兵器な少女

哀上

文字の大きさ
上 下
10 / 27

10話 友達

しおりを挟む
10話 友達
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ただ、実際のところそう見えたと言うだけで、それが私の理想そのものかと聞かれたらいいえと答えるべきなのでしょう。

 この学園は普通とは対極の場所にいます。
 やっぱりクラスメイト達は相手の身分が気になるのです。
 ずっとそうやって生きてきた訳ですし、親の後を継ごうというのならこれからもそうやって生きていくのですから。

 自己紹介もひと段落ついたところで、誰かが彼女に質問しました。

「今ハマってる趣味とかあるの?」

 随分と遠回りな質問です。
 でも、質問した人にもそれなりに考えがあったのでしょう。
 今更それを直接聞くのも憚られるし、まずはなんもない話題からと。

 そして、これは距離を測りかねていた他のクラスメイトにとっても渡りに船だった様です。
 問いをぶつけるという表現が適切でしょうか。
 それぐらい無秩序に、これ幸いと彼女に気になっていたことを聞き始めました。
 遠回りな質問も、それに紛れるように直接的な質問も、大量に。

 リーリアちゃんはそれに一つ一つ丁寧に答えていきました。
 私はこんな状態でも聞き取れるんですね、なんて感心しながらその様を眺めていました。
 しかし、側から見ていてそのやり取りは明らかに不自然なものに見えました。

 趣味だとか、得意な教科とか、彼氏はいるのか見たいな質問には普通に答えるのです。
 ですが、どこの学校から転校してきたのかとか、お父さんはどこで働いてるのかとか、出身はどこだとか、そう言った質問には決して答えようとしませんでした。

 初めは、私はもちろん他のクラスメイトも疑問にすら思っていなかったと思います。
 順番を守って質問していたわけでもなく、みんな適当に彼女を囲んで聞いているのです。
 たとえ偏っていたとしても、そのうち他の質問にも答えてくれるだろう、むしろこんなバラバラに聞かれてるのに一個一個返して律儀な子だなって。

 でも、次第に違和感を覚え始めました。

 リーリアちゃんは、本命の質問つまり彼女の身分に関しての質問に全く答えませんでした。
 ここまでは、自己紹介の時点でなんとなく察している人も多かったでしょう。
 まぁ、聞かれないから答えないのスタンスではなく秘密ってスタンスなのは少し驚きましたが、でもそれだけで別に理解出来ない訳ではありません。
 見られ方が変わってしまうのが嫌だとか、親が好きじゃないから一緒に見られたくないとか、色々あるのかもしれないとそう思うことが出来ます。

 しかし、彼女はそれはその程度ではありませんでした。
 彼女は自分という個人を形づくる過去やルーツに関する質問に一切答えませんでした。
 それこそ徹底的なまでにです。

 これは適当に質問に答えていたから起こった偶然なのでしょうか?
 それとも……
 クラスメイト達は偶然ではないと捉えたのでしょう。
 そう思うと、聞くことも躊躇われてしまいます。

 そして、リーリアちゃんがため息を吐き彼らに薄く微笑みました。
 それは彼女の儚げな雰囲気を増幅させ、場の空気が呑み込まれていきます。
 私もその笑みに魅入ってしまいました。

 その後も休み時間は彼女の周りに人だかりが出来ていました。
 しかし、そういう質問はかなり少なかったように思います。
 もちろん全く聞いてなかったわけではないですけど、答えてくれない以上聞いても仕方ないと言う部分もあります。
 それでも周りにいるのは仲良くしたいという思いがあるからでしょうし、親しくなれば教えてもらえるという思いもあるのかもしれません。

 私もなるべく近くにはいました。
 まぁ、流石にトイレにまでついて行ったりはしませんでしたけど。
 ただ、あの顔を思い出すと話しかけることはどうしても躊躇われ、親しくしたいという私の想いはなかなか成就までは遠い様です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 授業が終わり、放課後になりました。
 結局私はリーリアちゃんに話しかけられていないままでした。
 放課後こそはと思いタイミングを伺っていると、

「じゃあ、今日は予定あるから」

 そう言って、彼女はそそくさと荷物をまとめ今にも教室から立ち去ろうとしています。
 誰かが引き止めると思いました。
 だって、中を深めたいなら放課後は大チャンスなのですから。

「リーリア、今日転校してきたばかりだもんね」

「……残念」

「明日は遊ぼうね」

 しかし、クラスメイトの反応は意外なものでした。
 ここは多少強引にでもお近づきになろうとするのかと、休み時間はあれほど積極的だったのでそう思っていました。
 彼女に気を遣ってるということなのでしょうか?

 いや、私の顔色を伺ってる人が結構いる気がします。
 これは……、なるほどそう言うことですか。
 要は、私と彼女に縁があると勘違いしているのが根幹にあるのでしょう。
 もしかしたら、リーリアちゃんが自分のことを詳しく話さないのも私が口止めしてるからとさえ思われているのかもしれません。

 休み時間は仮にも学園に拘束されている時間であり、そこでいくら近づこうと文句を言われる筋合いはないと言えます。
 ただ、放課後断られたのに無理に行くのは私に睨まれるとでも思っているのでしょう。
 ただの勘違いですが、都合がいいですね。

「あ、待って」

「ん?」

 返事はしてくれましたが、振り向いてはくれませんでした。
 嫌われてる、訳ではないと思います。
 そう思いたいです。
 多分、散々付け回されて本当に疲れてしまったのでしょう。

 さて、話しかけたはいいもののどうしましょう。
 ここでボロを出して、せっかくの都合のいい勘違いを不意にするのは避けたいところです。
 しかし、彼女の視点ではボロも何もただのクラスメイトでしかありません。

 あ、彼女転校してきたばかりですし、もしかして

「リーリアちゃん、寮どこの部屋かとか聞いてる?」

「うんん、今から先生のところに聞きに行こうと思ってたとこ」

「そっか、じゃあ一緒に行こうよ」

 振り返ってはくれましたが、首を傾げられてしまいました。
 なぜって疑問に思っているのでしょう。
 私も多少強引かなって思っています。

 でも、仕方ないじゃないですか。
 仲良くしたいと思っても、なかなか理由が思いつかなかったのですから。
 それに、転校初日で学園内のこと詳しく知らないでしょうし、一応の親切心もあります。

 下心ではないのです……本当ですよ?

「こっちだよ」

 女は度胸です!
 えいっ、と勝手に手を引いて教室から出ます。
 一度握手したとはいえ、手に勝手に触れるなんて反射的に振り払われてしまうかもって不安でしたが、そんなことなく手を引かれるままついてきてくれました。

 これ、結構好感度高いって思っていいのかな?
 同級生と手を繋いで歩く、結構密かに夢だったのです。
 やった!
 やっぱり、女は度胸ですね。

 これはもはや友達と言っても過言ではないのではないでしょうか?
 確認する勇気は……
 否定されたら泣いちゃいます。

 それに、まさか邪魔が入らずリーリアちゃんと2人になれるなんてラッキーです。
 あの時の私の好判断に感謝ですね。
 まさか、はじめに話しかけたのと握手がこんなに効果的だったなんて想像もしませんでした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しおりを挟む

処理中です...