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続 2章 新たな日々

12-2. ひとりでのあふれの対応

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 付与と孤児院でのお手伝いが終わってブランと部屋でのんびりしていたところに、チルダム司教様が入ってきた。

「ユウさん、キバタの上級ダンジョンがあふれました。対応に参加されますか?」
「はい。ブラン、いい?」
『ああ』

 キバタは王都の隣領だ。チルダム司教様によると、すでにギルドからBランク以上の王都にいる冒険者にも招集がかかっているらしい。もうすでに出発しているかもしれない。中央教会からも人を派遣する。
 僕たちが襲撃されてから、初めてのあふれの対応で、さらにアルはリネと一緒にダンジョンに行っているので、初めての一人での対応だ。と言っても、僕のあふれの対応には教会の人が同行してくれることになっているので、一人にはならない。
 誰を同行させるかなど準備があるからと、とチルダム司教様は慌ただしく出ていった。僕は物資が準備されるまではやることがない。下手に出歩くと邪魔になりそうなので、大人しく部屋で休んで、翌日の出発に備えて体力を温存した。

 翌早朝、物資を収納するために教会の倉庫に行くと、ライダーズの二人、トーゴさんとナバルさんがいた。ライダーズは七年前、ホトのあふれのときに僕たちの護衛についてくれたパーティーで、それ以来交流がある。けれど二人はキトキガを拠点に活動していたはずだ。

「よお、坊ちゃん」
「お久しぶりです。今は王都ですか?」
「商会の護衛でね。免除申請に来たら、ギルドに頼まれたんだよ」

 免除申請って何だろう、と思ったら、顔に出ていたようで説明してくれた。
 冒険者には強制招集に答える義務があるため、理由もなく招集を断ると一ランク降格のペナルティがある。けれど、怪我をしていたりすでに依頼を受けていたりと、正当な理由がある場合は、招集も免除になる。ただこのペナルティ、あふれの対応にあたるギルドにはいちいち全冒険者の行動を把握している余裕はないので、よほど悪質でなければ実際に罰せられることはない。今までに実際に降格になった例だと、招集を無視して遊んでいるのを複数の冒険者や街の人が見て、ギルドに苦情を寄せた場合だけらしい。それも、嫌がらせで嘘の報告がされるのを防ぐために、かなりの数の苦情が来なければお小言をもらう程度で終わるらしい。
 それでも、真面目に活動している冒険者は、ややこしい事態になるのを避けるために、こういう理由で行けないと届け出る。それが免除申請だ。

 商会の護衛で王都にちょうど来ていたので、免除申請のためにギルドに顔を出したら僕の護衛を頼まれ、商会の護衛はギルドが交渉して別の冒険者に変わった。僕が知らない冒険者を警戒してしまうから、顔見知りを探してくれたのだろう。
 話は移動中にしようと言われ、まずは荷物をアイテムボックスに収納していく。

「この一角は冒険者ギルドへ、ここは教会へ、そちらが領主館へ、あちらが軍の後方支援部隊への物資です」

 軍の支援物資をここまで運んできたんだろう担当者の人がすごく緊張しているけど、そんなに警戒しなくてもちゃんと運ぶから。王様に運びませんって言ったことが伝わってるんだろうけど、合意したことに対してごねたりしないよ。
 僕たちの出発に合わせるために大急ぎで荷物を詰めたのか、みんな疲れが見えるので、徹夜だったのかもしれない。

 僕が運ぶあふれの物資は、馬車の荷台だったり同じような大きな箱に詰められているが、いつからか、箱に付けられている布が赤いものはポーション類、青が水、黄色が食料、黒が武器と分かりやすく分けられるようになった。今回は王都に近いからか、食料は少なく、ポーションと武器が多い。周りに街がたくさんあるので、食料はそこから集まると考えているのだろう。
 ライダーズが護衛するはずだった商会も、予定と品を変えて、キバタの近くの街へ食料を運ぶそうだ。あふれた街の近くにいる商会は、後方支援の前線となっている街から少し離れた危険のない街へと不足しそうな商品を運ぶ。周りの街には避難民だけでなく、現場へ向かう途中の冒険者が来ることで、食料や武器などが足りなくなるので、商会にとっては人助けでもあり、商売のチャンスでもある。紳士協定として、平時の値段より少し安く売ることになっている。

 荷物の収納が済んだので、僕はブランに、同行の人たちは馬に乗って、キバタの近くの街へ向かう。王都からキバタの間は街道もしっかりと整備されているので、走りやすい。ユラカヒへ行く途中にある街なので、僕も何度も通っている。けれどそのときはアルも一緒だった。今回は僕ひとりだ。
 教会から同行するのは、ツェルト助祭様だ。僕の世話係であることに加え、馬の産地の出身で乗馬が得意だからと選ばれたらしい。
 軍の護衛は個人的にはいらないんだけど、付けないわけにもいかないからと、一番最初のフスキのあふれに同行してくれた隊長さんと隊員さんたちだ。同行者が全員僕の顔見知りで占められているのは、僕が知らない冒険者を怖がったことが冒険者ギルドから報告としてあげられているのかもしれない。気を遣ってもらってありがたい。

 一日で後方支援の拠点である、キバタの一つ手前のタハウラまで移動するために、街道を駆け抜けた。
 タハウラに着いた時点で僕はフラフラだ。今回は、教会がブラン用に特別にあつらえた鞍を使っているのに、一人ではうまく衝撃を吸収できなかったらしい。

 あふれの対応に僕だけが参加すると決まって、アルと教会がまずしたことは、僕のために鞍を作ることだった。
 ブランはいつも揺れないようにしてくれているけど、僕が一人で乗っているときは、よほどのことがなければブランは走らない。長距離を移動するときはアルが支えてくれるし、僕はただアルに体重を預けて、ブランのふわふわの毛を足で感じているだけだ。
 けれどあふれではスピードが重要だ。それで、僕が一人でも乗れるようにと鞍を作ってくれた。
 何度か実際に乗って走ってみたけど、半日も連続で乗ってみたことはなかった。練習しておくべきだったなあ。

「ユウさん、もう少し頑張れますか?」
「はい……」
「助祭様、軍の物資は明日にしましょう。それよりも住民への物資を優先してください」
「そうですね。このまま教会へ向かいましょう」

 予定を変えて申し訳ないが、これ以上移動に耐えられる気がしないし、周りにもそう見えているようだ。
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