世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 4章 この世界の一人として

14-13. 希望が開いた未来

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 今日からアルはリネと一緒にタペラ攻略だ。
 僕だけがユラカヒの街に残ることに渋っていたアルも、街から出ずに待っていると約束すると、納得してくれた。
 アル一人だけでダンジョンに行って何かあると困るので、ギルドから地元の冒険者を一緒に行かせると言われている。その待ち合わせもあって、ギルドに顔を出した。

「よお、久しぶりだな」
「クルーロさん、ミランさん、お久しぶりです!」

 アルのお供は、タペラのあふれで一緒に戦った、ミランさんとクルーロさんのSランク二パーティーだ。
 そして、僕たちが来るということで、あのとき一緒に戦ったパーティーが集まってくれていた。みんなからあのときのお礼を言われて、再開を喜んで、あれからどうしていたかを聞きあって、と会話が錯綜している。やっぱり一緒に死線を乗り越えた、あの体験は特別だ。

「リンバーグのみんなも元気そうでよかった」
「俺たち、Cランクになりました」
「おお、すごいね」
「今度はちゃんと戦えるようになりたいので」

 あのときでも僕より背が高かったけど、もうしっかりとした冒険者の体格だ。ダンジョンに潜り始めてすぐに経験したあの出来事が、彼らの中でどう処理されたのかは分からないけど、今でもダンジョンに潜り続けているならトラウマにはなっていないようで安心した。それに、戦えるようになりたいという言葉で、セーフティーエリアでずっと守られていた彼らは、歯がゆい思いをしていたのだと知った。確率から言えば、同じことは二度とない気がするけど、でも近くのダンジョンがあふれて応援に出向くことはあるだろう。
 魔剣を使っていたアルと救出にきてくれた魔剣部隊への憧れから、いつかはブロキオンで魔剣を手に入れたいと語る彼らの表情は少年のようで、でもその眼差しはしっかりと未来を見据えている。あのときの恐怖と悔しさを胸に、ここまで頑張ってきたのだと思うと、これからの活躍を一層応援したくなる。
 だけど、あの経験をして、保存食の買いだめをしようとまず一番に思った僕は、やっぱり戦闘には向いていないのだと突き付けられた。適材適所、という言葉で自分を納得させるしかないけど、やっぱり悔しい。


 ギルドの用意した馬車でタペラへと向かうアルたちを送りだしてから、僕はギルドマスターに声をかけた。

「王都のギルドに頼まれて、アイスの魔石を持ってきたんですが、どこに出せばいいですか?」
「ああ、聞いている。解体倉庫に頼む」

 食用となる魔物の肉の保存や、薬草の保管のために、アイスの魔石を常備しているギルドが増えた。その魔石が少なくなったので、配達だ。急ぎではないギルドの荷物を、僕のアイテムボックスを使って無償で運ぶと取り決めている一環で、僕が作ったアイスの魔石をギルドが購入して、それを僕が運んでいる。
 ギルドの解体講座は変わらず好評なようで、解体講座のための魔物の箱が積み上げられていた。その箱の中にアイスの魔石を入れて、保存しているらしい。

 解体倉庫からギルドの受付へと戻る途中に、訓練場が見えた。成人したばかりに見える子たちが、訓練している。
 僕が寄付したブロキオンの上層の剣は、試験的に貸し出した三か所での問題をふまえて、初心者講習を受けた新人にだけ貸し出される形になった。
 モクリークには、一か月間の初心者講習がある。これは他の国にはない、モクリーク独自の手厚いサポートだ。この初心者講習を受けた人だけ、初心者講習とその後さらに一か月のあいだ、剣を無償で借りられるという決まりになった。これは、剣を無償で借りられるからと、講習を受けずに魔物を倒そうとする無謀な行動をさせないため、らしい。初心者講習は座学もあるので、面倒だからと受けたくない人もいるが、それは最低限必要とされる知識なので、ギルドとしては受けてほしい。なにより魔物も増えて強くなってきている今、無茶をして冒険者のなり手が減っては、あふれの対応にいずれ支障が出てしまう。それで、剣の貸し出しの条件としたのだ。
 この制度、今のところはおおむね好評だそうだ。剣を買い取りたいとか、お金を払うから期間を延長したいとか、途中で別の剣に変えたいといった要望もいろいろ出ているらしいけど、まずはイレギュラーは認めない方向らしい。
 剣は使っていればそのうち壊れる。けれど今は、僕がアイテムボックスから寄付した剣だけでこの制度を回しているので、いずれは補充が必要になる。そういうのも含めて、しばらくは様子を見ながら運用していくそうだ。


 ギルドでやることは終わったので、この後は屋台めぐりだ。ちょうど朝ご飯とお昼ご飯の間なので、屋台も空いているだろう。昨日の夜お願いしたので、司祭様がついてきてくれることになっている。
 ギルドからそう遠くないと聞いたので、ブランと一緒に歩いていく。ここ最近教会の外を歩くこともなかったので、新鮮だ。

「このあたりは、タペラのあふれで建物が壊れたために、新しく作られたところです」
「だから周りとちょっと違うんですね」

 タペラには飛ぶモンスターがいるので、あふれのときに上空から街に侵入されてしまった。それで被害が出た場所の一つがこのあたりらしい。ドームのように街の上空を覆うことはできないので、タペラのあふれのモンスターから逃げるために、多くの街の人が教会へ駆け込んだ。

「街は壊れ、みな絶望に打ちひしがれていました。けれど、Sランクのパーティーがダンジョンから生還したと分かって、お祭り騒ぎになりました」
「そうだったんですね」
「お二人のおかげです。ありがとうございます」

 あのとき、ミランさんたちはこの街の希望だから無事に帰らなければならないと思ったのは、間違っていなかった。その手伝いができて、僕もうれしい。頑張ったのは僕ではなくて、ブランだけど。屋台では、ブランの好きなものを好きなだけ買おう。

 ブランの鼻が選んだお店に行って、まず一つずつもらって食べてみて、気に入ったら大量購入をお願いする。アルと一緒に行く先々の街でやっていた屋台めぐりは、しばらくやっていなかったので、なんだか懐かしい。気に入ったものを教会の人が買ってきてくれるのは楽だけど、食べ歩きは別の楽しみがある。
 ブランは、付き合ってくれた司祭様が朝ご飯が足りなかったかと心配になるくらいにお魚を食べて、とてもご機嫌だ。この街の未来を守ってくれたんだから、心ゆくまで味わってね。
 この街の人たちは、僕が氷花だと分かると、タペラのお礼だと無料で売り物を渡してくれるから、むしろお金を払うほうが大変だった。今後のためにお願いした大量の料理は、教会に届けてもらおう。
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