世界を越えてもその手は

犬派だんぜん

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続 6章 災禍の中の希望

16-1. ブロキオンに向けて出発

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 毎年恒例のカークトゥルス合宿から王都へと戻ってから、ゆっくりと身体を休めている。二か月近くダンジョンにいたのだから、地上でゆっくりしたい。ブランによると獣道もティガーも、すでにゾヤラにいるらしいけど、僕たちが行くまでは別のダンジョンに潜ると言っていたから、問題ないだろう。

『ユウ、そろそろ行けるよね?』
「うーん、まだなんとなくだるいから、もうちょっと。ごめんね、リネ」

 ブロキオンに行きたくない気持ちが、だるさとして現れているだけで、カークトゥルスの疲れは確かに抜けている。それでも、行きたくない。首なし騎士には会いたくない。アルや助祭様も苦笑しているから、僕の体調が問題ないことはみんなにばれているらしい。

『じゃあ、オレが治癒してあげるよ』
『いつまで休んでいる気だ。もう十分だろう』

 リネだけでなく、昨日までは黙って呆れるだけだったブランがついにしびれを切らしたので、行くしかなさそうだ。僕にはとっても甘いブランなのに、ブロキオンだけはゆずってくれない。そろそろ覚悟を決めるしかないのか。

「ユウさん、いつでも出発できるように準備は整っています」
「そうですか……」

 司教様までブランたちの味方に回ってしまった。これはもう逃げられない。

「ユウ、終わったら温泉に行こう」
「久しぶりにホオカヤチの温泉宿がいい」
「分かった。ブラン、いいか?」
『仕方がない。付き合ってやろう』

 ブランが偉そうだ。まあ実際に偉いんだけど。
 ブランとリネにせかされ、今日の午後出発することに同意した。

 ある日突然この世界に落ちてから、はや十年以上。日本とは違ういろいろなことにも慣れたけれど、どうしても慣れないものもある。一番は衛生観念だ。
 これから行こうとしている上級ダンジョン「ブロキオン」の最下層には、首なし騎士がいる。馬に乗り、自分の首を抱えている騎士。それだけならいいのだ。問題は、その首が腐っていることだ。この世界には魔法があるのだから、防腐処理だってできたはずなのに、どうしてそんなとこだけリアルにしているのか。この設定を採用したダンジョンの設計者を、小一時間ほど問い詰めたい。

 僕の抵抗むなしく迎えた出発のとき――

「ユウさん、頑張ってください。ゾヤラとホオカヤチの教会には連絡しておきますので」
「ありがとうございます」
「終わればご褒美が待っていますよ」

 ダンジョンで戦闘するアルではなく、僕だけが励まされている。仕方がない。これはブランへのお礼だから、頑張ろう。シリウスのみんなも付き合ってくれる予定だから、きっと頑張れる。
 ブランの好物をアイテムボックスにたくさん入れ、ティグ君のための味付けなしのお肉も用意し、いつも以上に応援してくれる司教様や助祭様に見送られ、中央教会を出発した。
 リネに乗って移動すれば、ゾヤラまではあっという間だ。まずはゾヤラで、獣道、ティガー、シリウスのみんなと落ち合ってから、ブロキオンへ向かう。
 出来ればもっと時間がかかってほしいのに、遠くに見えたと思ったらアッという間にゾヤラの上空に到着した。
 街の入り口から少し離れた空き地に着陸し、門へと向かっていると「神獣様だ」という声が聞こえる。

『ティグリスはダンジョンの中層にいるな』
「ブロキオン?」
『別のダンジョンだ』
「そっか。じゃあティグ君が帰ってくるのを待ってから、ブロキオンだね」
『往生際が悪いぞ。先に一度行って、もう一度行けばいいだろう』

 できることならダンジョンに入るのをギリギリまで遅らせたい気持ちがバレている。だけど、今回はティガーのみんなと一緒に行くのが目的なんだから、ティグ君が帰ってくるのを待ってからでいいはずだ。何度も何度も行きたくない。そんなに首なし騎士に会う必要はない。

『すぐダンジョン?』
「獣道と合流してからだ」
『じゃあ、呼んでくる!』

 止める間もなく、リネが飛んでいってしまった。ブランだけでなくリネも乗り気だから、ティガーと合流するのを待たずに、行くしかなさそうだ。ティグ君という癒しがなくて、僕は頑張れるんだろうか。

「ユウ、シリウスと会えるまでは街にいて、追いかけてくればいい。ブラン、いいか?」
『仕方ない。待ってやろう。ダンジョンの上層にいるから、あやつに呼びに行かせよう』

 アルと獣道がリネと一緒に先に潜って、後からシリウスのみんなと一緒に追いかけることになってしまった。もう僕のことは置いていってくれればいいのに。僕を守るために、決して離れようとしないブランの優しさが辛い。
 しばらくすると、獣道を呼びに行ったリネが戻ってきた。

『ギルドで合流しようって』
「分かった。リネ、もう一つ頼まれてほしい。ユウの友人を覚えているか? 一人が狼獣人の三人組だ」
『覚えてるよ。ユウの友だちは、その三人だけだよね』

 嫌味でもなんでもないからこそ、リネの指摘がグサッと刺さる。他にも友だちはいる、と言いたいけれど、どんなに考えても他の友だちが出てこない。ツェルト助祭様は友だち枠でもいいんじゃないかと思うけれど、勝手に言うわけにはいかないので、今度本人に確認してみよう。

「ギルドに戻ってユウと合流してほしいと、伝えてきてほしい」
『いいよ。それ終わったらダンジョンね』

 それだけ言うと、リネはすぐに舞いあがり、一直線に街の外へ向かっている。もうリネの心はブロキオンに飛んでいるのだろう。

 獣道との合流のために冒険者ギルドに入ると、周りから視線が飛んでくる。「神獣様はどこだ?」とリネを探す声に混じって、「魔剣を取りに来たのか」という声が聞こえる。不本意だけど正解だ。
 やることもないので、依頼板をながめて、いまはどんな依頼があるのかを確認しながら、アルと会話をする。

「魔剣の依頼はないんだね」
「獣道に指名依頼であったらしいが、ギルドが受け付けないと決めた」

 マジックバッグと同じく、魔剣も依頼自体を受けないと、ギルドが決めていた。あれはブランが行かなければ出ないと、おそらくギルドも気づいているのだ。

「下層の剣の依頼も少ないね」
「振ってみなければ、合うかどうかが分からないから、依頼としては出しにくいだろう」
「なるほど」
「最近はギルドで本数を集めてから販売会を行っていて、買いたい者はそこに参加する」

 実際に振ってみて合う剣を買うほうが、無駄にならない。僕が寄付した武器のオークション以降、希望が多くて何度も行われているそうだ。あのときの武器のオークションが予想以上に好評だったので、ギルドが商機を見いだした。ただし、オークションではないので、早い者勝ちになる。
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