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9話 転校生
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9話 転校生
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その日は朝から転校生の噂で持ちきりで、みんなどこか落ち着きがなく教室もざわざわとしていました。
それは、他の普通の学校と同じようにどんな子が来るのかという期待と不安という面もあるのでしょう。
でも、それ以上にどんな親の子供が来るのかというのが大きいように思います。
この学校はそもそもからして高官や貴族など社会的ステータスが高い家の子供が多く、そうでなかったとしても高い授業料を払える以上お金持ちの家の子ではあり、やはり基本的には何かしらの力を持つ家の子供ではあるのです。
庶民の生まれも全くいないというわけではないが、入試でトップクラスの成績を収め学費の免除の資格を得でもしない限り学費の問題は難しく、各学年に数人程度といった形だと思います。
転入に学費の免除は基本的には存在せず、なので転校生というのは最低でもお金持ちの子供であることは確定しています。
入学からそれなりの時間が経ち、現在クラスは親の繋がりでなんとなくグループ分けされているのですが、転校生はそこに大きな影響を与えるかもしれない存在というわけです。
どこと関連が深いところの子供なのか、もしくはフリー寄りで取り込む余地があるのか。
当然親からもよくいって聞かされているでしょうし、気にならないはずがありません。
そして、担任の先生に連れられて転校生が教室に入ってきました。
まず目に入ったのはグレーがかった白髪の長い髪です。
一目見ただけで、手入れが行き届いたとても手間とお金がかかったものだと分かります。
小柄でほっそりとした体型をしていて、どこか儚げな印象を持ちまるで物語の中から飛び出して来たかのような少女でした。
……可愛い。
息を飲むというのはこういうことを言うのでしょう。
全員の視線が彼女に釘付けにされました。
「……転校して来ました、リーリアです。よろしくお願いします」
その瞬間だけは、クラスメイトの全員が一瞬親の言いつけすらも忘れていたのだと思います。
みんなが普通の子供みたいに、普通の学校に転校生が来たみたいに、好き勝手に彼女のことを周りと話だしました。
そう、彼女の事を。
みんな彼女の親ではなく、彼女自身しか見えていませんでした。
リーリアちゃん、か。
仲良くなれるかな? 周りに釣られてるように私も思わずそんな言葉が漏れてしまいます。
彼女はしばらく何か言葉を続けようか迷うようににしてましたが、結局何も続けづそのまま先生を促して席に着きました。
短い自己紹介だな、その時はそう思っただけでした。
授業をしばらく受けてるうちに、ふと疑問に思いました。
それは他のクラスメイトもそうだと思います。
あの子は結局どこの家の子なんだろう、と。
この学園はもちろん、他にもパーティーなどで有力者の子供同士で自己紹介する際は大抵親の職業や立場もセットで行われます。
この学園では仮に一般家庭の子だったとしても、それの代わりに自分の成績をセットで行われるのが普通です。
この学園に自らが入学出来た理由とこの学園での立場を示す、それが自己紹介での暗黙の了解ってやつです。
それが分からないと、どう関わって良いかも判断が出来ないのですから。
普段なら、自分から言わなかったとしても誰かから聞かれます。
でも、あの瞬間みんなが彼女の容姿と雰囲気に飲まれていて、そんな当たり前のことにすら気が付かなかったのです。
それに、もしかしたら……自己紹介であえて身分を避けて話した様に見えた彼女に少し期待を寄せてしまいます。
彼女の方に視線を向けると、教科書と睨めっこしながら何か悩んでいるようでした。
うん、やっぱりそうですよね。
馬鹿にしている訳ではなく、転入に授業免除は制度上ないとはいえこの学園がそれを理由に天才を入学させないほど頭が硬い訳ではないと思います。
もしかしたらそういう系で、そもそも自己紹介で親の立場も一緒にという認識自体がないという可能性もと思ったのですがそんな訳ではなさそうです。
それにしても……悩んでる横顔ですら絵になります。
授業中でなければ直ぐにでも答えを教えてあげるのに。
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彼女の横顔を眺めていたら、あっという間に授業が終わって休み時間になりました。
……ずっと悩んでたみたいだけど、授業についていけてるのでしょうか?
彼女の事はみんな気になるらしく、あっという間に席の周りに人だかりが出来ます。
私も負けじとその波に、まぁ私を押し除けようとするような人はいないので実際は波に乗るというよりモーゼの十戒のように人並みが割れるといった感じですけど。
これを見るたびに父のことを思い起こされるので正直良い気持ちはしないのですが、今は結構有り難かったりします。
私には確かめたいことがあるのです。
周りの子は少し躊躇っているようです。
それもそうでしょう。
相手の身分が分からないので、下手から行くのも上から行くのもどっちが悪手になるか分かりません。
しかも、彼女は授業でへとへとなのか教科書を枕に机に突っ伏してしまっていますし。
でも、私はこう思うのです。
そういうことを気にするような子だったなら、自己紹介で自らの身分を真っ先に明かすことでしょう。
それをしなかったのですから、こんなの正面から行けばいいのです。
私は、あの自己紹介を聞いて心底仲良くしたいと思いました。
彼女となら、私が本当に欲しいモノが手に入るかもしれないとそう思ったのです。
「ねぇ、リーリアちゃん。……で、名前あってるよね?」
私が声をかけると、彼女はのっそりと顔をあげました。
目を擦っていたのか少し赤くなっています。
どこか眠そう、それに近くで見ると改めて本当に可愛い子です。
私を見て、その後周りをみて少し驚いた様でした。
まぁ、起きて周りにこんな人だかりが出来ていたらそれは誰でもびっくりします。
「私、ヴィーナ。よろしくね」
ちょっとだけ、悪いことをした気がしてしまいます。
でも、私の親の事を知って変に対応されたくなんてありません。
だから、彼女に倣って最低限の自己紹介です。
その上で手を差し出しました。
何処の馬の骨とも分からない、今日会ったばかりのただのクラスメイトの手です。
この手を取ってくれるなら、きっと彼女は相手の事を身分なんかで判断したりしない人です。
私と同じで、この学園に人脈作りに来たのではなくただ普通に生徒として入学してきただけの学生です。
「あ、うん。よろしく」
リーリアちゃんは少し驚いたようですが、躊躇なく私の手を取ってくれました。
……やっぱり、そうなんだ!
すべすべとした手。
ほんのりと暖かく、肌がしっとりとしています。
完璧すぎてまるで人の肌ではないみたい。
自然に頬が緩んでしまいます。
いつも私が意識して浮かべている笑顔が崩れ、心からの笑みが溢れる。
なんだか少し照れくさいです。
「あ、私はジビラだよ。よろしくリーリア」
「僕はミラン、よろしくね」
「私は……
私に続くようにみんなが自己紹介していきます。
もっと話したかったのに……
そう思いながら恨めしいと言わんばかりの視線をリーリアちゃんと話すクラスメイトに送り、しかし直ぐにその想いすら塗りつぶすような高鳴りが私の胸を打ちました。
この光景……
今の私とのやりとりを見てなんとなく勘付いたのでしょうか。
もしくは私と縁のある家の子と思われたのかもしれません。
クラスメイト達のそれは私とリーリアちゃんに倣うかのように、普通に名前を名乗るだけのよくある自己紹介です。
仮に私と縁があると思ったとしても身分を言わない理由もないですし、それでも言わなかったのはたとえ親が親しくなかったとしてもそれ抜きでなんとかお近づきになりたいという思いもあるのだと思います。
一目見ただけでクラスの全員が親の言いつけを忘れてしまうぐらい魅了されてしまった訳ですし、そう思うのも当然なのかもしれません。
リーリアちゃんを中心に形成されたその空間。
そこには私の期待した学園生活、あったかもしれないと思い描いていた光景が少しだけ再現されていました。
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その日は朝から転校生の噂で持ちきりで、みんなどこか落ち着きがなく教室もざわざわとしていました。
それは、他の普通の学校と同じようにどんな子が来るのかという期待と不安という面もあるのでしょう。
でも、それ以上にどんな親の子供が来るのかというのが大きいように思います。
この学校はそもそもからして高官や貴族など社会的ステータスが高い家の子供が多く、そうでなかったとしても高い授業料を払える以上お金持ちの家の子ではあり、やはり基本的には何かしらの力を持つ家の子供ではあるのです。
庶民の生まれも全くいないというわけではないが、入試でトップクラスの成績を収め学費の免除の資格を得でもしない限り学費の問題は難しく、各学年に数人程度といった形だと思います。
転入に学費の免除は基本的には存在せず、なので転校生というのは最低でもお金持ちの子供であることは確定しています。
入学からそれなりの時間が経ち、現在クラスは親の繋がりでなんとなくグループ分けされているのですが、転校生はそこに大きな影響を与えるかもしれない存在というわけです。
どこと関連が深いところの子供なのか、もしくはフリー寄りで取り込む余地があるのか。
当然親からもよくいって聞かされているでしょうし、気にならないはずがありません。
そして、担任の先生に連れられて転校生が教室に入ってきました。
まず目に入ったのはグレーがかった白髪の長い髪です。
一目見ただけで、手入れが行き届いたとても手間とお金がかかったものだと分かります。
小柄でほっそりとした体型をしていて、どこか儚げな印象を持ちまるで物語の中から飛び出して来たかのような少女でした。
……可愛い。
息を飲むというのはこういうことを言うのでしょう。
全員の視線が彼女に釘付けにされました。
「……転校して来ました、リーリアです。よろしくお願いします」
その瞬間だけは、クラスメイトの全員が一瞬親の言いつけすらも忘れていたのだと思います。
みんなが普通の子供みたいに、普通の学校に転校生が来たみたいに、好き勝手に彼女のことを周りと話だしました。
そう、彼女の事を。
みんな彼女の親ではなく、彼女自身しか見えていませんでした。
リーリアちゃん、か。
仲良くなれるかな? 周りに釣られてるように私も思わずそんな言葉が漏れてしまいます。
彼女はしばらく何か言葉を続けようか迷うようににしてましたが、結局何も続けづそのまま先生を促して席に着きました。
短い自己紹介だな、その時はそう思っただけでした。
授業をしばらく受けてるうちに、ふと疑問に思いました。
それは他のクラスメイトもそうだと思います。
あの子は結局どこの家の子なんだろう、と。
この学園はもちろん、他にもパーティーなどで有力者の子供同士で自己紹介する際は大抵親の職業や立場もセットで行われます。
この学園では仮に一般家庭の子だったとしても、それの代わりに自分の成績をセットで行われるのが普通です。
この学園に自らが入学出来た理由とこの学園での立場を示す、それが自己紹介での暗黙の了解ってやつです。
それが分からないと、どう関わって良いかも判断が出来ないのですから。
普段なら、自分から言わなかったとしても誰かから聞かれます。
でも、あの瞬間みんなが彼女の容姿と雰囲気に飲まれていて、そんな当たり前のことにすら気が付かなかったのです。
それに、もしかしたら……自己紹介であえて身分を避けて話した様に見えた彼女に少し期待を寄せてしまいます。
彼女の方に視線を向けると、教科書と睨めっこしながら何か悩んでいるようでした。
うん、やっぱりそうですよね。
馬鹿にしている訳ではなく、転入に授業免除は制度上ないとはいえこの学園がそれを理由に天才を入学させないほど頭が硬い訳ではないと思います。
もしかしたらそういう系で、そもそも自己紹介で親の立場も一緒にという認識自体がないという可能性もと思ったのですがそんな訳ではなさそうです。
それにしても……悩んでる横顔ですら絵になります。
授業中でなければ直ぐにでも答えを教えてあげるのに。
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彼女の横顔を眺めていたら、あっという間に授業が終わって休み時間になりました。
……ずっと悩んでたみたいだけど、授業についていけてるのでしょうか?
彼女の事はみんな気になるらしく、あっという間に席の周りに人だかりが出来ます。
私も負けじとその波に、まぁ私を押し除けようとするような人はいないので実際は波に乗るというよりモーゼの十戒のように人並みが割れるといった感じですけど。
これを見るたびに父のことを思い起こされるので正直良い気持ちはしないのですが、今は結構有り難かったりします。
私には確かめたいことがあるのです。
周りの子は少し躊躇っているようです。
それもそうでしょう。
相手の身分が分からないので、下手から行くのも上から行くのもどっちが悪手になるか分かりません。
しかも、彼女は授業でへとへとなのか教科書を枕に机に突っ伏してしまっていますし。
でも、私はこう思うのです。
そういうことを気にするような子だったなら、自己紹介で自らの身分を真っ先に明かすことでしょう。
それをしなかったのですから、こんなの正面から行けばいいのです。
私は、あの自己紹介を聞いて心底仲良くしたいと思いました。
彼女となら、私が本当に欲しいモノが手に入るかもしれないとそう思ったのです。
「ねぇ、リーリアちゃん。……で、名前あってるよね?」
私が声をかけると、彼女はのっそりと顔をあげました。
目を擦っていたのか少し赤くなっています。
どこか眠そう、それに近くで見ると改めて本当に可愛い子です。
私を見て、その後周りをみて少し驚いた様でした。
まぁ、起きて周りにこんな人だかりが出来ていたらそれは誰でもびっくりします。
「私、ヴィーナ。よろしくね」
ちょっとだけ、悪いことをした気がしてしまいます。
でも、私の親の事を知って変に対応されたくなんてありません。
だから、彼女に倣って最低限の自己紹介です。
その上で手を差し出しました。
何処の馬の骨とも分からない、今日会ったばかりのただのクラスメイトの手です。
この手を取ってくれるなら、きっと彼女は相手の事を身分なんかで判断したりしない人です。
私と同じで、この学園に人脈作りに来たのではなくただ普通に生徒として入学してきただけの学生です。
「あ、うん。よろしく」
リーリアちゃんは少し驚いたようですが、躊躇なく私の手を取ってくれました。
……やっぱり、そうなんだ!
すべすべとした手。
ほんのりと暖かく、肌がしっとりとしています。
完璧すぎてまるで人の肌ではないみたい。
自然に頬が緩んでしまいます。
いつも私が意識して浮かべている笑顔が崩れ、心からの笑みが溢れる。
なんだか少し照れくさいです。
「あ、私はジビラだよ。よろしくリーリア」
「僕はミラン、よろしくね」
「私は……
私に続くようにみんなが自己紹介していきます。
もっと話したかったのに……
そう思いながら恨めしいと言わんばかりの視線をリーリアちゃんと話すクラスメイトに送り、しかし直ぐにその想いすら塗りつぶすような高鳴りが私の胸を打ちました。
この光景……
今の私とのやりとりを見てなんとなく勘付いたのでしょうか。
もしくは私と縁のある家の子と思われたのかもしれません。
クラスメイト達のそれは私とリーリアちゃんに倣うかのように、普通に名前を名乗るだけのよくある自己紹介です。
仮に私と縁があると思ったとしても身分を言わない理由もないですし、それでも言わなかったのはたとえ親が親しくなかったとしてもそれ抜きでなんとかお近づきになりたいという思いもあるのだと思います。
一目見ただけでクラスの全員が親の言いつけを忘れてしまうぐらい魅了されてしまった訳ですし、そう思うのも当然なのかもしれません。
リーリアちゃんを中心に形成されたその空間。
そこには私の期待した学園生活、あったかもしれないと思い描いていた光景が少しだけ再現されていました。
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