ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上

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蛇足③

親子 11

「それでは、失礼致します」

 軽く頭を下げ。
 どうやら、そろそろ仕事に戻るつもりらしい。

 まぁ、そうだよね。
 いつまでもここで話してる訳にもいかないと。
 仕事中だし。
 油売ってるみたいな物だからな。

 長いことダラダラしてたら。
 これ、実質誘いを受けたのと変わらないし。
 示しがつかないってモノ。

 その上、今日は早めに仕事を終わらせるってミッションも追加された訳で。
 多少、名残惜しくはあるが。
 仕方ないか。
 空腹は最高のスパイスって言葉もあるし、同じ三大欲求なのだからそうなる可能性もなきにしもあらず。
 こう考えれば悪くはない。
 夜まで、もうしばらくの間お預けである。

 なんて自制していたのだけど。
 突然振り返ったと思ったら、抱き寄せられ頬にキスされた。

「……え!?」

 急な出来事に、思わず声が漏れる。
 随分気の抜けた音だ。
 自分の出したものながらぼんやりした頭にそんな感想が浮かぶ。

 って、危ない。
 一瞬トリップしかけた。

 何のつもりなのか。
 女将さんの顔を見返すと、悪戯が成功したかの様な笑み。
 それに、妖艶な雰囲気がまとわりつく。
 揶揄われていたらしい。

 俺が何かを言う前に、そのまま部屋を出て行ったしまった。

「えぇ……」

 心臓がバクバク言ってるのを感じる。
 何なら、その音がうっすらと耳で聞こえてる気すらしてきた。

 胸に手を当てる。
 視線は、誰もいないドアを写したまま。
 ゆっくりと息を吸って吐く。

 さっき、頬を染めていた女将さんの事を見て。
 普通の女の子みたいなとこもあるんだな。
 なんて感想を抱いていたのだけど。
 これじゃ、俺の方が一般的な思春期男子である。

 そもそも、あれは演技だったのだろうか?
 ……それとも今のが?
 不明だ。
 俺には分かりようない。
 ただでさえ、表情から人の真意を読み取る様な事は苦手だと言うのに。

 ま、そのどちらにしてもだ。
 手のひらで転がされて、相変わらず女将さんには敵いそうにない。

 でも、別にいっかなって気分にもなる。

 どこかで聞いた話。
 ミステリアスな女性は酷く魅力的だって。
 確かに……
 普段見せない表情を見せられた時も、そのギャップに萌えたのだけれど。
 今の彼女もまた凄く良い。

 ……

 ボケーっと。
 窓の外に視線を向けて。
 ただ、黄昏る。

 断じて、別に骨抜きにされた訳ではない。
 うん……

 女将さんのイタズラっぽい笑みは、未だ俺の脳裏に強く刻み込まれているが。
 うるさかった心臓も徐々に落ち着きを取り戻し。
 至って平常である。
 では、何をしているのかと問われれば暇を潰しているのだ。

 ほら、獣っ娘が今任せられてる仕事終えたら休憩入るって話だったし?
 どれぐらいかかるか知らないけど。
 これで外出してて部屋にいなかったら、普通に泣かれる気がする。

 女将さんには勿論、スタッフの娘にも怒られそう。
 その光景が想像に難くない。

 だから、何となく景色でも眺めて。
 暇つぶし。
 明らかに無為な時間だという自覚はありつつも。
 こうやって貪るの。
 実は、嫌いではなかったり。

 特に、こういう場所だとね。
 雰囲気も相まって。
 その無駄な行為すらかなりの贅沢に昇華するのだ。

 しかし、久々に会ったが。
 獣っ娘はいいな。
 元々見た目に惹かれた訳だし、それが良いのはもちろんだけど。
 内面も。

 あの、屈託のない笑顔は特に癒される。

 それに、素直に甘えてきて。
 抱きつかれ。
 獣人だからなのか、背が低いからなのか。
 暖かかった。
 服越しではあるが温もりを感じた。

 その感触だけで……
 今日、温泉街まで来て良かったと思わせてくれる。

 窓の外へと視線を戻す。
 普段見るそれは冬の景色で、雪の積もった庭もいいのだが。
 青々としたこれもなかなか乙なものである。
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