兵器な少女

哀上

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8話 ヴィーナの独白

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8話 ヴィーナの独白
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 客観的に見て、私は恵まれているのだと思います。
 パパはとっても偉い政治家さんで、ママは有名な女優さん。
 2人とも私の自慢の両親です。

 世の中には明日のご飯すらない子供がたくさん居る、そう聞いたことがあります。
 私は生まれてこの方、住む場所や食べるものに困るようなことになったことがありません。
 全ては一生懸命働いてくれてる両親のおかげなのです。

 だから、2人と一緒にいられないけど寂しくありません。
 家政婦さんが面倒を見てくれますし、それに自分のことはもう自分で出来る年齢です。
 わがままなんて、言いません。

 ……嘘、です。

 本当は寂しいし、パパとママともっと一緒にいたい。
 でも、それは叶わない願いなのです。
 パパもママも仕事が忙しくて、私はいい子でいなくてはいけません。
 だから、そんなわがまま許される訳ないのです。

 きっと、私を愛していないな訳じゃないと思うんです。
 家政婦さんが私の様子を報告しているのでしょう、何気なく欲しそうにしていた玩具、食べてみたいと口にしたお菓子、羨ましそうに眺めていた着てみたかったドレス、何でもプレゼントしてくれました。
 直接ではなかったけど、それでも本当に何でもプレゼントしてくれました。

 ……私が心の底から欲しいモノ以外は何でも。

 だからでしょう。
 私はいつの間にか家政婦さんに母性を求めていました。
 両親には言えないちょっとしたわがままを言ってみたり、抱きついて甘えてみたり、ぽっかりと開いてしまった心を満たすために思いつく限りのことをしてみました。

 それでも寂しさは埋まりませんでした。
 当然です。
 家政婦さんは私のママではないのですから。

 それでも、私は家政婦さんに母性を求めてしまった。
 普段の何気ないおねだり、きっとそれは両親に伝わっていつの間にか私へのプレゼントとして家に届けられるのだろう。
 だから、「パパとママには秘密だよ」そう言った。
 それは秘密を共有したかったと言うのもあるし、なにより両親よりも私のことを見て欲しかったから。

 そのおねだりがすぐに叶うことはなかった。
 秘密を守ってくれたんだ、両親よりも私のことを優先してくれたんだ、私はそう思い込んでますます家政婦さんにベッタリになった。
 でも、クリスマス目を覚ますと枕元にそれが置いてあった。
 もしかしたら家政婦さんからのプレゼントかも、そんな淡い期待もサンタからのメッセージカードという父の筆跡で書かれた分かりやすい証拠に煙となって消え失せた。

 当然の事です。
 彼女は私ではなくパパに家政婦として雇われたのだから、私よりパパを優先するのは自然なことです。
 それが仕事なのですから、何もおかしなことはありません。

 ただ私が勝手に期待して、勝手に落胆した。
 それだけの話です。

 私はその日から彼女に甘えることはなくなりました。
 彼女が少し悲しそうな目で見てくることもありましたが、私はただ家政婦に対してママを重ねてしまう前の今まで通りの行動をとりました。
 そうでもしないと理不尽に当たってしまいそうで、良い子の私を維持できなくなる気がして。

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 しばらくして、私はパパの勧めでとある学園に通うことになりました。
 勧めとは言っても拒否する選択なんて良い子の私には存在しません。
 でも、久しぶりにパパと一対一で話せて、それだけでとても嬉しかったのです。

 そう、それだけで……

 今までずっと学校にいかず家庭学習だったのに、寮制の学校だと聞いて少し驚きました。
 でも、話を聞いていくうちに何となく察することが出来ました。
 出来てしまいました。

 パパは私を使ってその学園に通う子供たちの親と人脈を築こうとしているのだと、そう理解しました。
 心が急速に冷めていくのを感じました。
 さっきまでとっても嬉しかったのに、相変わらず父と話しているのに私の心は冷え切ったままです。

 でも、恨むのなんて筋違いです。
 ただ私が勝手に父が自分のことを愛してくれていると思い込んで、その思い込みと違ったからと勝手にがっかりしているだけなのですから。

 ……学園ですか。
 嫌だと言うことは出来ても、どうせ断ることなんて出来ないのでしょう。
 これは父の仕事に関わる話、父の仕事にかける熱は幼い頃から身をもって理解してるのでそれぐらい容易に想像出来てしまいます。
 それに、もうあまり家にいたいとも思えません。

 私みたいな子たちが集まる、父が人脈を気付きたいと思うような人の子供たちが集まる学園。
 きっと友達もたくさん出来るはず。
 そこなら私が心の底から欲しているモノもきっと……

 でも、違ったのです。

 自己紹介をした瞬間、クラスメイトの私を見る目が変わった事に気がつきました。
 私の周りには人だかりこそ出来ましたが、そこには友情なんてものは到底存在しえませんでした。
 みんな私を通して私の父のことを見ていたのです。

 きっと私と同じようなことを言われてこの学園に来たのでしょう。
 親の人脈を広げるという、明確な目的を与えられて。
 そして、私とは違ってその目的を果たすために親の願いを叶えるためにこの学園に入学したのです。

 その光景は少し異様に見えました。
 それと同時に彼らのことを少し羨ましいと思ってしまいました。
 昔の良い子をしていた私と同じ、そこまでして親に尽くせるなんて愛してもらっているとそう思い込めているからなのでしょう。
 私はもうそうは思えないから。

 私が心の底から欲しているモノはここでも手に入りそうにないようです。

 でも、同室の子なら。
 生活を共にするのですから、もしかしたら……
 そうは言っても結局はこの学園の生徒です、重い期待を寄せるほど私は間抜けではありません。
 ただ、そんな私の淡い希望すら一瞬にして打ち砕かれました。

 部屋には私の荷物しかなかったのです。
 少し遅れて荷物が着くのかもしれない、最低限の荷物しか持たないタイプで手荷物だけで全て済ましているのかもしれない。
 ありえないと頭で理解しつつもそう逃避しましたが、2つ存在するベットの内のその片方はいつまで経っても埋まることはありませんでした。

 たまたま私が余ったから1人になったのか、父が余計な手を回して1人部屋をプレゼントしてきたのか、それは分かりません。
 でも、私の期待した学園生活は初日で終わってしまいました。
 いえ、そもそも初めからそんなもの存在すらしなかったのです。

 私はただ無意に時を過ごしました。
 父のために人脈を作ろうと頑張る気なんて当然起きるはずもありません。
 かと言って、こんな学園で友達なんて望めるはずもないのです。

 それでも私の周りに人が集まってくるのは、父の影響力ゆえなのでしょう。
 子供との時間を捨ててまで手に入れた、その力の賜物なのでしょう。
 まざまざと見せつけられるその光景は、父の選択が正解だったのだと私に突きつけてくるようにすら感じてしまいます。

 そんなある日、私のクラスに転校生がやってきました。

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