世界を越えてもその手は 裏話

犬派だんぜん

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世界を越えてもその手は 続1章 神なる存在 の後

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◆モクリークのダンジョン

「お、兄さん、その鳥はもしかして……」
「ああ、神獣ヴィゾーヴニルだ。俺はリネと呼んでいる。リネ、この二人はライダーズというユウも俺も世話になった冒険者だ」
『腹減った。あの甘いやつが食べたい。ユウが気に入ってるやつ』
「ちょっと待ってくれ。悪い、またな」
『早くー』
「あ、ああ。気をつけてな」
「兄さんが神獣様の小間使いっていうのは、嘘じゃないっぽいな」
「なんというか、兄さんは厄介なことに巻き込まれる星の下に生まれたのか?」


◆モクリークで野営中の隊商

『アルの友達見つけたー。なあなあ、食べ物くれ』
「し、神獣様」
「隊商長! 神獣様が!!」
『なあ、食べ物くれって』
「神獣様、アレックスさんは?」
『ユウのそばにいるからって、付き合ってくれないんだよ。ひどくない?』
「そ、そうですか。お食事は何をお召し上がりになりますか? 旅の途中ですからあまりいいものはありませんよ」
『ええー、そうなのー?』
「お前たち、商品の食べ物を全部並べて。急いで! 神獣様、少々お待ちくださいませ。ただいま準備しますので」
「「「は、はい」」」
「神獣様、お待たせいたしました。今持っている食べ物は、これだけしかございませんが、お気に召すものがありますでしょうか」
『うーん、あ、これ旨そう』
「そちらのクッキーは入っているドライフルーツにこだわったものです。お好きなだけお召し上がりください」
『もぐもぐ。じゃあ、またね~』

「神獣様をこんな間近で見られるなんて!」
「私たちラッキーですね。お声も聞けました」
「帰ったら自慢しなくては」
「クッキーをもぐもぐしているお姿も神々しい」
「ライダーズのおふたりには特別報酬を出しましょう」
「それは有難いですが……」
「神獣様がお召し上がりになったクッキーとして、あのクッキーが売れることは間違いありませんから。宣伝お願いしますね。ふふっ。ああ、教会に献上もしないといけませんね」
((さすが商人))


◆モクリーク王宮謁見の間

「みなさま、本日は神獣様のご降臨がありますが、決して個人的に話しかけるようなことはなさいませんように。何があっても教会は関知いたしません。相手は神です。我々は神の僕です。神を怒らせたなら、すなわち我々の怒りも買うということです。くれぐれもお忘れなきよう」
「みな、大司教の言が聞けぬものは今すぐ退出しろ。モクリーク王国は神獣様と良好な関係を望む。神罰を下されたなら、一族郎党この国から追放されると心得よ。この国を私の代で終わらせる気はない」
「陛下、神獣様は宝石以外のことにはご興味をお持ちではありません。王冠にご興味を持っていただけるといいのですが」

『いたいた、空から入れないから入り口が分からなかった』
「グァリネ様、ようこそいらっしゃいました」
『宝石どこだ?』
「こちらにございますよ。グァリネ様、この冠がこの国の王冠で、この方が当代の国王陛下です」
「神獣様、モクリーク王国第七代目国王の」
『うーん、この色はオレ好きじゃない』
「この国の色なので、王冠にもたくさん使われているんですよ。グァリネ様のお好きな色はこちらでしょうか。この国の保有する宝石の中からグァリネ様のお好みに合うものを集めました」
『そうそう、こういうの。あんたよく分かってるな』
(((本当に宝石にしか興味ないんだな……)))

「神獣様! ぜひ、我が領で採掘された宝石をご覧ください!」
「控えよ!」
『どれ? ふーん、これあんたのところの宝石?』
「はい、ぜひ御身に、ぎゃーーぁ……」
(((え、燃えた?!)))
『宝石に呪いがかかってたから、燃やした。人も一緒に燃えたけどいいよな?』
「はい。跡形もなく燃えるのですね」
『呪いを消すのは普通の火じゃできないからな』
「解呪ですか?」
『解呪は面倒だから、燃やした』
「さすがですね。ちなみにどのような呪いでしたか?」
『つけたヤツの意思を奪って命令できる。神獣にあんなの効くわけないだろー』
(((大司教様、ニコニコして会話の内容が怖いよ)))


◆モクリーク王宮

「陛下、神獣様は思ったより小さくていらっしゃいましたね。ですがとても綺麗でした」
「宰相、神獣様にも嫌われてしまったし、私は王太子に王冠を譲って引退したほうがいいだろうか……」
「父上、あれは嫌われたわけではなく、宝石にしかご興味をお持ちでないだけですよ!」
「いいんだ。どうせ私はカリスマ性もない平凡な王だ。二百年周期にこの王で大丈夫かと言われてるのは知ってる。王太子のほうがきっと国民も喜ぶだろう」
「父上、そんなことはありませんよ。襲撃があったのに、テイマーが帰ってきてくれたのは、陛下の今までの功績があったからですよ!」(もう少し休養していただくほうがよいか……)
「陛下、神獣様がご降臨くださったのも、陛下の治世が安定しているからです。自信を持ってください!」(お心が弱くなっていらっしゃる……。この数年のことを思うと無理もないか)
「侍従長、父上は少しお疲れなので、ゆっくりと休んでいただきたい。頼む」
「畏まりました」


◆モクリーク王宮謁見の間

『なあ、あんたたくさん宝石持ってただろ。新しいの増えた?』
「し、神獣様!」(神獣様が私に話しかけられた、だと?!)
「最近新しく献上された宝石を全て持って来てください! 急いで!」(陛下、嫌われていませんでしたよ!)
「ただいま持ってまいりますので、しばらくお待ちください。使者殿、済まないが一端中断だ」(ここは王としてしっかりせねば)
「は、はい。いくらでも待ちますので」(神獣様にお目にかかれるなど、なんという幸運。思ったより小さくていらっしゃる。帰ったら自慢しよう)

「謁見の間に神獣様がいらっしゃっている!」
「なんと! これはお目にかかる機会だ」
「お待ちください! 勝手に入られては困ります!」
「我々が先だ! どけ!」

「神獣様! 私はノーホーク王国外務大臣でございます。こちら、ノーホーク王国の宝石でございます。どうぞ御覧ください!」
「神獣様、こちらはソント王国の宝石でございます!」
『うーん、お、これいいかも』
「我々の国にいらっしゃれば、このような宝石がたくさんございます! ぜひ、ギャアッー!」
『触るな』
「宝石をっ、お持ち、しましたっ」(ぜいぜい。王宮を全力疾走って初めてだ。あれ、何が起きてる……? わ、目の前に神獣様が!)
『うーん、お、これ気に入った。貰っていっていい?』
(俺に決定権はありません。陛下!)
「ど、どうぞ、お好きなものをお持ちください」
『きらっきら~ぴかっぴか~~♪』
「「「……」」」(あっという間に去っていかれた)
「ノーホークとソントの使者よ、勝手に謁見の間に入った挙句の神獣様への暴挙は許せぬ。即刻モクリークから退去せよ。今後この国への入国を禁ずる。国にも厳重に抗議する」
「だれか、至急中央教会に今起きたことを伝えてください」
「今後、献上の宝石はすべてここ謁見の間で管理することにしよう。宰相、手配を」
((陛下が自信を取り戻されたようで、一安心))


◆モクリーク中央教会

『見てみて~、新しいの貰ってきた~』
「グァリネ様、綺麗ですね。どちらからですか?」
『隣の建物』
「グァリネ様のコレクションに加えておきましょうね」(王宮に確認を取ってください)
『なあ、撫でてくれ』
「畏まりました。今日は素手をご希望でしょうか? ブラシでしょうか?」
『んー、素手。アルの素手はごつごつしてるから』
「アレックス様は剣士ですからね」
『ユウの手は気持ちいいんだけど、マーナガルムが怒るんだ』
「ユウさんはマーナガルム様の愛し子ですものね」
『アルが、ユウといたいからってなかなかダンジョンに行ってくれない』
「おふたりは恋人ですから、片時も離れていたくないのでしょう」
『ユウを悲しませるなってマーナガルムが怒るし』
「グァリネ様、我々でしたらいつでもお話を伺いますよ」
『うん。もっと撫でて』
(((まさかの神生相談……)))


◆モクリーク王宮の庭&中央教会

「なあ、最近植物がやけに元気じゃないか?」
「いいことだろう?」
「おまえ肥料やったか? あんまりやると来年に反動が来るだろ」
「いや、やってないぞ」

「庭師長、最近我々の担当の庭の植物の調子が良すぎるように感じます。肥料は入れてないのですが」
「お前たちは、噴水の東が担当だな。その近くで誰か肥料を入れたか?」
「噴水の西は花が荒らされているのですが、たしかに植物自体は調子がいいですね。肥料は入れていません」
「荒らされているとは?」
「おそらく鳥が蜜を吸おうとしたのだと思うのですが、花ごと千切られていたり、花自体がなくなっていたり、例年よりもかなり多いです」
「鳥の数に変わりはないように思うが、どういうことだ」
「あの、もしかしたら、違うかもしれませんが……」
「見習いと言えど、気づいたことは報告するように。間違っていても怒らないから」
「はい。先日、見たことのない鳥が噴水で水浴びをしているのを見かけました。その、もしかして、噂の神獣様だったりしませんか……」
「「「あっ……」」」
「それは可能性としてありそうだ。教会に確認してみよう」
「神獣様の効果で植物が元気なのか」

「グァリネ様、王宮の庭の噴水で水浴びされていますか?」
『王宮って隣?』
「そうです。たくさん宝石を持った王のいるところです」
『あそこ水浴びにちょうどいいんだよ。水が吹き上がってて楽しいし』
「花の蜜をお召し上がりになりましたか?」
『甘いやつ、たまに舐めたくなるんだ~』
「では、噴水の周りに蜜のある花を植えてもらいましょうね」


◆モクリーク中央教会&王宮の庭

「グァリネ様、お帰りなさいませ。ダンジョンはいかがでした?」
『あんまり強いのがいなくてつまらなかった』
「それは残念でしたね。お隣の王宮の噴水が綺麗になりましたがご覧になられますか?」
『行く!』
「お供してもよろしいですか?」
『いいよー。ユウも行く?』
「王宮は行きたくないけど、ちょっと見てみたい……」
「ユウさん、一角が立ち入り禁止になっていますので、人はいませんよ」
「大司教様も一緒なら大丈夫だろ。ユウ、行ってみよう」
「ブラン、いい?」
『ああ』

「わあ、すごいね! お花が綺麗だし、噴水も豪華」
『みっずあ~び、みっずあ~び、ばっちゃばちゃ~♪』
(し、神獣様が、目の前に!)
(庭師になってよかった!!)
「これは見事ですね。水の底はグァリネ様のお好みの宝石ですか」
「へ、陛下より、この宝石を使うようにと……」(価値の低い宝石でも、俺たちが一生かかっても買えないものですよ)
「リネ、気に入ったか?」
『うん。きらきらしてる。あ、この花、甘いんだよー。むしゃむしゃ』
((食べた!? なるほど、花が荒れていたのはこれか))
「グァリネ様がいらっしゃってから、このあたりの植物の調子がいいようですよ」
『オレ、慈愛の神獣様だからね!』
「グァリネ様のお優しさが植物にも伝わるのですね」
『花咲け、花咲け、蜜を出せ~♪』
(((え、そっち? 蜜を食べるためなの?)))


◆モクリーク王宮謁見の間

「(陛下、噴水に神獣様がいらっしゃっています)」
「使者殿、よければこの国の自慢の庭をお目にかけよう」
「是非にも」(話の途中に、突然なんだ?)
「皆様、どうぞそのまま回廊へお進みください」
「この回廊から庭がよく見渡せるのだ。あの噴水に、今ちょうど神獣様がいらっしゃっている」
「な、なんと! 神獣様が!」
「ダンジョンにお出かけだと伺っていましたが」
「戻られたところだろう」
「鮮やかな色合いでいらっしゃるのですね。あのウルフは……」
「時々神獣様が水浴びにいらっしゃるのだが、今日は契約者様とアイテムボックス保持者も一緒のようだ」
(モクリーク王国との仲は良好ということか……。アイテムボックス持ちだけでも我が国へと思ったが、残念)
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