイツはどこ行ったんだか。
 ま、別にいっか。
 大した手間も掛からんだろうし。
 俺にも一部責任はありそう。
 いや、床で寝てた受付嬢が悪い気はするけど。

 そんなこんな振り返ってる内に到着。

「……よ、よう!」
「げ、おじさん」

 ギルドに入り、受付嬢に声をかけた。
 変に意識しすぎないように、無難に話しかけたつもりだが。
 それが余計自分の中で意識させてしまい。
 逆に、不自然になった気がする。

 にしても、げとはなんだ。
 相変わらず失礼な奴め。
 冒険者に対する態度としては、いくらなんでもである。
 ま、理由はわかってるんだけどね。

 証拠に頬が赤い。

「っー、今日も草むしりですよね!?」
「まぁな」
「書類は用意してるんで、ちゃっちゃとサインして仕事行ってきてください!」

 自分でも頬が染まってることに気づいたのか。
 それとも、昨日のことを思い出して恥ずかしくなってきたのか。
 いち早く仕事を終わらせたいらしい。

 俺のやってることなんていつも一緒だからな。
 流れ自体は分かりきってるのに。
 書類は用意しなきゃいけないから速攻という訳にはいかなくて。
 それが歯がゆいのか、無駄に急かしてくる。

 やる事はいつも通り。
 でも、どこか不恰好なやり取り。

 薬草採取の依頼を受注。
 一刻と掛からずに片付け、ギルドに戻って来た。
 薬草の入った麻袋をカウンターに置く。
 何か言いたげな視線を感じつつ。
 何も言ってはこない。

 無駄口を叩かず、テキパキと手を動かして。
 ただ、無駄な動きが多いのか。
 普段より少し時間がかかった気がする。

「依頼品の納品を受付ましゅた」

 ……

 そして盛大に噛んだ。
 弄りたかったが。
 まぁ、流石にそれは可哀想かもしれない。

 顔が見る見るうちに真っ赤になって。
 恥ずかしいのだろう、そのまま俯いている。
 ほっとけば再起動するか。
 今はぎこちないが。
 それも、時間が解決してくれるはず。

 今、何か言葉を掛ける方が良くない。
 哀れみの視線を向けつつ。
 ギルドに併設された酒場へ。

「おばちゃん、エールひとつ」
「あいよ」

 にしても、そうか。
 俺ももう36歳か……

 別段、何かしたわけじゃないんだけどな。
 謎に充実度が上がった気がする。
 一年前と比べて。
 去年ぼんやりと浮かんでいた不安はどこへやら。
 まぁ、状況としては変わらないんだが。
 何も成していない。
 色々掠った気はするけど。
 何かとしたかと言われれば、答えはそれ。
 でも、それでいいのだ。

 ギルドの片隅で飲んだくれながらそんなことを思う。

「何を1人で黄昏てんだい?」
「別にいいだろ」
「昨日は随分とお楽しみだったらしいじゃないか」
「うっさいよ」
「楽しそうでいいねぇ」
「二次会の後、そのまま残ってれば良かったのに」
「おばちゃんなんて嫌だろ」
「普通ならね、おばちゃんは別だよ」
「私はそこまで若くはないよ」

 どうやら、振られてしまったらしい。
 おばちゃんと軽口を交わし。
 また酒を飲む。
 いつも通りの日常。
 これからも、ずっと続いていくのだろう。

 チートを貰い転生した。
 何も成し遂げる事なく36年……
 去年、前世の年齢も超え。
 もう立派な異世界人だ。

 まぁ、こんな人生も悪くはないか。

ー完ー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これにて、『ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者』
一旦完結とさせて頂きます。
多少の充電期間を設け、蛇足ですがもうしばらく更新自体は続ける予定です。

感想、評価、なんでもいいので反応もらえると嬉しいです。
感想 69

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