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7話 警察
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7話 警察
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「……リーリア、ちゃん?」
「ちょ、ちょっとこれは違くって。その……」
この目、覚えがある。
軍にいた時もたまに向けられたことのある目だ。
特に、新入りから。
私にはよくわからない感覚だけど、普通に生きてきた人間にとって人の死ぬ場面というのは耐え難い忌避感があるらしい。
私が何の躊躇いもなくその引き金を引く場面を、よくこんな目で見られた。
そんな彼らもそのうち慣れていくのだが。
そうだよね、軍人であったとしても慣れてなければそう思うんだ。
ましてやヴィーナは学生で、良いところのお嬢様と来た。
花よ蝶よと育てられてきた箱入り娘が殺人をどう思うかなんて、考えるまでもないよな。
……でもさ、仕方なかったんだよ。
学生なら一緒に逃げるとかが精一杯で、それが正解なんだろうね。
でも、そんなことしたら間違いなく背中から撃たれてた。
銃を持っている相手には先手必勝、それ以外打つ手なんてないんだよね。
というか、そもそも反射で撃っちゃったからそんな理屈なんて関係ないっちゃないんだけど。
ヴィーナが狙われていた時点で、ね。
クラスメイトでルームメイト、この時点で私の思考回路はヴィーナのことを同じ集団に所属する仲間だとすでに判断していた。
仲間を守るのも私の仕事の内だ。
これは自分の意思でどうこう出来るような物でもない。
それに、私の意思としてもヴィーナには死んで欲しくない。
出会ってまだ短いけど、それなりに気に入ってるつもりだ。
だから、後悔はない。
……いや。
この後私が処理されることを思うと、正直それに関しては色々と思うところはある。
でも、ヴィーナを守ったことに後悔はないのは本当だ。
ただ、これ完全い引かれちゃったよね。
ずっと視線すら合わせてくれないし、目の前で人が死んだ衝撃が大き過ぎたのか動けずにぼーっと虚空を見上げている。
さっきまでに比べて、明らかに距離感が遠くなってる。
これで私の学校生活も終わりか。
唐突に始まったと思ったら、これまた唐突に終わっちゃったな。
脈絡なんてあったもんじゃない。
結局、最後まで馴染めなかったな。
最後と言っても1日しかなかったし、これでは馴染めるもんも馴染めないのだろうけど。
でもまぁ、こんなこと反射でやっちゃうやつが初めから学校に馴染めるわけなかったって事だ。
処分か、まぁ仕方ないよね。
どうせもともと処理されるだろうって思ってたんだ。
多少寿命が伸びた分、この学園に来て良かったということにしておこう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誰かが通報したのだろう。
もしくは、私の銃声を聞きつけてやってきたのか。
案外早く警察が来た。
正直助かった。
空気が気まずくて仕方なかった。
ヴィーナはずっと動かず呆然としたままだし。
「銃を持って暴れる少女がいると通報があったが、嬢ちゃんがそうだな」
「そうだよ」
まぁ、客観的に見て私が一方的に撃ち殺しただけだしな。
拳銃を向けられ、武器を捨て手を上げるように言われる。
そりゃそうなるか。
抵抗する気もない。
素直に銃を捨てて、手を上げる。
銃を突きつけられ、警察に誘導されるがまま移動する。
ヴィーナが心配そうな顔で私を見てくる。
この人は、本当にいい人すぎるな。
怖くて、恐れてて、ものすごい拒否感があるはずなのに、それでも心配してしまうのだろう。
ちょっと申し訳なく思う。
まぁ、唯一の救いはヴィーナは特段悪いことにはならないだろうってことか。
多少事情聴取をされるかもしれないが、今日中に解放されて寮に戻れることだろう。
それで終わりだ。
寮……?
あ、やっぱさらに迷惑かけるかもしれない。
部屋に武器置きっぱなしだわ。
今日会ったばっかりだし、共犯どうたらみたいなことにはならないだろうけど、それ見つかったら少なくとも今日は帰れないかもしれない。
武器といえば、
「警官さん」
「なんだ?」
ちょっと、銃でつっつかないでよ。
変なことはしないって。
「そこに倒れてる男の人の右手、」
「ん?」
「拳銃持ってるから、早めに回収しといて」
警察がこのまま被害者をここに放置して私だけ連行するなんてことはないだろうけど、一応言っておいた方が良いかなって。
ヴィーナへの罪滅ぼしじゃないけど、この場に武器が転がってるのあんまり良くない気がする。
1人が私のことを警戒したまま、もう1人の警察が男の亡骸をチェックする。
銃を出そうとした瞬間を撃ち抜いたからね、右手に握っていたそれが簡単に見つかった。
警察の目に動揺が映る。
本当に銃が出てきたことに驚いているらしい。
まぁ、殺人犯の言葉なんて当てにするはずないわな。
万が一もあるから形だけのチェックのつもりだったのだろう。
ヴィーナも、私とその銃を驚愕したとでもいうような目で交互に見ている。
「正当防衛だと、そう主張するんだな?」
「まぁまぁ、今は別に。そういうのって、署でやるんじゃないの?」
「……嬢ちゃんは聞き分けが良くて助かるよ」
私に対する警察の態度が明らかに変わった。
気の狂った殺人犯から、銃を持った男への過剰防衛にでも認識が変わったのだろう。
同情の視線すら感じる。
だが、そんなものは何の意味も持たない。
仮にこれが過剰防衛ですらなく、正当防衛が認められて私が無罪になったとしてだ。
私が銃を撃って結果警察に捜査されるという事象が起こっている時点で、完全に詰みなのである。
今更罪の重さどうこうとかどうでもいいし、そのことで討論を重ねる気にもなれない。
おそらく、裁判を待つまでもないだろう。
警察が捜査すれば遠からずして私の身元は判明し、それが上に伝わることだろう。
ただでさえ爆弾でしかない人体実験を繰り返された少年兵という存在、それが銃の所持どころか発砲と来たものだ。
平和に歩みを進めたい国の上層部がどう判断するかなんて分かりきっている。
処分。
それも、出来るだけ早急に。
もしかしたら、明日の日の光を見る前に処分かもね。
「待ってください!」
「ヴィーナ?」
「リーリアちゃんは……、私のことを守ってくれたの?」
私と銃の間で視線を彷徨わせていたヴィーナが、突然声を上げた。
というか、引き止められて止まるなよ警察。
「まぁ、一応そうかな? 本当にそこの男の狙いがヴィーナだったのかは分からないけど、少なくとも銃を抜こうとはしてたからね」
「そう、なんだ。なのに、私……」
後悔してるのか。
そんな必要ないのに。
「人を撃ち殺すような人間がまともなわけ無い、私に対してヴィーナが持った感情は正しいと思うよ」
「……」
そう、人殺しに忌避感を覚えることが間違っているわけない。
私は初めから人として破綻しているし、軍の新人どもも軍での日常で麻痺して人として破綻して行くのだろう。
だから、そんな思い詰めたような顔をしないで欲しい。
「警官さん、殺人の容疑者の連行中なんだからこんなとこで立ち止まってないでさっさと仕事しなよ。逃げ出すかもだよ?」
「あ、あぁ」
警察は少しヴィーナに視線を送りながらも、私のことを連行していく。
これが最後のお別れか。
まぁ、引き止めてくれたのは少し嬉しかったよ。
「……パパにお願いするから」
「え?」
「私の命の恩人だからって。リーリアちゃんが捕まるなんておかしいって」
「そんなグレーどころか真っ黒なこと、こんなところで口に出すんじゃないよ。警察が横にいるの見えないの?」
「待っててね」
「……はいはい」
ヴィーナのお父さんがどんなにすごい人なのかは知らないが、無理だろうな。
私の存在はそういうものだ。
銃を撃ってしまった以上、前みたいに平和を理由にどうこうもいかないだろうしね。
無茶をすればもしかしたらどうにか出来るような人もいるのかもしれないが、それは本当に限られた一部の人間だけ。
そもそも、ヴィーナのお父さんにそこまでするような理由がない。
可愛い娘のためだし、もしかしたら抗議文を書くぐらいならやってくれるかもしれないけど、それ以上は無理だろう。
でもまぁ、誰にも思われずに死んでいく予定だったんだ。
私の死を悲しんでくれそうな人が1人いる、それだけでどれだけ幸せかって話だよね。
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「……リーリア、ちゃん?」
「ちょ、ちょっとこれは違くって。その……」
この目、覚えがある。
軍にいた時もたまに向けられたことのある目だ。
特に、新入りから。
私にはよくわからない感覚だけど、普通に生きてきた人間にとって人の死ぬ場面というのは耐え難い忌避感があるらしい。
私が何の躊躇いもなくその引き金を引く場面を、よくこんな目で見られた。
そんな彼らもそのうち慣れていくのだが。
そうだよね、軍人であったとしても慣れてなければそう思うんだ。
ましてやヴィーナは学生で、良いところのお嬢様と来た。
花よ蝶よと育てられてきた箱入り娘が殺人をどう思うかなんて、考えるまでもないよな。
……でもさ、仕方なかったんだよ。
学生なら一緒に逃げるとかが精一杯で、それが正解なんだろうね。
でも、そんなことしたら間違いなく背中から撃たれてた。
銃を持っている相手には先手必勝、それ以外打つ手なんてないんだよね。
というか、そもそも反射で撃っちゃったからそんな理屈なんて関係ないっちゃないんだけど。
ヴィーナが狙われていた時点で、ね。
クラスメイトでルームメイト、この時点で私の思考回路はヴィーナのことを同じ集団に所属する仲間だとすでに判断していた。
仲間を守るのも私の仕事の内だ。
これは自分の意思でどうこう出来るような物でもない。
それに、私の意思としてもヴィーナには死んで欲しくない。
出会ってまだ短いけど、それなりに気に入ってるつもりだ。
だから、後悔はない。
……いや。
この後私が処理されることを思うと、正直それに関しては色々と思うところはある。
でも、ヴィーナを守ったことに後悔はないのは本当だ。
ただ、これ完全い引かれちゃったよね。
ずっと視線すら合わせてくれないし、目の前で人が死んだ衝撃が大き過ぎたのか動けずにぼーっと虚空を見上げている。
さっきまでに比べて、明らかに距離感が遠くなってる。
これで私の学校生活も終わりか。
唐突に始まったと思ったら、これまた唐突に終わっちゃったな。
脈絡なんてあったもんじゃない。
結局、最後まで馴染めなかったな。
最後と言っても1日しかなかったし、これでは馴染めるもんも馴染めないのだろうけど。
でもまぁ、こんなこと反射でやっちゃうやつが初めから学校に馴染めるわけなかったって事だ。
処分か、まぁ仕方ないよね。
どうせもともと処理されるだろうって思ってたんだ。
多少寿命が伸びた分、この学園に来て良かったということにしておこう。
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誰かが通報したのだろう。
もしくは、私の銃声を聞きつけてやってきたのか。
案外早く警察が来た。
正直助かった。
空気が気まずくて仕方なかった。
ヴィーナはずっと動かず呆然としたままだし。
「銃を持って暴れる少女がいると通報があったが、嬢ちゃんがそうだな」
「そうだよ」
まぁ、客観的に見て私が一方的に撃ち殺しただけだしな。
拳銃を向けられ、武器を捨て手を上げるように言われる。
そりゃそうなるか。
抵抗する気もない。
素直に銃を捨てて、手を上げる。
銃を突きつけられ、警察に誘導されるがまま移動する。
ヴィーナが心配そうな顔で私を見てくる。
この人は、本当にいい人すぎるな。
怖くて、恐れてて、ものすごい拒否感があるはずなのに、それでも心配してしまうのだろう。
ちょっと申し訳なく思う。
まぁ、唯一の救いはヴィーナは特段悪いことにはならないだろうってことか。
多少事情聴取をされるかもしれないが、今日中に解放されて寮に戻れることだろう。
それで終わりだ。
寮……?
あ、やっぱさらに迷惑かけるかもしれない。
部屋に武器置きっぱなしだわ。
今日会ったばっかりだし、共犯どうたらみたいなことにはならないだろうけど、それ見つかったら少なくとも今日は帰れないかもしれない。
武器といえば、
「警官さん」
「なんだ?」
ちょっと、銃でつっつかないでよ。
変なことはしないって。
「そこに倒れてる男の人の右手、」
「ん?」
「拳銃持ってるから、早めに回収しといて」
警察がこのまま被害者をここに放置して私だけ連行するなんてことはないだろうけど、一応言っておいた方が良いかなって。
ヴィーナへの罪滅ぼしじゃないけど、この場に武器が転がってるのあんまり良くない気がする。
1人が私のことを警戒したまま、もう1人の警察が男の亡骸をチェックする。
銃を出そうとした瞬間を撃ち抜いたからね、右手に握っていたそれが簡単に見つかった。
警察の目に動揺が映る。
本当に銃が出てきたことに驚いているらしい。
まぁ、殺人犯の言葉なんて当てにするはずないわな。
万が一もあるから形だけのチェックのつもりだったのだろう。
ヴィーナも、私とその銃を驚愕したとでもいうような目で交互に見ている。
「正当防衛だと、そう主張するんだな?」
「まぁまぁ、今は別に。そういうのって、署でやるんじゃないの?」
「……嬢ちゃんは聞き分けが良くて助かるよ」
私に対する警察の態度が明らかに変わった。
気の狂った殺人犯から、銃を持った男への過剰防衛にでも認識が変わったのだろう。
同情の視線すら感じる。
だが、そんなものは何の意味も持たない。
仮にこれが過剰防衛ですらなく、正当防衛が認められて私が無罪になったとしてだ。
私が銃を撃って結果警察に捜査されるという事象が起こっている時点で、完全に詰みなのである。
今更罪の重さどうこうとかどうでもいいし、そのことで討論を重ねる気にもなれない。
おそらく、裁判を待つまでもないだろう。
警察が捜査すれば遠からずして私の身元は判明し、それが上に伝わることだろう。
ただでさえ爆弾でしかない人体実験を繰り返された少年兵という存在、それが銃の所持どころか発砲と来たものだ。
平和に歩みを進めたい国の上層部がどう判断するかなんて分かりきっている。
処分。
それも、出来るだけ早急に。
もしかしたら、明日の日の光を見る前に処分かもね。
「待ってください!」
「ヴィーナ?」
「リーリアちゃんは……、私のことを守ってくれたの?」
私と銃の間で視線を彷徨わせていたヴィーナが、突然声を上げた。
というか、引き止められて止まるなよ警察。
「まぁ、一応そうかな? 本当にそこの男の狙いがヴィーナだったのかは分からないけど、少なくとも銃を抜こうとはしてたからね」
「そう、なんだ。なのに、私……」
後悔してるのか。
そんな必要ないのに。
「人を撃ち殺すような人間がまともなわけ無い、私に対してヴィーナが持った感情は正しいと思うよ」
「……」
そう、人殺しに忌避感を覚えることが間違っているわけない。
私は初めから人として破綻しているし、軍の新人どもも軍での日常で麻痺して人として破綻して行くのだろう。
だから、そんな思い詰めたような顔をしないで欲しい。
「警官さん、殺人の容疑者の連行中なんだからこんなとこで立ち止まってないでさっさと仕事しなよ。逃げ出すかもだよ?」
「あ、あぁ」
警察は少しヴィーナに視線を送りながらも、私のことを連行していく。
これが最後のお別れか。
まぁ、引き止めてくれたのは少し嬉しかったよ。
「……パパにお願いするから」
「え?」
「私の命の恩人だからって。リーリアちゃんが捕まるなんておかしいって」
「そんなグレーどころか真っ黒なこと、こんなところで口に出すんじゃないよ。警察が横にいるの見えないの?」
「待っててね」
「……はいはい」
ヴィーナのお父さんがどんなにすごい人なのかは知らないが、無理だろうな。
私の存在はそういうものだ。
銃を撃ってしまった以上、前みたいに平和を理由にどうこうもいかないだろうしね。
無茶をすればもしかしたらどうにか出来るような人もいるのかもしれないが、それは本当に限られた一部の人間だけ。
そもそも、ヴィーナのお父さんにそこまでするような理由がない。
可愛い娘のためだし、もしかしたら抗議文を書くぐらいならやってくれるかもしれないけど、それ以上は無理だろう。
でもまぁ、誰にも思われずに死んでいく予定だったんだ。
私の死を悲しんでくれそうな人が1人いる、それだけでどれだけ幸せかって話だよね。
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