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第八話 この幼女……まさか……

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 第八話 この幼女……まさか……
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 元は他人の魔力だもんね、成長なんてするはずないよね。

 ……現実とは残酷なものである。

 どう頑張っても魔法が使えなくて、使えるようになるきっかけのようなモノすらつかめそうになかった。なんとか抜け道のような物を見つけて、魔力を手に入れ簡単な魔法なら使えるようになった。でも、その魔力が成長することはない。

 一方、隣ですごそうな魔法陣を描いている幼女。こいつは一瞬で魔法を使えるようになったしはじめっから魔力量があほみたいに多かったし、その上ありえないほどの速度で成長している。今では明らかに複雑そうな魔法にまで挑戦し始めている。

 これが、才能の差という奴だろうか?

「おねえちゃん?」

 なんと、こんな複雑そうな魔法陣を描きながら普通に日常会話すらできるらしい。俺はものすごく集中しないと軽いものですら制御が乱れて落としてしまうというのに……

 実にひどい話だと思わないか?

「自業自得では?」「幼女に貢がせるような人間の屑への天罰」「これは残当」……うるさい、黙れ。

 なぜだろう? あるはずもないコメントが見え、聞こえるはずのない幻聴が聞こえる気がする。

 ……ハッ!? まさかこれが覚醒した俺の真の力! なわけ。仮にそれが真の力だったとして何に使うんだよ。常に幻覚と幻聴症状に襲われるって、それただの末期中毒者じゃねぇか。

 まぁ、成長しないなんて言っても所詮は俺が出した結論でしかない。当然ながら俺は魔法の専門家でもないし、深い造詣があるわけでもない。そんな素人が出した結論なんてあてになるはずもなく、ここから何かしらの方法で成長させることが出来る可能性は大いにある、はず。

 というか、あってほしいと願っている。

 根拠なんて言うのはどう頑張っても無理だったという俺のいわゆる経験則からくるもので、しっかりとした理論に基づいたものでもないんでもない。ただ、俺の直感がもう成長しない気がするとささやいてくるのが唯一の懸念点である。

 所詮直感なんてと思うかもしれないが、人間の直感というのは侮れない。たまに直感の優れた人のことを第六感がどうたらなんて言うことがあるが、人の直感というのは実に9割の的中率を誇ると割れている。これは、全人類第六感覚醒済み説ある。

 で、この的中率9割の俺の専属占い師が言うには、俺の魔力に成長は見込めないから清くあきらめろということらしい。なんて野郎だ。

 いろんな意味で俺の異世界での魔法ライフは危機に瀕しているわけだが、別に現状をそれほど問題視していない。それは、魔法なんてどうでもいいなんて明らかな強がりのような現実逃避でもなければ、魔力を操作して軽いものを動かすだけのゴミ魔法で人生逆転できるような素晴らしいアイデアを思い付いたからというわけでもない。

 本当に単純な話で、確かに魔力が成長する気配は一向にない。でも、魔力というものを知覚して魔法を使うようになってから現在まで確実に魔力量を増やせてこれているからだ。

「おねえちゃん?」

「ん? なんでもないよ」

 俺がボケっと考え事をしていたからか、いつの間にか幼女が魔法の練習をやめて俺のことを覗き込んでいた。どうやら、俺のことを心配してくれているらしい。

 ……か、かわいい。

 これからやることを思うと罪悪感ががが……でも、俺こうでもしないと魔力増えないし、仕方のないことなんだ。どうか許しておくれ。

 辺りを見回すと、少し太陽が傾いてきている。まぁ、あれが本当に太陽なのかなんて知らんけど。

「もうそろそろ暗くなってきちゃうし、お開きにしよっか」

「はーい!」

 幼女は元気に返事をすると、俺の胸に手を当てる。初めは不思議な感覚だったが、もう慣れたものだ。魔力を流されるという感覚も。

 そう、俺は全く成長しない魔力を増やすために、日々少しずつ幼女に魔力をもらっているのである。これ、いわゆる分け与える行為に当たるらしく、幼女の元の魔力も減ってるっぽいんだよね。

 俺の魔力は一向に成長する気配がないのだが、魔力を入れる器の方は幼女にタップタップにしてもらっていろいろ魔力を使ってると少し広がってくれるのだ。その隙間を埋める感じで、毎回魔力を少しもらっている。

 初めに魔力もらった時も罪悪感を感じたが、こう継続的にとなるとさらに罪悪感が……それに、精神年齢30手前のおっさんが幼女に貢いでもらってるとか、あまりにあんまりな気がしないでもない。

 なら、諦めればいいだろ? 何を言っているんだ。せっかく異世界に転生したのに魔法使えないまま一生を終えるとか意味わからんだろ。

 魔法なんて非現実的なものにあこがれた中二病患者が、魔法の実在する異世界にきてそれでも結局魔法は使えないままとか、かわいそうだと思わないのか?

 食い物にされている幼女の方がかわいそう? ……そういう意見は聞いていない。

 実際、何とかしようと努力自体はしたのだ。魔力が成長しないのはわかっていたから、ならせめてほかの人から正当に魔力もらえばいいのではないか? と。

 この世界、普通に人が売ってる人権とは何のことだみたいな世界なわけで。多少値が張るが、魔力のある人間が手に入らないということもないのだ。特に、奴隷商を通さず直接買うとかなり安い。

 それぐらいの価値しかないので、頼めば結構簡単に貸してくれたりもする。そうやって手に入れた奴隷でいろいろ試してみたのだが、魔力の譲渡というのは案外高等技術らしい。全く成功しなかった。

 この幼女、魔法が使えるようになったその日に使っていた気がするが……

 それに量の問題もある。魔法の使える人間というのはやっぱり結構希少なようで、安いといっても多少ネガはある。さらにそうやって手に入る魔力持ちは総じて量が少なくて、俺と同量程度なんなら俺より少ないなんてのもざらだ。

 それでは、どこまでこの方法で成長できるのかというのに疑問符が付く。

 例えば、何とか教え込むことに成功し、魔力の譲渡に成功したとしよう。しかしそいつが譲渡できるのは数回で限度、簡単に搾りかすになってしまう。訓練させれば多少量が増えるのかもしれないが、結局端から俺に奪われる以上その未来は確定している。

 そして、次の奴隷にはまた魔力の譲渡法を教えるとこから始まるわけで。明らかに効率が悪すぎる。あと、魔力を完全に搾り取られた人間がどうなるのか、あまりいい結果になるとは思えないので邪悪すぎるというのもある。

 というか、俺がもらっている魔力なんて幼女の魔力量からしたら本当に微々たるものだし……

 なんたって俺と幼女の魔力量の差は天と地ほどの差があるわけで、器は広がってくれるといってもやっぱ才能はないわけでそれほど大きくなるわけじゃない。それを埋めるだけなわけだし、それを圧倒上回る量毎日魔力が増え続けいるのだから別にこのままでよくないか? 

 そんな些細な量の魔力で魔法使いの弟子になれるなら儲けものだろ? 全然魔法が使えなくて、師匠として失格もいいところという問題点は一旦おいておくとして。

 そう思うと、変に罪悪感を感じていたのがおかしいのではないかという気分になってくる。実に不思議なものだ。

 このまま、この幼女に貢がれ続ける人生というのもそれはそれで……

「おねえちゃん、どうしたの?」

「何でもないよ。ただこの世の善悪について考えていたんだ」

 幼女に貢がせるおっさんは悪人なのか、そうではないのか。……字に起こして改めて考えてみると、やっぱりひどいな。

「ぜんあく? おねえちゃんわるいやつらとたたかってるの?」

「そうとも言えるし、違うともいえる」

 ま、まぁ。今俺は自分と戦っているわけで、俺が悪だといえば悪と戦ってる正義の味方と言えなくもない。
 ……ん? 俺が悪なら俺が正義?

「??」

 幼女も混乱しているが、俺も混乱してきた気がする。やっぱ、頭であれこれ考えるのはあんまり向いていないな。

「結局は見方次第だって話しだよ。善悪なんて、見方次第でどちらにでも揺れ動く不安定なものだから」

 もう、これでいい気がしてきた。幼女に貢がせるのが善か悪かなんてそんなものどうでもいい。どうでもいいよね?

 結局貢いでる奴がどう思ってるかで、貢いでる幼女が現状に不満がないならそれまでだ。全く問題ない。よし、正当化完了。

「?? せいぎはせいぎじゃないの?」

 かわいく首をかしげる幼女。実に純粋だ。

 得意げになって小難しげなことを語る少女と、それを聞いて疑問符を浮かべる幼女、実に平和で誰もが笑顔になる光景だろう。身を削って貢いでる幼女と貢がせてるおっさんという前提を除けば。

 ……そういえば、この幼女いったい何者なのだろうか。いままでただ天才なんだろうなって流していたけど、ただの天才なんてレベルじゃない気がしてきた。

 魔法に目覚めたときから俺の数10倍の魔力を有し、さらにそこから成長しいまや数百倍。実は魔王でしたなんて言われても「あー、何となくそんな気がしてた」で流してあまり驚かない自信がある。

 ……ん?

 いわゆる中世ヨーロッパ風な王道のファンタジー世界。庶民の家生まれで幼いころから魔法を使いこなし、膨大な魔力を持つ。しかもそれは成長し、今やバケモノレベル。偉い魔法使いになんて会ったことないので想像でしかないが、奴隷を大量に見て予想するに賢者なんて存在にすら匹敵しているのではないかという量だと思う。

 いくら天才とは言っても、これは行き過ぎでは? 

 そもそも、魔法を使えるというだけで優れた存在なわけで、さらにそれを戦力として使えるとなれば超エリートだ。ここら辺からすでに天才と呼ばれる人種であろう。そのさらに一握りが、賢者と言われる魔法の頂に到達する。

 俺の想像でしかない、でも幼女にしてそれに並ぶのではと思わせるほどの存在。王道のファンタジー世界で、特別な出生もなく唐突にそんな存在が現れる。

 そんなことが、もし仮にあり得るとしたら?

 この幼女……まさか……

 ……。

 もしかして、この世界の主人公だったりします?

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