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続 4章 この世界の一人として

14-7. リネと一緒にダンジョン攻略

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「ユウ、孤児院でトラブルがあったと聞いたが」
「トラブルじゃないよ。大丈夫」

 ダンジョンから帰って早々、アルが心配してくれているけど、あれはトラブルというほどのものじゃない。あの子に言われたことよりも、甘い考えを司教様に諭されたことのほうが、僕としては身につまされた。アルにも以前そんなにいろいろ抱えようとするなと言われちゃったし、多分僕は自分で思う以上にあれこれ手を出しすぎなんだろう。
 それよりも僕にとってはもっと重大なことがあった。

「ティガーのみんなに行きたいダンジョンを聞いたら、ブロキオンに興味があるって。それでブランが乗り気になっちゃって」
『行くぞ』

 前のめりに答えるブランに、アルが苦笑いしている。だけどブロキオンに行くなら、まずティガーのみんながゾヤラまで移動しないといけない。あそこは人が多いから、獣道にも一緒に潜ってもらったほうがいいだろうけど、彼らの移動の時間も考えなければならない。冬にはカークトゥルスで合宿だから、最近獣道はモクリークの東側のダンジョンに潜っている。

「ブラン、ブロキオンは来年の春でいいか? 獣道はカークトゥルスの近くにいるんだ」
『仕方ない』

 ブランは不満そうだが受け入れてくれた。今からブロキオンに移動して、カークトゥルス合宿がなくなるよりはいいと判断したようだ。
 ティガーのみんなとは王都近くのダンジョンに潜って、冬のカークトゥルス合宿後、ティガーと獣道と合同でブロキオンに挑戦する予定になった。
 ブロキオンに行くのは決定事項だ。もう僕だけ教会に置いていってくれないかな。ブランとリネが大暴れして、また売れない剣が増えて、せっかく空けたアイテムボックスにまたものが増えてしまう。ここは責任を取ってティガーの三人に引き取ってもらおう。
 落ち込んでしまった僕をアルがなだめてくれるけど、しばらくは立ち直れそうにないから、甘やかして。


 ティガーと氷花の合同ダンジョン攻略の日、僕たちは教会からダンジョン前に直接乗りつける。ティガーのみんなは先についているはずだ。
 リネに乗って空からの風景を楽しみながらダンジョン近くの街道そばの草原に着陸すると、街道を移動している冒険者たちが慌ただしくなるのが見えた。アルによると、リネと一緒のダンジョンに潜るために急いで向かう冒険者が多いものの、一緒になるのを避けるために取りやめる冒険者もいるらしい。取りやめるのは、リネの攻撃に巻き込れることや、神罰自体を恐れる人だ。後は単純に人が増えるのを避けたい人もいる。
 合同攻略には、サンギョの街から少し離れたところにあるダンジョンを選んだ。サンギョは王都ニザナと、かつてシリウスが拠点にしていたハザコアの間にある街だ。

 ダンジョン前に着くと、ティガーの三人が待っていた。ティグ君が目立つのですぐ分かる。僕たちもブランが目立つから同じように気づかれているんだろうな。

「待たせたな」
「いや、情報収集していたところだ」
「お待たせしました。ティグ君、元気だった?」
「ぎゃう」

 ティグ君がリネを気にしながらブランに近寄って首筋をこすりつけて挨拶しているのが、とっても可愛い。リネはそんなティグ君には我関せず、アルの肩に止まって、早くダンジョンに入ろうと主張している。
 ティグ君を撫でたいけど、ここでブランにへそを曲げられても困るし、入り口近くにいて通行の邪魔になっていそうなので、リネの言うとおりまずはダンジョンに入ろう。

 ダンジョンに入ると、リネは何も言わずに、アルの肩からティグ君の背中に移動して座り込んだ。アルの肩の上よりも気に入ったようだ。リネは安定感のある便利な乗り物と思っていそうだけど、乗られたティグ君は嬉しそうに「んにゃ、ぎにゃ」と鼻歌を歌っていそうな小さな鳴き声をあげていて、テイマーさんだけでなく周りの冒険者も微笑ましそうに見ている。

「ティグ、ご機嫌だな」
「俺も初めて見るよ。よっぽど嬉しいんだな」

 ブランとリネのそばにいるというのが、本当に嬉しいんだろう。ここがダンジョンでなければ、ピクニック中のペットという感じだ。

 少し進んだところで、突然リネが飛んだと思ったら、遠くに見えたモンスターがドロップ品に変わった。
 今回このダンジョン「アケルタル」を選んだのは、ここが「果物ダンジョン」と呼ばれる果物がドロップするダンジョンで、前回リネが楽しんでいたからだ。せっかくティガーの三人と潜るのに、途中でリネが飽きたと言いださないようにというアルの気遣いだ。
 さっそくリネは、ドロップ品の果物を地面の上で突っついて、美味しくないと文句を言っている。

「リネ、前も上層と中層は美味しくないと言っていただろう?」
『今日は美味しいかもしれないでしょ。口直しにプリンちょうだい』
「セーフティーエリアでな」

 ブランがため息をついているけど、今回は違うかもしれないというリネのその前向きさというか、飽くなき挑戦心というか、チャレンジ精神は見習いたい。確かに前回が美味しくなかったからと言って、今回も美味しくないとは限らない。
 それからも、モンスターを倒しては果物をつついている。リネが美味しいと思う果物はドロップしなかったけれど。

 僕は久しぶりにダンジョンでの戦闘訓練を行った。ブランが弱らせたモンスターを目の前に連れてきてくれるので、それを矢で射るのだ。久しぶりだからと、ほとんど動けないくらい弱らせてくれているので、矢は簡単に当てることができる。これで訓練になっているのか疑問だけど、時間があいたのだから、またここから徐々に慣れていくしかない。
 もうそろそろ僕の戦闘訓練は諦めてもいい気がするけれど、ここまでくると止めどきが分からない。
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